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第570話


 「神………!?」



 “ナガレ” はケンが言ったその一言を聞き逃さなかった。

 それもそのはず。

 やはり神は、“ナガレ”たちにとっても関わり深い存在なのだ。



 「ねぇ、それは………」


 「おっと、ネタバラシは後だぜ “ナガレ” 。まずは集中しろ。折角解放してやったんだからよ………で、何か弁明はあるか?」



 俺はさっきからニヤニヤ笑を止めない——————を睨みつけた。



 「あーあ………嵌められたわけだ。バルドごと、ね?」


 「!?」



 バルドは驚いた様子で俺達をみた。

 そうだろうな。

 騙されたのだから。

 


 「バルド。流は裏切り者じゃない。もちろんこっちの “ナガレ” もだ」


 「なっ………」


 「ついさっきセラフィナにも言ったよ。驚いてたな。まさかウルクだなんて誰も思わねぇよ………」



 俺も信じたくない。

 言いたくない。

 口に出してしまうことが恐ろしいと、心底思った。


 俺自身、気づいた時はかなりショックだった。


 こんなふざけた事があるか?

 馬鹿げてるにも程があるだろう。

 運命なんてものがあるとしたら、これほど悪趣味で見るに耐えないものはない。

 

 

 だが、こいつと()()()は知る権利も義務もある。

 何故なら、




 「裏切り者—————————レトを殺したのがこいつだなんてな」




 絶望を作り出したのは、ウルクにとっては自分自身であり、バルドにとっては何よりも護りたいと思っていた者なのだから。






 「————————————」






 バルドは絶望の表情を浮かべ、ただただ絶句した。

 一体どれほどの絶望だ。

 あまりにも残酷すぎる。

 だが、伝える他ない。

 こいつはレトの一番の仲間であり、相棒なのだ。

 




 「俺らを内部崩壊でもさせようと思ってたのか?」


 「うん。君たちは目下のところ私の一番の害敵なの。駆除するに越したことはないでしょう? 一つ残念なのは、予想以上に早く勘付かれた事。いつから?」


 「決まってんだろ? 最初からだ」


 「「「!!」」」



 これは流石に、全員驚いていた。



 「へぇ? それじゃあお仲間さんみんな疑ってたの?」


 「当然だろ」



 そのあたり、俺は手を抜かない。

 こんな何でもありの世界、誰が殺してもおかしくない。



 「だが、アンタは一番の候補かつ、一番の候補外だった」


 「ふふふ………そういうこと。じゃあ、あなたはやっぱり私の正体を知ってるんだ」


 「ああ。だが、どう考えても出てくるのが早すぎるし、絶対にあり得ない」




 俺がそういうと、——————は満足そうに笑った。




 「うふふ。凄くいいわ。この状況をまんまと作り出したのも流石ね。よくもまぁ、思い通りいったわね」

 

 「この何ヶ月、アンタが出てきても行動出来ないよう動きつつ、機会を練ってた」


 「あーあ、残念。あなたのような子、是非絶望に晒したかったのに………ふふふ」





 ——————は、恍惚の表情でこう言った。





 「私、こうやってグチャグチャにかき混ぜられて壊し合う人間を見るのが最ッッ高に大好きなの!」





 歪んでいるとしか言えない。

 悪趣味を通り越して狂っている。

 


 「ま、所詮は遊び。だ・か・ら」


 「!!」



 周囲の魔力が再び活性化していく。

 先程より更に大きい魔力を感じる。

 これは………



 「せいぜい生き残ってね、僕?」




 俺が消した魔法を再構築させていく。

 刹那、再び “ナガレ” の周囲に魔力が溜まり、そして再び弾丸は降り注ぐ。


 すると、




 「そう? じゃあもう少し楽しませてくれない?」



 

 “ナガレ” の声と共に、黒い刃が空を舞った。

 



 「おぉ………こいつは………」




 流のやつが押さえつけたくなるのも分かる。

 これは確かに、凶悪そのものだった。



 初速から今までとはモノが違う。

 しかし、刃はさらに加速する。

 こんなものではない。

 もっとだ。

 止まる事なく、黒い刃は生まれ変わったかのように空を舞う。

 



 「ふふふ、口だけじゃないみたいね」


 

 ほんの数秒の出来事だった。

 “ナガレ” を囲んでいた魔法は発射と共に大半を砕かれ、どんどん加速していく “ナガレ” はその根本まで砕ききったのだ。



 「まぁ、解放されたらね」

 

 「そう………そうね。分が悪いし、今日のところは帰るわ」



 異様なオーラを感じる。

 転移ではない。

 だが、この場から逃れるための術式だろう。

 おそらくは古代魔法だ。

 流石神というべきか。

 軽い古代魔法くらいなら使えると言う訳らしい。



 「あら、抵抗しないんだ」


 「ウルクの肉体は人質にしてるんだろ? 流石にその状態から俺でも奪えん——————相手があの、命の神だったらな」



 「い——————」



 すると、何かを言いかける “ナガレ” にかぶせて、奴は言った。



 「あなたが浮かべてるのとは別の神よ」


 「別………だって………?」


 「そう、別。あ、このゴミを見ればわかるかもね」



 そう言うと、——————は、黒い塊を “ナガレ” に向かって飛ばした。

 それをキャッチした “ナガレ” はその残骸を目にし、絶句した。




 「これ………は………」




 動かないチビ神だった塊が、その手にあったのだ。

 遺体はその機能の大半を吸い取られている。

 ここにあるのは、正しく残骸というわけだ。




 「ん〜………っふぅ………あの狭苦しい柩に閉じ込められてどれくらいの経ったかしら………でもやっと外に出られた。この遺体と私の魂………それと、1人の特異点か神を喰らえば、私は “義体” を得るだけの神威を取り戻せる!!」




 天の柩


 ファリスが研究をしていた、魂属性の力を持った不思議なオーブ。

 内部は魂のみが存在する異空間で、第二生徒会長のイシュラの妹、アルシュラを含めた数名の生徒がファリスの手から離れていたこれを研究していた。

 俺は彼女達を救い出す代わりに、天崎にこれを渡したのだ。



 これは、遙か古代から存在するモノ。

 とてつもない力を蓄積しており、これがあれば天崎達は遥かにパワーアップできる。

 つまり、これはそういうアイテム……………



 では、断じてない。



 天の柩。

 名の冠している通り、これは柩………つまり棺桶だ。

 ただし、眠っているのは肉体ではなく魂。

 それも、とある神の魂だった。



 その魂は肉体と分離され、やがてその魂の宿った柩はファリスの手に、肉体………遺体は “鱗の泉” へ流れていった。




 鱗の泉に行ったあの日から、全ては繋がっていたのかもしれない。

 



 ここまできたら、あとは説明はいるまい。

 その魂というのは、こいつの正体とは、




 「チビ神の本来の人格が、まさかテメェのようなろくでなしとはね………」



 先代・命の神であった。



 「うふふ、神なんてのは大抵ろくでなしよケンくん。人でありながら、浅ましくも身の丈に合わない力を得ようとした欲の塊り。醜い、醜い………ね」


 「!!」



 命の神の足がゆっくりと透けていく。

 こちらとしては追うつもりはないが、念の為か。


 ………30秒。

 よし、消える前にこれだけは言っておこうかな。




 「あのさ、一個だけ言っときたいんだけど」


 「?」


 「なんか凄い奴感出してるけど、別にアンタ程度たかが知れてるからな」



 ピクっと表情が崩れかける。

 お、怒らないんだ、と俺は感心していた。



 「アンタみたいななんちゃってサイコヤローは向こうの世界にいっぱいいたよ。うん、全然量産型。なんならもっと性格悪いのも居たよ」



 明らかにイライラしている。

 そりゃそうだ。

 あの血文字、あんなもんを残す奴はだいたい自己顕示欲の強いアホだ。

 予告状出す泥棒と一緒。

 一言で言うと頭が悪い。


 故に、プライドは高いものだ。



 「はっきり言うぞ。アンタは小物だ。同じ神でも知恵の神とかには遠く及ばん雑魚キャラだ」


 「アハハハハハハハハハハハ!!! 人間風情が、言ってくれるじゃない!! まさか勝てるとでも!?」


 「そこで化けの皮を剥がしてるところが小物だっつってんの」



 ジャスト30秒。

 流石に消えてから手を出すような恥ずかしい真似はしないだろうと思って、俺は最後の最後にベッと舌を出してこう言った。




 「せいぜい頑張れな。三下さん」




 そして、命の神は消えていった。

 

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