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第560話


 「へぇ、そんな感じだったのか。王女を連れて城を脱走するなんてなかなかやるな、少年! わはははは!」



 ファリスは蓮の背中をバシバシ叩きながらそう言った。

 昼間から酒を飲み、酔っ払っているダメな大人だ。



 「ファリス飲み過ぎ。レンが困ってる」


 「お? お前さんが人の心配するたァ珍しいねぇ。よっぽど大事な弟子なのかイ?」


 「うるさい」



 クウコも遠慮することなく酒をぐびぐび飲みながらラクレーに絡んでいた。

 酒に強いのか、酔う気配はまるでないが。



 「やれやれ、昼間から騒々しく酒を飲むのは相変わらずだ」


 「ギルファルドさん」



 ポン、と蓮の肩に手を置くギルファルド。

 手に持ってるワインが異常に似合っている。



 「まともに話すのは初めてかな、坊や」


 「そう………ですね。フェルナンキアでもちゃんと話した事は無かったです」


 「フフフ、こう言う体験は貴重だよ。人脈とは実に重要だ」


 「ははは、貴方が言うと本当に説得力がある。でも今は人脈よりも優先すべきことがあるんですよね?」



 ギルファルドはニヤリと笑みを浮かべながら、ほう? と白々しくそう言った。



 「手配中の俺たちと会うリスクを負ってまでやろうとしていることは何ですか?」


 「おや、やはり頭が回るようだ。流石はあの坊やの友人だね。それで? 協力しろと言ったら協力してくれるのかい?」


 「せざるを得ないでしょう? 少なくともここにきた時点で師匠はその気でしょうし。まぁ、フィリア様は絶対に巻き込ませませんが」



 蓮は僅かばかりの殺気を含みながらギルファルドを睨みつけた。

 ギルファルドはグラスを持っていない方の手をひらひらと振りながら肩を竦めた。



 「男だねぇ、坊や。安心したまえよ。巻き込みはしない。それどころか、王女殿下が再び城に戻るには必要な手順さ」


 「なっ……………!? も、戻れるのですか!?」



 蓮はガタッと音を立てながら立ち上がった。

 いつまでも逃亡生活をさせるわけにはいかないと思っていた蓮からすれば都合がいい。

 何より、安心できる。



 「君の活躍次第、と言ったところかな。ふむ、確かにもうこれ以上勿体ぶっても意味はなさそうだ。ファリス」


 「ふぁ?」

 

 「もういい加減飲んだだろう。そろそろ始めよう」


 「あー………わーったよぉ」



 ファリスは頭を2、3回叩き、何か魔法を使った。

 すると、酒を飲んで紅潮していた顔がスッと元の顔色に戻っていた。



 「それじゃあ、ここらでお開きだ」



 風魔法で食器や食べ物を乱暴にしまっていく。

 テーブルは生活魔法で一瞬で綺麗になり、あっという間に元の円卓に戻った。



 「ほいっと」



 「「「!」」」



 全員顔色がいつも通りに戻る。

 先程ファリスが自分にかけた魔法を全員に使ったのだ。



 「こんなものか」



 さて、と言いながらファリスは自分の座っていた席に座る。

 いつのまにか表情が先程と打って変わってこれ以上なく真剣なものになっていた。



 「急に呼び出して悪かったな、ギル、ラクレー。そして特に王女殿下。このような状況にも関わらず巻き込んでしまった事を深くお詫びします」



 ファリスは深く頭を下げた。



 「巻き込んだ、ということは、レンかラクレーに用があったという認識でいいんですの?」


 「ええ。私が用があったのは、他でもないそこのラクレーです。そして少年。重ね重ねすまない。王女殿下や少年を巻き込んだことは本当に申し訳なく思っている。王女殿下の身の安全は保障するからどうか許してほしい」


 「そういう事ならば、俺は一向に構いません。なんでしたら、俺も手伝いますよ。目的次第ですが」


 「そう言ってくれるならありがたい。それならば遠慮無く手伝ってもらうが、いいか? ラクレー。お前の弟子を巻き込んでしまうが」



 ラクレーはコクリと頷いた。



 「助かる。是非とも失敗する訳にはいかないからな。それで………」



 ファリスはチラッと春の方を向いた。

 よくよく考えたら、春とクウコはまるで無関係だ。



 「ハル殿、だったか。どうしたい? 関わるつもりがないのなら一度退席願いたいのだが」


 「うーん、獅子島くんが関わる以上、私が関わらないわけにもいかないですので、お手伝いしますよぉ。クウコちゃんはどうするのぉ?」


 「オレか? 俺は………そうだな。ギルファルド、アンタ俺が持ってない情報をもってるか?」


 「もちろん。取引か?」


 「いや、情報交換がしたいわけじゃねぇ。アンタの財閥と業務提携したいと思っててな。これが成功したあかつきには色々と情報交換出来るよう契約を結んでくれねぇかイ?」



 クウコは悪い顔でそう言った。

 しかし、



 「構わんよ」



 と、あっさりと言い放つギルファルド。



 「なんだ、えらくあっさりじゃァねぇか。もっと躊躇うと思ったんだがな」


 「情報を盗まれるくらいならこちらの方がいいと思ってね」


 「げ………バレてたのか。まァいいや。そういうことなら引き受けよう。まだ恩も返し終えてないしな」



 カラカラと笑うクウコ。

 どうやらこれで決まったらしい。



 「では、この場にいる全員が協力するということでいいんだな」



 ファリスは改めて全員にそう確認を取った。

 当然、全員頷く。



 「よし。では早速作戦内容を………と言いたいところだが、半数以上が予定外の人間だからな。まず先に話しておくべき事がある」



 ファリスがそういうと、何をいうつもりか察したラクレーとギルファルドがあからさまに表情を曇らせた。



 「では話そう。私たち“三帝”の誕生について。そして、私たち3人の悲願について—————————」













———————————————————————————











 



 少々遡ったある日の昼。

 ミラトニア王城では、未だ蓮とフィリアが失踪したことによる混乱が収まっていなかった。


 そしてこの日、勇者たちに………ミラトニアの転移者に取って重要な事が起こる事を、まだ誰も知らなかった。

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