第561話
「し、獅子島くん………やっぱり裏切ったんだ………」
1人の生徒が騎士達の話を聞きながらそう溢した。
あまりに実感が湧かない出来事だ。
まさかクラスで最も真面目かつ正義感が強い男が自分たちを裏切るなんて思いもよらなかったのだろう。
「で、でも!! お姫様さえ帰ってくれば勇者だし多分………」
「ここは日本じゃないんだよ? 人を殺してなくても国に逆らえばすぐに首を刎ねられる。そういう世界なんだっていい加減わかるでしょ?」
このように、クラスの空気は最悪だ。
特に女子は蓮を慕っている生徒が多いため、かなりショックを受けている。
男子も男子でそれぞれ衝撃を受けていた。
だが、数人だけ事情をわかっている者達がいた。
「そっかぁ………イケレン君やっと素直になったんだね」
「やれやれだ。頭でっかちにも程がある」
そう語るのは、山本 七海と高橋 颯太。
かつて蓮と共にフェルナンキアに出向いたメンバーだ。
「でも颯太くん、蓮くんと同部屋だから寂しいよね」
「ん」
寺島 美咲、谷原 涼子。
彼女らもまた、同じメンバーである。
そして、彼女たちも。
「そうも言ってられないわ。見なさいこの空気。淀んでしょうがないわよ」
「だから、せめて事情を知ってる私たちが盛り上げていかないと!」
綾瀬 優、そして七峰 琴葉。
蓮が去った現在の、暫定リーダーの2人だ。
「つってもどうする? みんなが不安がってるのは、ロクな戦闘経験もないまま戦争が起こりそうになってるからっしょ? そこに加えて励まし役かつ引っ張り役だった蓮がいないときたもんだから、こんなブルーになってる。っとに面倒くせェ連中だ」
「みんな事情は知ってるんだっけ?」
「知っててこれだよ。なんなら戦争から逃げた、なんて吹聴してる馬鹿もいる。ふざけんなって話だけどな………」
颯太は吐き捨てるようにそう言った。
「それに知ってるか? 他所の国にも勇者………っていうか異世界人がいるって」
「「「!!」」」
「俺たち、そんな同じ境遇のやつとも戦う………んだよな」
そうだ。
戦争になれば彼らとも殺し合いになる。
同じ日本人も多数いるだろう。
だが、それだけではない。
戦争になれば否応なくする羽目になるのだ。
人を殺すという事を。
みんなそれが頭をよぎり、顔をしかめた。
すると、
「てかさ、勇者ってのもよくわかんないよね」
と、七海は唐突にそう言った。
「え?」
「ぶっちゃけ敵は魔族なんっしょ? 協力すればいいのにいちいち他国と戦争なんてするもんなのかなーって。何故に? って思ったわけっすよ、ウチは」
確かに、と全員が思った。
だが、それ以前に思っている事があった。
なぜ、ここまで来てそんな簡単なことに気づかなかったのかということだ。
三馬鹿は置いといて、他の3人はなんとなく気がついていた。
と、3人が難しい顔をしているところに、七海はさらに別の爆弾を落としていった。
「そもそも魔族って悪もんばっかなのかな? ことりん達も見たっしょ? リンフィアちゃんやニールちゃん達。どう考えても聞かさせているような悪もんじゃないじゃん」
「「「………!!」」」
それは、これまでの根本的な何かを尽く崩すような発言であった。
自分たちの使命は魔王と呼ばれる魔族の討伐であり、魔族とは絶対の悪である。
しかし、魔族も人間と同じで善人も悪人もいるのだ。
誰でもわかるような当たり前のことだが、誰もそれをわかっていない、あるいは分かっていても素知らぬふりをしている。
だが、生徒全員に共通して言えることは、“魔族は悪” と思っている事だ。
無意識のうちに、そう思わされていたのだ。
故に、
「じゃあ………一体何のために………何のために俺たちは呼ばれたんだ………………?」
迷う。
だが、
「でもまぁ、べつにいいか」
それも一瞬。
「そだね」
「うんうん!」
「そうね」
「そうだよ!」
「ん」
この6人は気にしない。
理由は一つ。
知っているからだ。
決して悪ではないという事を。
「となると、神様はもちろんだけど、この国もちょっと信用ならないわね」
綾瀬は難しい顔をしながらそう言った。
「確かに………ケンみたいな強さがあるならともかく、ここにいる全員、騎士団の団長クラス3人いれば全滅させられるよな。万が一何かあったときのために強くなる必要があるんじゃないか?」
「えーと………颯太くん、珍しくやる気っぽい、よね?」
「面倒くさいのは面倒くさいんだが、こればっかりはやらねーとだめっしょ」
颯太は柄にもなくやる気になっていた。
だが、それだけではいけないということにも気がついていた。
そう、やる気だけでは強くなれない。
“何か” 、鍵になる何かが必要なのだ。
そう思っていると、
「………うん、決めた!」
琴葉が突然そう言いながら立ち上がった。
「どったのことりん?」
「ななみん、それにすずっちも高橋くんも優ちゃんも美咲ちゃんも今からちょっと来て欲しい場所があるの」
「場所って………どこ?」
突然そう言われて、七海は琴葉にそう返した。
そして、
「6人だけ、強くしてくれるひとがいる場所」
「「「!!」」」
琴葉はこう言った。
「今から、教会にいきます!」
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