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第562話


 琴葉の提案通り、6人は今教会の前に立っていた。

 琴葉はなかなか顔が利くらしく、しばらくの間教会を貸し切りにできるとのことだ。

 しかし、



 「来たのはいいけどさ、どうすんの?」



 高橋の言う通り、こんなところで何をしたいのか誰もわかっていなかった。


 教会。

 この世界では各国の主神を祀る社であり、信者達が集い、祈りを捧げる場所である。

 決して戦うような場所でも、まして体を鍛えるような場所でもない。

 


 「うーん、確かにいきなりこんなところに連れて来られてもわかんないよね。私だったら絶対わかんないし。でも、誰を頼ろうとしているかは見ればすぐわかると思うよ」


 「誰を………」

 

 「頼る?」



 綾瀬達がおうむ返しをするのも無理はない。

 何せシスターの知り合いや神父の知り合いの中にそれらしい人物に心当たりはないのだからも


 だが、琴葉の言う通り全員一瞬で悟った。

 誰に頼ろうとしているのか。

 そして、ここである理由も。



 「じゃあ、入ろう」



 琴葉は教会の扉を開けた。

 扉を開くと、そこには本当に尼も神父も、だれもいなかった。

 ただ1人を………いや、一柱を除いて、貸し切りになっていた。




 「「「………………!!」」」




 それは、見たことのない姿だった。

 小さな子供がいる。

 それがどうした、と言う人もいるだろう。

 しかし、そうは誰も言えない。

 この姿を見て、全員が察した。

 この子供を知っている。

 そして次の瞬間、



 「やぁ、いらっしゃい」




  

 「「「ッッッ………………………!!!」」」




 この声を聞いて、確信を持った。

 そう、その子供は————————————



 「これから私達に力をくれるのは、知恵の神だよ」



 —————————なんと、トモだったのだ。




 「なんで………あの時の神様が………」


 「マズイ事態になったからだよ。高橋 颯太くん」


 「!! 俺の名前を知ってる………んですか?」


 「ああとも。当然だろう? 僕は君らの主神。みんなのことはよく知っているさ」


 「っ………」



 なんとも言えない圧を、高橋は感じていた。

 見た目とのギャップがありすぎる。

 今までは声だけだったが、その姿を前にして、その凄まじい圧力に少し呑まれそうになっている。

 


 「それで、やっぱりそのメンバーを選んだんだね、琴葉ちゃん」


 「………」



 琴葉は無言で頷いた。



 「やっぱり、他の子じゃ物足りないかな?」


 「うん。そうだよ」


 「「「!?」」」



 唐突だったが、タメ口だったのでみんなギョッとしていた。

 しかし、琴葉は続ける。



 「きつい事言うけど、他の子じゃ絶対ダメ。きっと、他の子はここにいるみんなよりは知らないと思うんだ」


 「何を?」



 「私たちが手に握っている、その刃の鋭さも、脆さも」



 はっきりとそう言っている琴葉は、まるでいつもとは違っていて、みんなドキリとした。



 「この力は、簡単に傷つける鋭さもあれば、過信したら傷付けられる脆さもある。こればっかりは一度でも命をかけないとわかんないよ」


 「ふぅん………」


 「だから、このメンバーなの。みんななら、きっと正しく使ってみんなを守れる。私はそう思った」



 意外なことだが、琴葉はこの中で誰よりも戦っている。

 訓練にも積極的に参加し、時にはクエストも行っている。

 モンスター退治も盗賊達の捕縛もした。

 人の死も目の当たりにした。

 ケンが城を出て行ったあの日からちゃんと自覚は持っているのだ。

 SSSランクのスキルという、鋭い刃を持つ者の責というものを。



 「うん。しっかりと考えているんだったらそれでいいよ。わかった。君達を今より数段上のランクに持っていく」


 「「「!!」」」


 「言っておくけど、これは緊急の救済措置みたいなもんだよ。他の神が反則をしていたからね。しかもその措置もかなり割に合わない。意味がないかもしれない。それでもやる?」



 他の神、救済措置、反則、話の内容は正直誰もわかっていない。

 割りに合わないと言うことは危機的な状況になり得ると言うことだ。

 だが、それでも目的が得られるのであれば、



 「「「やります!!」」」



 躊躇う必要などどこにもないのである。



 「うん………わかった」



 トモはそう言うと、琴葉に目配せをした。

 よかったね、と言わんばかりの視線を受け、琴葉は数日前の出来事を思い出していた。












———————————————————————————











 蓮がフィリアを連れて城を抜けた翌日。

 琴葉は知り合いのシスターを教会まで送っていた。

 シスターは話友達なので、教会に行くことは琴葉にとって日課になっていた。



 「そんでさ、先輩ってばひどいわけよ」


 「あはは、確かに。まぁそれに関してはミィナな相当ひどいけどね」



 蓮もケンもいない。

 だが、琴葉にはリーダーとしての責務を全うする義務があると思っていた。

 ブレてはいけない。

 だからこそ、いつも通り過ごそうと思ったのだ。



 「あ、そうだ。ちょっと寄ってってよ。神父様も久々にコトハに会いたがってたわよ」


 「そう? それならちょっと寄ろうかな」



 いつもは少しだけお祈りをしてさっさと帰るのだが、今日は暇もあるしこんな様子なので寄ることにした。



 「それじゃあ、神父様呼んでくるから待ってて」


 「はーい」



 ミィナは上の階へ神父を呼びに行った。

 とりあえずやることのない琴葉は、一人で教会に入ると、一番前のベンチに座ってボーッとしていた。



 「………」



 ふと、1人になった事を意識した。

 寂しい、というより心配になってくる。

 国を追われるというのはよくよく考えれば大変なことだ。

 そもそも、何故蓮が悪者になるのだろうか。

 蓮のせいで戦争になると言っていた人もいるが、まずなんで人間同士で争っているのだろうか。

 どの国も目的は魔族の筈なのに。

 なんでこんな意味のない事をするのだろうか。


 そんなモヤモヤが頭に溜まり、琴葉はつい自分の本心を吐露してしまう。



 「………私が、ケンちゃんみたいに強かったらなぁ」



 決して叶わないであろう願望。

 あの男はあまりに強大すぎた。

 なりたいなんて意志だけでなれるものではない。

 だが、せめてもっと強ければ、この世界でも自分の我を通せるだけの強さがあれば。

 そう願わずにいられない。



 ………だが、そちらは叶わぬ願いではない。

 願えば届く。

 決して不可能ではないのだ。

 それ故に、




 「強く、なりたいかい?」




 「———————————————あ」




 その願いは、小さな子供の姿をして、目の前に現れたのだった。

 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >とりあえずやることのないリンフィアは、一人で教会に入ると、一番前のベンチに座ってボーッとしていた。 誤記では?
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