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第569話



 「………………」



 魔力の高まり方がかなり異常だ。

 これは、変身状態のニールクラス、いやそれ以上だ。


 加えて、あの背中の羽。

 ただの羽ではないことは誰の目にも明らかだ。

 先程から凄まじい力を放っている。

 それは、“神威” という“ナガレ”にとっては未知の力だった。



 「ふーッ、ふーッ! ゥ、ゥぅグウウウウウウァアアアアアアアアァァァァッッ!!」


 「ぐッ………!!」



 まるで鉛を身につけたかのような重圧に、“ナガレ”は思わず顔をしかめた。

 だが、“ナガレ” も特別な転移者。

 この程度、耐えられないわけがない。



 問題ない。

 確かに凄まじい力だ。

 しかし、この程度は絶望するには些かぬるすぎる。



 “ナガレ” はあくまでも余裕で冷静だった。

 

 

 感覚を尖らせろ。

 今にも飛び出しそうなウルクだが、おそらくまだ動かない。

 高まった魔力は、周囲に散らばっている。

 恐らく、数秒後に飛んでくる。

 ならば、先手を取るに越したことはない。



 「………やむを得ないね………飛ばそう」



 何でもないように強化魔法を使う。

 真っ白いオーラを纏った “ナガレ” は、グッと地面を踏み込み、




 「ッッ、ぐぅ………ァアアアアアアアアアァァッッ!!」




 一直線にウルクに向かって飛び出す。

 すると、




 ピッ、と。

 何かが “ナガレ” の頬を掠めた。



 (速い………それに………)



 ウルクも用意していた()()を、ほぼ同時に発動していたのだ。

 魔力はこもっている。

 しかし、魔法と呼べるものではない。

 神威を用いて、不格好な形をなした、ただの速い塊だった。

 だが、塵も積もれば山となるし、下手な鉄砲も数撃てば当たる。

 そう、この攻撃は、




 「多すぎる………………!!」




 圧倒的な数の暴力だった。

 まさしく雨。

 隙間なく降り注ぐ凶弾は、“ナガレ” に風穴を開けるべく向かってくる。


 それでも、



 「でも、対処できない量じゃない」



 “ナガレ”は一切止まらない。

 弾幕の薄いルートを一瞬で把握。

 そこを突っ走りつつ、降ってくる玉は尽く叩き落とす。

 ごく稀に爆発する箇所も、その直前の察し、爆発を躱し、一瞬でルートに戻る。

 しかし、足止めが想像以上にキツイせいか、距離が縮まらない。

 


 でも、焦ることはない。



 “ナガレ” は姿を消しつつ上空へ飛んだ。





 攻撃には波がある。

 確かに巨大な波は押し寄せ、あらゆるものを破壊していく。

 だが、波は引いていくものだ。

 “ナガレ” はその機会をじって待つ。

 攻撃が止んだ瞬間、又は弱まる瞬間、最短距離を進むべく、魔力を集中させていった。

 



 「うわァアアアアアアアアッッッ!!!」

 



 思考がまともじゃない。

 この状況でまだ温存せず、さらに同じところへ打ち続けているのがその証拠だ。

 

 じっくりと、蛇のように、待って、待って、待ち続け………




 「よし………!!」




 引いた波を見極め、突っ切る—————————





 「しばらく眠って、」






 —————————が、 




 「ふふ、来ると思ったよ………ナガレくん」





 「な………………」



 (にィ…………ッッ!?)




 足元に隠されていた魔法。

 咄嗟に首を曲げ躱すが、トップスピードで飛んできた “ナガレ” は、当然体勢を崩してしまう。

 右に大きく逸れた状態では、左手のダガーしか使えない。

 だが、それを予測していたのか、ウルクは左手の間合いを綺麗に避けつつ、最短で背後に回り込み、魔法を構えた。





 「つ・か・ま・え・た」




 背後はマズイと思った “ナガレ” は、身体を翻そうとするが、凄まじい力で押さえつけられ、顔しか向けられなかった。

 見えるのは、当然ウルクの顔。

 やけにスッキリした表情をしているな、と “ナガレ” は思った。

 そこで、これまでおかしくなっていたのは演技だったことに気がつく。




 

 「くッ、まさかウルクに—————————」





 『騙されているとは思わなかった』



 と、言おうとした瞬間、口がピタッと止まった。

 自分の意思ではない。

 これは、先ほどから本気を出させてくれない本体、つまり()の無意識だ。

 だが、それゆえにこれは重要な警告だと気がついた。

 本体は本能的に何かに察している。

 何んだ? 何が言いたいんだ?

 “ナガレ” も主人格の全てがわかるわけではない。

 故に、考えなければならない。

 


 一体何が、そう思った瞬間、目が突然ギョロっと動き、ウルクの目を凝視させた。

 これも本体の仕業だ。

 目。

 目が一体どうしたと思いつつ、“ナガレ” は何か既視感を覚えていた。



 「黄金の、瞳」



 恐らく最後であろう無意識の反応。

 “ナガレ” は己が呟いたその言葉を頭で反芻していった。



 黄金の瞳………黄金の瞳………黄金の………瞳………あいつの………あの時の………………聖が、奴隷紋を消し去る時の………………………!!




 そう、神象魔法を使っている時のケンと同じ、黄金の瞳。

 それそのものだった。


 そして、再びウルクの顔を見ると、そこに表情は無かった。

 一切の無。

 感情が消え、無となったウルク。

 だが、次の瞬間、見たことのないような邪悪な笑みを浮かべたウルクはこう言った。





 「ああ、気付かれた?」





 違う。

 “ナガレ” は気づいていなかったのだ。

 あえて言うなら、“ナガレ” は今気づいたのだ。





 「誰だ………………お前………………」





 ウルクの体で、全く別人の声を発している誰かと戦っていたことに。




 「じゃあ、さようなら」




 一気に膨れ上がる魔力。

 かなり絶望的な魔力。

 しかし、全力の“ナガレ” ならどうにかなる。

 だが、流の本体は、未だにウルクを気付けることを拒否していた。



 ダメだ、この程度の力では。

 このままじゃ、死——————————










 「何びびってんだ、()



 



 その瞬間、空が弾けた。

 無数の魔力の塊は、まるで花火みたいに爆発し、霧散する。

 ある意味幻想的だ。

 しかし、それ以上に“ナガレ”は唐突に現れた希望に目を奪われていた。





 「無意識だろうが、何だろうが心配すんな。そいつはお前だ。そんで、ウルクを助けられるのもそいつだ。だから」




 

 ああ、なるほど。

 確かに、頼りにしたくなることもわかる。





 「全部こいつに任せてみろ」





 何度も(画面)越しに見た(アイツ)の頼れる仲間。

 流も僕も見据えている。

 このむかつく表情。

 この状況も計算の内だったらしい。

 一体どこから見ていたのやら。

 まぁ、今はいい。




 「いいの? ()()


 「お前はそう呼ぶんだな。まァいいさ。思いっきりな」




 ケンが肩に手を置くと、大きな枷が外れたように力が吹き出してきた。

 ウルクを助ける。

 そのためだけに、本体は今まで頑なに渡さなかった肉体を“ナガレ”に差し出したのだ。



 「………うん」




 キッとウルクを………いや、——————を睨むと、——————はケンの方を向いていた。

 流石に計算外だったらしい。





 「なにしているのかな、ケンくん」




 ——————は気味の悪い笑みを浮かべたままそう言った。



 「機は熟したってわけさ。なァ、神サマよ?」




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