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第556話


 「そういや、人を探してんだっけ?」



 スプーン片手にクウコはそう言った。

 クウコの言う通り、春は今ある人物を探してこの国を彷徨っているのだ。



 「そうなのぉ。といっても、あまり当てもないんだけどねぇ。気まぐれな情報源と噂だけで探してるって感じかなぁ」


 「そいつァ大変だねぇ」



 皿を持ち上げ、残りを一気にかき込む。

 空になった皿をガタンと雑に置いて、クウコは春に頭を下げた。



 「うまかった」


 「うふふ、お粗末様です」



 春は食器を生活魔法で洗い、アイテムボックスの中にしまった。

 

 現在は正午。

 日が真上に登る時間、クウコはいつも情報集めや部下の育成など、仕事が山積みだった。

 だが、その部下もいない。

 情報を集めようにもこれじゃ依頼は入ってこない。

 

 ならばいっそ昼寝でもするか?

 いいやしない。



 クウコは目つきを尖らせ、いつものように猛々しいオーラを見に纏いながら、仕事を始めるのだった。




 「で、依頼はなんだい、お客サマ」

 


 「!!」



 春は驚いたように目を見開いた。

 ククク、と可笑しそうに笑うクウコ。

 


 「別に驚く事でもねェサ。オレのアジトにいるってこたァ、情報を買いに来たんだろ?」



 ハルは感心したように頷くと、いつに無い真剣な表情でクウコにこう尋ねた。



 「探………せるの?」



 クウコはキセルを片手に、堂々とした表情でこう言った。



 「このクウコ様に任せとけ。お前さんは命の恩人だ。何が何でも探し出してやるサ」



 「………!!」



 キュッと口を結ぶ春。

 実を言うと、この時春はそこまで期待してはいなかった。

 しかし、クウコのこの自信。

 これほどまでに堂々と言ったクウコに、春は期待を抱き始めたのだ。


 すると、春は懐から二枚の紙を取り出した。



 「この2人を探しているの」



 紙に描かれていたのは、ある人物の肖像画だ。

 同年代の少年と少女の絵。

 片方は知らないが、もう片方はクウコもよく知っていた。



 「ほォ? フィリア・ミラトニアか………」


 「! 知ってるの!?」


 「各国の重役と王家の顔と名前は全て記憶している。それにこの王女は結構ポップだしな。ま、それは置いといて………こっちのボウズは顔つきからして転移者だな。逃走援助をしたシシジマ・レンか?」


 「うん。そうよ」


 「なるほどねぇ………」



 トントン、と机を叩き始める。

 まるで何かが見えているかのようにそこをじっと見据える。

 凄まじいほどの集中力。

 一体何をしているのだろう。



 「………情報ってのは、繋がってるんだ。一つの情報からさらに別の情報へ。その情報をうまく使ってさらに次の情報を探せる。そうやってうまく情報を、商品を増やしてオレは金を稼いでいる。そして誰にどの情報が必要なのか、客を自分から探すのも重要だ。狙い目の客がいたら先んじて情報を仕入れ、そして自分から商談を持ちかける。そしてその金で時には情報を買う」


 「??」


 「要はどれだけうまく使えるのかって事だ。そしてオレは、そのために必要なスキルを一つ持っている。それが【検索】だ」



 【検索】


 【現像】のように、かなり数の少ない希少スキル。

 何か知りたい事があれば、一度記憶した事柄なら、例え忘れていてもそれを自動で思い出す事ができる。

 例えばこの場合、蓮を探すのなら恐らく国外だと仮定して、国外への逃走ルートなら何処があるか、と頭の中で思えば、一度記憶した情報なら一瞬で思い出せる。

 そしてそれを絞り込む場合、更に別の事柄を検索し、ヒットすれば絞り込めるというわけだ。




 「一般人ならば、ほとんど意味のないちょっと便利なスキル。だがオレのように1人じゃァ絶対に処理できないような量な情報も、一瞬目を通しゃそれを【検索】にかけられる。んで、検索した結果王女達が向かった可能性が高い場所は………この二ヶ所だ」



 地図を取り出し、指を指した。



 「二つとも国外………」


 「仮にも王女と勇者。国内よりは外に出た方がいいだろうぜ。もちろん魔界は無しだ。ただ、今は特にあの女………剣天のヤローが付いてっから、多少の無理はきくかもしれねぇな」


 「剣天………って、ラクレーちゃんも!?」


 「なんだ知らなかったのか? 今この2人を連れて逃げてるってよ。ま、これは他国に知られれば弱みになりそうだから極秘になってるがな」



 と、極秘情報をなんでもないようにペラッと喋るクウコ。

 この程度造作もないという事だ。



 「それで、なんでここなの?」


 「国外に通じてる裏ルートでまだ閉じてないのがこの二ヶ所だ。どちらにせよルナラージャってのは都合がいい。そんでもってオレの予想だとこっち。これは同じ三帝のファリス・マギアーナが管理してる超極秘ルート。この前こっちに来たって情報を受けたし、合流するつもりかもな」



 春は唖然としていた。

 一切当てのない旅だったが、たった1人協力者が増えるだけでこうも違うのか、と。

 それと同時に、クウコという人物のとんでも無さを思い知ったのだった。



 「それじゃあ、時間もない事だし早速現場に向かうか」


 「え?」


 「各地に点在してるオレの部下。あいつらとの契約は一切の通信が途絶えて1週間で消えちまうのサ。その前に現場に行ってファリス・マギアーナとフィリア・ミラトニアを見たやつにどっちに行ったのか聞き出さにゃならねぇんだ。ここってヤーフェルだよな?」


 「あ、う、うん。ヤーフェルの東地区だよぉ」


 「それじゃあ、飛竜が使えるな。一匹借りてくるから、東区の飛竜乗り場に向かうぞ」



 そう言うと、クウコは早速装備品を取り出して着替えを始めた。

 もう早速出るつもりらしい。


 だが、それでいい。

 早く会わなければならないのだ。



 『良かったじゃないか。上手くいってさ』



 春だけに聞こえる耳障りな声。

 あまり人を嫌いにならない春が、気に食わないと思った数少ない人物だ。



 「………元はといえば、あなたが2人の居場所を教えないからでしょ」


 『あんまりヒントを与えすぎると僕も怒られるしね。下手な事ができないのさ。その代わりにあの事を教えてあげたでしょ?』


 「………」


 『この先、ケン君が三国を統合し、滅びた国に()()()()()()()()()()()()()()()()()()こんな極秘を教えられたのも、直接パスが繋げる君だからなんだよ?』


 「………わかってるわ」


 『ふぅん。そんじゃ、精々上手くやってね。先生?』



 トモの通信はこれだけだった。

 そうだ。

 何が何でも伝えるんだ。

 あの事を。

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