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第572話


 俺たちは、今晩起こったことを他の仲間に説明をした。

 レトの事も、ウルクの事も、チビ神の事も、やはり各々ショックを受けていた。

 そして、この件で俺たちの今後の動きが大きく変わる事を、俺はみんなに告げる事になる。




 「この国を出る………!?」



 レイは俺のこの言動に驚きを隠せなかったようだ。

 というより、次に向かう場所に驚いていたらしい。



 「何故だ? 最終的な目的地であるのは知っているが、時期が早すぎる。これではルナラージャを引き付けて、両国が合併する前に叩くという作戦が成立しない。作戦を中断する気か?」



 こいつの動揺もわかる。

 これでは今までの作戦が水の泡となってしまうからだ。

 だが、そうするだけの理由はある。



 「もう陽動は意味がない。そもそも、俺たちが今まで姿を隠して行動していた理由は両国に警戒されて合併を早められないためだ。ガッチリ固められたら戦力差は凄まじい事になる。こうなった以上、どうあってもバレるから、せめて戦力の小さいルーテンブルクを倒さねぇといけないンだよ」


 「っ………だとしてもミラトニアに帰るのではなく、なぜルーテンブルクに向かうとわかるんだ?」


 「あいつは、神を喰らうと言っていた。だとすると、多分俺ではなく、同盟国になっていて入り込みやすいルーテンブルクに向かうと俺は思った。肉体は王女だからどうにでもなる。入り込みやすさで言うならルナラージャも同じだが、当代の命の神には以前負けてる上に今の状態じゃ確実に勝ち目はないしな」


 『そうそう。いかにミーの本体でも、今は雑魚も雑魚。ゴミ屑みたいなもんだからねー』


 「そうさな………ん?」



 何となく聞いたことのある声。

 この声はまさか………



 『やほ、ケンちん』



 ビンゴ。

 俺の懐にある、黒い塊から発せられた声だった。

 つまり、



 「お前………チビ神か!?」



 先程ウルクに乗り移ったはずのチビ神だった。



 「「「!?」」」



 全員が警戒する。

 ついさっき黒幕だと話したからこうなるのも当然だ。

 俺もかなり警戒してる。



 「おい、そいつぶっ壊せ!!」



 ニールは剣を向けてそう言った。



 「私もそれについては同意だ! 早急に駆除しろ!!」



 レイも剣を構えている。

 だが、妙だ。

 一切敵意を感じない。

 油断する訳ではないが、何か出てきたわけがあるのだろうか。

 会話するくらいなら問題ないだろう。



 「落ち着けお前ら。多分、壊すにはまだ早い」


 「何故だ!? こいつはあろうことかレトを殺し、バルドを苦しめ、ウルクを弄んだ小根の腐った害虫だぞ!!」



 ニールの語尾には微かに怒気が混じっていた。

 やはり気に食わないのだろう。

 俺だってそうだ。

 でも、待ってほしい。

 そう思っていると、

 


 「ニール。待って」



 リンフィアが、ニールの腕を掴んでいた。



 「リンフィア様………………」


 「大丈夫。ケンくんは考えなしにこんなことを言うような人じゃないですよ。ね」


 「リフィ………ああ。もちろんだ」


 「っ………………はぁ………わかりました」



 ニールは仕方なさげに肩を落とすと、リンフィアの言う通り引き下がった。

 レイはと言うと、こちらはミレアが収めたおかげでニール同様渋々何も言わなくなった。


 正直助かる。

 おかげで話が進められそうだ。



 「で、どういうつもりだ。何のつもりか知らんが、あまりこっちは歓迎するつもりはねーぞ」


 『分かってる。だから、一度君達からミーに対する信頼を取り戻す機会を貰おうと思ってね』


 「へぇ、でどうする気だ?」



 何を考えているのかは知らないが、主導権を握らせるわけにはいかない。

 多分一番頭の働く俺が信じるような雰囲気が出て仕舞えば、全員一気に流されるかもしれないのだ。

 それは避けなければ。



 『んー、やっぱり無条件じゃ信じてくれないみたいだね』


 「そういうわけにもいかねーさ。わかってんだろ? こっちは1人を拐われ、1人を殺されてる。どうあってもお前の本体だけは徹底的に追い詰めて殺すつもりだ。下らんプライドを粉々にして、な」


 『………そっかー』



 チビ神はやけに淡白にそう言った。

 仮にも自分のことだろうに、何故そこまで興味無さげに出来るのだろうか。



 「………お前、何でそんなに冷静なんだ?」


 『仕方ないよ。あれはまた繰り返そうとしてるんだからねー。愚かなことに過去の過ちを思い出す事もなく。全く………“シューメイ” が嘆くよ』


 「シューメイ?」



 何だろう。

 誰かの名前だろうか。



 『いや、忘れて。そう、信頼だったね。それなら証明するのにうってつけの奴を呼んだんだ。君もよく知る奴だよ』

 

 「まぁ、この状況でお前が呼べそうな奴は限られてるな………………出てこいよ、トモ」




 みんな会話についていけない様子だ。

 知らない固有名詞ばっかり出てくるのだから。

 しかし、俺が呼んだこいつに関しては、何となく正体を察したやつもいるかもしれない。

 こいつが出てきた瞬間、本当に押しつぶすかのような巨大な圧が、周囲を包んだからだ。




 「「「!!!」」」




 空気が変わる、とはこういう事だ。

 突然体は重くなり、息苦しくなる。

 冷や汗が止まらず、心臓の鼓動も心なしか早くなっているように皆感じているだろう。

 神を前にするという事はそういう事だ。



 「やぁ、久々だね。ケンくん。そろそろ会いたいと思っていたんだ」


 「ケッ、適当言いやがって。まぁ、今は心強いから俺も会いたかったよ」



 小さな子供はケタケタとそれこそ子供のように笑っている。

 それが逆に、リンフィア達にとって不気味だった。



 「そういえば、ちょっとした事情で琴葉ちゃん達と会ったよ。あ、もちろん元気にしていたよ」


 「あいつが早々弱音を表に出すかよ。ま、元気なら何よりだ………っと、先に紹介だけしとくか」



 俺は全員の前にトモを出して軽く紹介をした。




 「こいつが知恵の神。俺の主神ってことになる」




 「「「………………!!」」」




 唐突な神の登場でみんな驚いていたが、何処か納得もしている様子だった。

 



 「あっさりしてるね」


 「こんなもんだろ。んで、何でこんなのの話に乗った。まさか信用しろ何ていうんじゃないだろうな」


 「うん、そのまさかさ」


 「………は?」




 トモはあっさりとこう言った。




 「僕から言える事はただ一つ。生き残りたいのなら、この先あれの助言は不可欠だよ。ケンくん以外の君ら」




 事態は案外、深刻な様だった。

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