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第559話


 「本当にありがとうございました」



 職員の代表は深々と頭を下げながらそう言った。

 奥では職員達の治療と、盗賊達の捕縛が行われていた。



 「いいってことよ。そんじゃ、オレ達はしばらく休んでっからそいつらの処理は任せるが、いいかイ?」


 「はい、もちろん。それでは失礼いたします」



 代表者はそそくさと戻っていった。

 彼自身もボロボロだったので、治療が必要だろう。

 

 というわけで、ようやく話ができるようになったわけだ。

 クウコ達は、人気の少ない場所へ行き、そこで話をする事にした。









———————————————————————————











 「これはまた、錚々たる面子だな」



 そうクウコが言う通り、この場にいるのは各国の最強の戦士が2人、転移者が2人、一国の王女が1人、とまさに錚々たる顔ぶれだった。



 「んで、久々だな。ラクレーちゃんよォ」


 「ん。久しぶり」


 「ハハハハハ、相変わらず素っ気ないねェ」



 塩対応のラクレーにクウコはそう吐き捨てた。

 とはいえ、ラクレーの性格を理解しているので、大して気にしてはいないらしい。


 そんなやりとりを見て興味が湧いたのか、ある人物がクウコに尋ねた。



 「2人は知り合いなんですの?」


 「おう、何度か戦ったことがある。まぁ決着はつかないんだがな。そういうアンタは噂のおてんば脱走王女サマかイ?」


 「む………その不名誉な異名は置いといて、やはり私の素性は知っているみたいですわね」



 スッと立ち上がり、スカートの裾を持ち上げつつ軽くお辞儀をした。

 


 「フィリア・ミラトニア。ミラトニア王国第三王女ですわ。特に気を使う必要ないので、堅苦しいのは抜きに致しましょう」


 「おう、助か………」


 「ですが、こちらにいるレンは私が生涯の伴侶と決めた殿方。男性色の強いあなたのような方でも一応女性ですので忠告しておきますが、く・れ・ぐ・れ・も!! レンに色目を使うような真似をなさらないよう………………お願い致しますわ」



 顔を詰め、最後には不敵な笑みを浮かべたフィリアに、クウコは顔をひくつかせていた。



 「お、おう………」



 濃い奴、という第一印象が付いた瞬間であった。



 「ハァ………フィリア様、あまり威嚇するような事はしないで下さい」


 「むぅ………わかりましたわ」



 少しむくれたフィリアがしゅんと引っ込んだ。

 気を取り直し、咳払いをした蓮は、クウコに話しかけた。



 「あなたが、建物の中の盗賊たちを討伐してくれたんですね」


 「そういうお前さんは、外にいるハエどもを全員生け捕りにしたんだろう? 面倒なことををするもんだ。それにいろいろ苦労してそうだし………勇者ってのも大変だな。シシジマ・レン殿?」



 少年は名前を呼ばれて甲冑を抜いた。

 現れたのは、眉目秀麗な黒髪の日本人。

 先日、王女と共に国を抜け、ミラトニア王家に混乱を招いた “獅子島 蓮” その人であった。



 「あはは………元々いた世が世なので、あまり殺しはしたくないんです。それとまぁ、こちらは大変といえば大変ですけど」



 チラッとフィリアの方を見ると、流石に反省してるのか、縮こまっていた。



 「それにしても、俺の方こそ驚きましたよ。まさか彼の有名な四死王と一緒に先生がいるなんて」



 名前を呼ばれた春は、いつもと変わらない笑顔を蓮に向けていた。

 再開できて嬉しそうだ。



 「ふふふ。そうねぇ。驚くのも無理ないかもねぇ。聖くんのところに行ったと思えばこの子と一緒なんだから」


 「何?」



 クウコは、あるワードに引っかかって、つい声を漏らしてしまった。



 「つーことは春。お前さんケンを知ってるのか?」


 「知ってるもなにも、向こうにいた頃あの子の担任教師だったの。まぁ、教えることはまるでなかったなんだけどねぇ」


 「そいつは驚いたな………」



 奇妙な縁だ。

 この世界に来て間もない男が、こうやって様々な人物との縁に現れる。

 なんとも言えない感覚だ。


 

 「まるで奴がオレ達を結びつけたかのようにも感じる………」


 「つまり、ここにいる全員が坊やを知っているということだね」



 「………………………ん?」



 声の聞こえた方向を見ると、そこには杖を持った初老の男が立っていた。

 知っている。

 クウコはこの男を知っている。

 情報屋として一流のクウコ。

 しかし、それに匹敵する情報を持ち得るのがこの男。

 技で情報を得るのがクウコだとすれば、この男は金と人を使った物量勝負で情報を掻っさらう。

 正直好ましくない。

 だが、効果は絶大。

 好ましくないと言いつつ、クウコはこの男に一目置いていた。



 「久しいな、お嬢さん」


 「アンタは老けたな、ジジィ」


 「はっはっは、“ジジィ” か。この私を老人扱いするのは君くらいだよ、クウコ」


 「本当に思ってるなら加減してるさ。そうじゃないからオレはいつまで経ってもアンタと競り合ってる。なァ、ギルファルド」



 ギルファルド・シルバ。

 おそらく人間界で最高の財力を持った大富豪。

 いや、富豪というのもチンケなものだ。

 何せ彼の財力は一国に匹敵スルと言われているのだから。

 しかし、これだけでは終わらない。



 「それが今回並んで座っているのだから、つくづく人生というのは面白い。だろう?」


 「その声………ファリスか」



 隣を歩いていたローブの女は魔道王 ファリス・マギアーナだった。



 「折角三帝全員に加え、王女に勇者に四死王までもがこの場にいるんだ。まずは………」



 ファリスは、スッと手を前に出すと、あたり一帯を埃を舞わさずに平らにし、アイテムボックスから人数分の椅子とテーブル、加えて食器も取り出した。



 「おいおい………」



 クウコが呆れたようにそう呟く傍で、一瞬にして食事の席を設けていた。

 最後には酒瓶を手に取ったファリスは、ドンッ!! とテーブルに叩きつけると、



 「呑もうか」



 と、満面の笑みでそう言うのだった。

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