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第57話


 美咲はぼーっとしていた。


 聖くん、喋ってみたら印象が全然違ったな。悪い人じゃないんだよね。それによく見たら結構かっこいいし………


 「………ちゃん」


 呼ばれていることに気付かず、ケンの事を考えている。


 はっ! いやいや、それはダメだ! どう見ても琴葉ちゃんが………いや! 別に琴葉ちゃんは関係ない!


 「……きちゃん」


 うわぁ、そもそもなんでこんな感じになってんだろ。私不良嫌いだったのに………


 「美咲ちゃん!」


 「うわぁ!」


 美咲は驚いて飛び跳ねた。

 

 「ど、どうしたの? 琴葉ちゃん」


 「美咲ちゃん、めちゃくちゃぼーっとしてたよ? 今から訓練だって聞いてた?」


 「え」


 美咲は苦い顔をした。

 実は、と言うか見た感じで察する人は察するが、美咲は運動が嫌いだ。

 にも関わらず、ここの軍隊のような訓練を受けさせられる美咲は、さらに運動が嫌いになり、訓練と聞くとものすごい顔をする。


 「うわー、今日もすんごいね。座学の方では嫌な顔一つしないのに」


 「座学は楽しいよ?」


 「な、何だって………!」


 琴葉は戦慄した。

 

 「何であれが楽しいの!?」


 琴葉は勉強がそこまで嫌いなわけではない。

 ぶつぶつ言いつつそれなりにやる。

 しかし、馬鹿だった。

 数学など中3から止まっている。


 「あー、何でここ美術とか技術とか家庭科とか無いのかなぁ」


 勉強は全然だが、美術などの科目は大得意だ。

 でないと高校には入れてない。


 「推薦入学者には辛いよねぇ」


 そう言う美咲は結構色々できる。

 運動以外。


 「む? お主、今推薦入学者を馬鹿にしおったか?フッフッフ、それは私の琴線に触れるぞ?」


 得意げに言う琴葉。

 難しい言葉を使えてドヤ顔だ。

 しかし、


 「琴葉ちゃん………琴線に触れるって感動するって意味だよ?」


 「………」


 あっさり撃沈。


 「もー! なんで日本語ってこんなにめんどくさいの!? 良いじゃん! 怒らせるって意味でも!」


 無茶苦茶言い出す琴葉。


 「訓練行かなくて良いの?」


 「あっ、そうだった! 行こ! 美咲ちゃん」


 バタバタと走っていった。


 元気だなぁと思いながら追いかける。










———————————————————————————








 「困りましたねぇ。どうしたら良いのかしらぁ………」


 教師、宇喜多 春は困っていた。

 城の庭で水やりをしている。


 彼女も教師だが、勇者の一人だ。

 しかも唯一の大人。

 色々な仕事を請け負っている。

 そんな彼女の目下の仕事は、模擬戦だった。

 しかし、教師である以上生徒に怪我など負わせるわけにもいかない。

 だが、手を抜いても彼らのためにならない。

 だから彼女は悩む。


 「聖くんがいたら授業サボって相談に乗ってくれるんだけどぉ………いないものねぇ」


 この辺は教師としてあるまじき発言だ。

 そこら辺は適当な春である。


 「先生?」


 「あら?」


 声をかけられたので反応した。

 そこには蓮がいた。


 「まぁ、ちょうどよかったわぁ。獅子島くん、少し相談に乗ってくれないかしらぁ?」


 ピンときた。

 蓮はそう言う表情だった。


 「なるほど、ケン今いないですもんね。俺でよければ相談に乗りますよ」


 






———————————————————————————







 庭のベンチに二人とも腰掛けた。


 「ふぅ………」


 「どうしたんですか? 先生」


 「これもよく考えると生徒に聞く事じゃないんだけど………獅子島くんは道場の師範代だしぃ、意見が聞けるなら獅子島くんかなぁって思ったのぉ」


 「なるほど、模擬戦の件ですか?」


 ドンピシャで当てた。

 流石は蓮。


 「うふふ、流石ねぇ」


 「確かに、先生の立場じゃ、難しい問題ですね」


 「そうなのぉ。手を抜くべきか、本気で行くべきか。悩ましいわぁ」


 蓮個人の考えとしては、本気で行くべきだと思っている。

 しかし、この世界に来て、訓練一つでも危険が伴う。

 本当はただの高校生だった彼らが負うには大きすぎるリスクだ。

 でも、

 

 「先生、俺は本気でやったほうがいいと思います」


 やはり、意見は曲げなかった。


 「その心は?」


 「俺たちはいつか魔王と戦います。その時に弱かったらみんな死ぬ。それはここで怪我をするよりもずっと悪いです。だから、本気で訓練して、来たるべき時に備えるべきだ。もちろん先生、あなたもです」


 「………うふふ、大人ねぇ」


 生徒が頼もしいと、教師として嬉しいのだ。


 「あはは、別に俺だって大人なわけじゃないですよ。あの二人といるとそう見えるかもしれませんけど」


 「確かに、あの子たちはまだ子供っぽいものねぇ。不良の男の子に、ちょっと抜けた女の子、そこに君みたいな少し大人な男の子が入って丁度いい具合にバランスが取れているんでしょうねぇ」


 彼女は、ケンを理解する数少ない人間だ。

 だから、3人の関係性をこんな風に言うことが出来る。

 他の生徒が偏見で見たら、人気者2人の中に害虫が1匹、と言った具合だ。

 

 「そうですね………だから今、ちょっと寂しいですね」


 「うふふ、やっぱりちょっとは子供ね」


 「ははっ、でしょう?」


 蓮と春は、それから少し話し続けた。

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