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第571話


 「煽るねぇ………」


 

 “ナガレ” が腕を組んでそう言った。

 まともに向かい合って話すのは初めてだったか。



 「まぁな」


 「………ウルク、本当に行かせても良かったの?」


 「何度も言わせんな。今はあれがベストだ。俺だって行かせたくなかったさ」


 「いや、気づいていたのなら先に話しておくとかさ、いろいろあるじゃない」



 そう、選択肢はいくつかあった。

 怪しんだ直後からバラすとか、他の連中の相談するとか。 

 でも、



 「だから、それも込みでこれがベストなんだよ。これ以上死人を出さないためにもな」


 「ふぅん………」



 先にバラせば警戒される。

 他の連中に話せば予想外の動きをされる可能性もある。

 だから、奴から動き出すまで待つ必要があったのだ。

 これがきっかけで、俺が仲間を疑うというシナリオを作り、それをバルドが聞いて流を襲う。

 そうなれば十中八九返り討ちだ。

 そしていいタイミングでそれを目撃すれば大義名分に従って流を殺そうとする。

 だから、その決定的な瞬間を抑える必要があった。

 あの眼が出れば向こうは認めざるを得ないだろうから。




 「待て………ケン」



 倒れているバルドが恨めしそうな目で俺を見ていた。

 そりゃあいい気はしないだろうな。

 俺はバルドを回復さて、ゆっくりと起き上がらせた。

 


 「くッ………」


 「無理すんな。話ならいくらでも聞いてやるし、事情の説明もする」



 俺はそう言ってバルドを落ち着かせた。

 しかし、バルドは俺の胸ぐらを掴んでこう言った。



 「レトが………レトが死んだのも計算内なのか………? 俺を騙した事はどうだっていい。それで仲間が助かるのならそれは仕方ない事だ。だが、あいつの死が誰かの犠牲だったのなら………俺は………」



 これまで何も言わず、バルドは悲しみを押し殺してきた。

 今回のことでバルドは少なからず心を掻き回された事だろう。

 正直、俺も申し訳なく思っている。

 

 俺も、こうなると思っていなかったのだ。



 「………違う。あれは完全に認識の外だった」


 「お前ほどの男が………予想できなかったのか?」


 「俺も万能じゃない。まだ俺は能力を完全に使いきれてないからな………偉そうにしてるが、まだまだ未熟なんだよ」



 自分で言っていて情けなくなる。

 欠点が分かっているのに、そこを塞ぐだけの実力が無いことが悔しくてたまらない。

 でも、今はそこを悔いている暇はない。

 俺は続けた。



 「だが、それでも大抵のことは予想できるし、可能不可能を見極めることも出来る。あえて言うが、ウルクが操られる可能性も考えてはいた。だが、それは起こるにしてもまだ時間はあった筈だったし、対策も事前にやる事はあまりないようなものだった。でも、こうなっちまった。あり得ないことが起きているんだよ」


 「………あり得ない?」


 「少なくとも、あれは今日までかかっても絶対に開くことはない。こじ開けられるようなものじゃないんだ。開けようとして、そこから1年近くかかってようやく隙間が生まれるってのは、正直言って “理” と言っていいほどどうしようもない。だから、その法則を壊すなんていう神でも出来ない離れ業が行われてることがあり得ないって言ってんだよ」



 わからないなんて次元ではない。

 例えば、1足す1が2ではないくらいの法則の崩壊なのだ。

 2だと決まっている事実がねじ曲がっているのだ。



 「今それを話してもしょうがねぇ。ともかく、俺はレトを死なせるようなことをするつもりはなかった」



 「………………そうか………そうだよな」



 バルドは力なくそう言う。

 そして、だんだんと弱音を溢し始めた。



 「いや、正直お前じゃないのは分かっていたさ。だって、そうでもしないと………他の悪を見つけないと、俺は………」



 “ナガレ” も俺も敵ではない。

 残った事実は、最も残酷なものだった。

 素直に怒りをぶつけるには、あまりにも。


 でも、膝をつく時ではない。

 バルドは騎士だ。

 その本分は、片時でさえ忘れることは許されない。

 膝をついていいのは死ぬ時でも、主人を失った時でもない。

 忠義を誓った主人を、守り抜いた時だ。

 



 「おい、馬鹿野郎」


 「………」


 「誰かを憎んで戦うお前なんざ、あいつが見たがるかよ。お前はなんだ? 騎士だろうが。本分を忘れ、ただ倒したい、殺したいという意志で戦っちまえば、例え結果は同じでも、そんな奴は騎士とは言わねぇよ。忠義に従い、命がけで守るべき者を護るのが騎士だろうが。その剣も、彫られた紋章も、誓った忠誠も、全て飾りか?」



 俺は拾った剣をバルドはの胸に当ててこう言った。



 「倒すために戦うのは騎士じゃない。護るために戦う者を騎士と呼ぶんだ。その為に、今まで振るってきた剣だろ」



 「………………!!」




 バルトはグッと剣を握ると、ゆっくり立ち上がった。

 やっぱり、立ち直るのも早い。

 だが、そもそも立ち止まったこと自体が “悪し” だ。

 まだまだ未熟なのだ。




 「………ケン」


 「んだよ」


 「情けないことこの上ないことは承知している。だがその上で頼みたい………俺を、強くしてくれ」



 未熟。

 そんなことは、何よりも自分が分かっていた。


 それでいい。

 弱さを知っている人間は、弱さを克服できる人間だ。

 バルドはきっと、強くなれる。

 


 「言っとくが、()()()()プライドは捨てろ。持つべきもんだけを持て」


 「従うさ。姫を救う為ならな」



 そうだ。

 それでこそバルドだ。


 俺はドンッ、と拳を鎧に当ててこう言った。



 「どうせやるなら、お前自身であいつを救えるくらい強くなれ。バルド」


 「ああ………!!」



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