第557話
「これが飛竜かぁ………」
春は年甲斐もなくはしゃいでいた。
「なんだ、お前さん飛竜は初めてかイ?」
「うん。乗った事ないよぉ。わぁ! 街がもうこんなに!」
人生で一度も飛行機やヘリに乗ったことのない春は、初めての飛行に大はしゃぎだった。
この世界にも一応飛空挺はあるが、あまりの燃費の悪さで王族が遊びでしか使っていない。
まぁ、魔法学院でこっそり誰かさんが乗り回っているという噂はあるが、あくまでも噂である。
「おいおい、そんにはしゃぐなよもういい年なんだかっ————————————」
「なんかいったァ?」
「イエ、ナニモ」
あまり女性っぽくないクウコは、若干デリカシーがなかった。
「んッ、ゥん! えー、じゃァこの先の予定だが、とりあえず部下のところ行って情報を貰う。そんで、それ次第で動きは変わるがめぼしい場所に向かう。そんな感だ」
「フワッとしてるねぇ」
「まぁ、そもそも情報のフワッとしてるからな。ただ方角さえわかりゃあとはどうにかなるかもよ?」
「………そうなんだぁ」
「お? 任せっきりにする気だな?」
「うん」
春は意外と太々しかった。
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「見てねェだァ?」
クウコがそう聞き返すと、監視をしていた男がこくこくとと頷いていた。
「そんな特徴の2人組は見てませんよ。この間大人数がここを通ったくらいですかね?」
そう、ここはケン達がファリスに紹介されて使った隠し通路だ。
しかしどうやら、蓮とフィリアはここを通っていないらしい。
「テメ、そういやそれもふわっとしか知らせなかったな!」
「え、ちょっ、ギブギブ、ぅぎッッ………に、認識阻害は流石にどうにも………ッ!!」
見張りの男にヘッドロックをかけるクウコ。
わー、と言いながら春は我関せずだった。
「まぁいい。で、ファリス・マギアーナはどっちの方角に向かったんだ?」
「ごふッゲフッ………や、やめてやるこんなブラック………」
「ァあん?」
「南東の方角であります!!」
ただのパワハラである。
「南東か………」
「あ、それともう一つ報告なんですが」
男は、【現像】のスキルで作った写真をクウコに手渡した。
写っているのは深くフードを被った男。
そして、その男が着ているコートには夥しい量の返り血がこびりついていたのだ。
「こいつは………」
「女が出てきたすぐ後に出てきたんですよ。殺気だだ漏れだったので、下手に近づけなくて顔も取れなかったんです。こいつも同じ方角に向かっていましたよ」
「何だと?」
少し考えなければなるまい。
これは果たして偶然なのか。
もし偶然じゃないのなら、あのファリス・マギアーナをつけている者がいるということだ。
「誰だ………こいつは………」
見た感じ分かりやすい特徴はない。
追いかけて直接確かめる他ないが、
「だが、今はこいつより王女達の処遇だ。もう一つのルートに向かうぞ」
「あ、もう片方の国境の見張り役なら通信魔法具が繋げますよ」
「お、本当か? そいつァ運がいい。繋いでくれ」
見張りの男は通信魔法具を取り出し、そのもう1人の見張り役へ繋いだ。
「………………お、繋がった」
『どうしたの、まだ勤務中だよ?』
どうやら見張りの男と勘違いしているらしい。
というかこの感じ、ちょくちょく通話していそうな雰囲気だ。
「悪いが電話の主はボウズじゃねぇ。オレだ、クウコだ」
『あ、え、くっ、クウコさん!? しっ失礼しました!!』
ピシッとした声が聞こえる。
どうやらクウコは部下に恐れられているらしい。
「ハァ………そこまでかしこまらなくていいんだがなァ」
「そうだそうだ。もっとフランクに接さないとな」
「お前のは舐めてるっていうんだぜ?」
「はっはっは、クウコさんってば冗談きついですよ」
どうやらこの男は結構クウコを舐めているらしい。
まぁ、ああ言いつつも、こちらの方がクウコ的には接し易そうだ。
「まぁいい。ここ数日でそっちを誰かが通らなかったか? 3人組が通ったと思うんだが」
『はい、2週間前ここを通りました」
「本当か!? どっちの方角かわかるか!?」
『ええ、と………方角というよりは場所が…………』
「「!!」」
春とクウコは思わず顔を見合わせた。
予想外の収穫だ。
居場所が分かるのなら話は早い。
「でかした! で、何でわかったんだ?」
『少し怪しいと思ったので、マニュアル通り道沿いで一般人のふりをしていたら、アーメリアへの行き方を尋ねられたんです。恐らく彼らはアーメリアに向かったものかと』
「アーメリアか………………やはり思った通りだ………!」
クウコはしめたと言わんばかりに笑みを浮かべた。
どうやらほぼ確信が持てたようだ。
「ファリス・マギアーナが南東に向かうっていた時点でもしやと思ってたんだ。あそこには、【万宝】 ギルファルド・シルバの別宅がある。もちろん表名義じゃァないがな。これは多分オレだけが知っている情報だ」
「【万宝】………確かラクレーちゃんと同じ三帝の人………だったよね? という事は………!」
「ああ、これで決定だ」
王女と勇者、それに三帝の内2人が、集まっているということだ。




