第568話
魔法が得意ではないバルドは接近しかない。
先程バルドは、その中でも巧みな攻撃方法で流を追い込んだ。
だが、
「ほらほらほらほら」
「っ、ぶ………ご、はァッッッ……………!!」
小細工なんぞないが如く開いた実力差の元では、されるがままだった。
近づいて攻撃をしようとした瞬間背後に周り、気づくと地面に突っ伏している。
起き上がろうとすると、またいつの間にか立ち上がっている。
そして攻撃をしようとすると、今度は信じられないほど遠くに立っているのだ。
コケにするにも程がある。
「どうしたの? もう立ち上がらないのかい?」
甘かった。
一太刀入れるというのが、毛頭不可能だった。
叶うわけがない。
ステータスは当然のこと、こちらの “ナガレ” は戦闘技術も達人級に跳ね上がっている。
攻撃は尽く避けられ、弾かれ、流される。
あくびをしながら、極つまらなさそうに、見下しいるのだ。
「仇を討ちたいんでしょ?」
「!」
怒りでパワーが上がっても、
「がぁあああああああああああああァァァアッッッ!!」
「ほいっと」
「っ———————————————」
簡単に受け止められる。
流は剣を摘んで受け止めたのだ。
元の流は、転移者の中でも優れた特務部隊と比べると比較的弱いが、こちらの方は彼らと何ら遜色もない。
なんなら技術では勝っている。
「クソッ………クソオォオオッッ!!」
すると、
「ねぇ、何でアイツを狙うわけ?」
と、“ナガレ” が唐突に尋ねた。
「なーんか、僕を疑ってるみたいだけど、万が一やったとしてもアイツじゃなくて僕じゃない?」
「それが、どうした………!」
「わかんない? バルドさんがやってることは、ただ何も知らず状況もわかっていない仲間を疑い、あまつさえ殺そうとしたってこと。つまりさ………結局のところ、僕と同類じゃない?」
「っ—————————」
そう。
流には “ナガレ” だった時の記憶は一切ない。
それは既に全員了承を得ているし、誰も疑っていない。
言動も、考え方も、強さも違う。
流であって流でないとはいうが、事実上別人なのだ。
流からしてみれば、理不尽極まりないだろう。
「それは………………!」
「アイツの性格、知ってるよね? 女たらしの節操無し。いい加減で甘ったれで、どうしようもない大馬鹿。そして、仲間に対しては責任感があって、思いも強く、反吐が出るほどの偽善者。それが楠 流だ」
「それは………」
ニィっと、表情を歪ませる “ナガレ” しかし流はさらに追い詰める。
「お前はそんな仲間を、ありもしない事実で疑い、何日も無下に扱い、仇を見るような目で睨み、殺意を抱き、刃を向け、そして殺そうとした」
「お、俺は………」
違う、と言うことが出来なかった。
ズキン、と胸の奥が痛くなった。
自己嫌悪で、どうにかなりそうだった。
「裏切り者? 果たしてどっちだ?」
「俺は………」
「仲間を裏切ったのは………アンタだろ」
「あ…………」
バルドは剣から手を離し、膝から崩れ落ちた。
「これだから嫌いなんだよ。アンタみたいな自己中心的な人間は。だから僕は殺す。こう言う連中を根絶やし殺していく。背中から心臓を刺すことに意味はない。でも、みんな同じ殺し方をしてるのには意味がある。それは、お前ら全員、似たり寄ったりのクズだから、同じような死に方をさせてるんだよ」
“ナガレ” は、背中に刃を向けた。
しかし、バルドは動かない。
“ナガレ” の言う通りだと、バルドは思ってしまったのだ。
俺は、流を裏切ったんだ、と。
——————
「………………」
動かないバルドを見下ろして、“ナガレ” はやれやれと嘆息した。
「やっと抵抗やめたみたいだね。それじゃあ、取り敢えずは………————————————」
ゾッ………………………!!
と。
「「ッッ!?」」
突然沸いた殺気で、流は思わず手を止めた。
バルドは間一髪で助かったが、依然命の危機を感じる。
それほどまでに鋭い殺気がこちらに刺さっていたのだ。
そして、
「—————————なに、してんの………?」
そこにいたのは、
「チッ………最悪のタイミングだ………?」
「………………ひ、め………?」
まるで別人のように凄まじい殺気を放った、ウルクだった。
「何で、バルドを殺そうとしてるの………?」
「そうじゃなくて………ウルク、これは………」
“ナガレ” は珍しく焦っている様子だった。
なんとか弁明を試みようとしている。
しかし、今のウルクに聞く耳はなかった。
先ほどの会話から、ウルクに全て聞かれていたのだ。
それも、最悪のタイミングで。
「それじゃあ、やっぱり………レトを殺したのもナガレくんなんだ………」
「だから話を………………………っ!?」
弁明できないかもしれない、と “ナガレ” は思った。
背中から生えた小さな光の羽。
何かはわからないが、それが直感的に良くないものである事は “ナガレ” にもわかった。
そのせいか、何やらキナ臭いと感じている “ナガレ”。
「う………ウルク………………?」
「やめて………いや………もう、これ以上!! 私の大切な人を奪わないで!!」
やはり、何かがおかしい。
直感的にそう気がつく “ナガレ” 。
ここまで短絡的な性格だっただろうか。
違う。
ウルクはいつもの言動やふるまいからは想像が付きづらいが、実は冷静で賢い面も持っている。
何故かはわからないが、それらが失われたしているらしい。
「…………………!!」
「これは、チョットまずいかもね………!!」




