第554話
「暗木 メメです。えふふっ、よろしくねぇ」
ペコリと小さくお辞儀をするメメ。
髪が前に垂れてただでさえ病んでる顔がさらに凄い事になっていた。
「おかしな奴だが敵じゃないからな。間違って刺したりすんなよ」
「えふふ。それは怖いねぇ。でもいつも刺すがわだし、新鮮でいいかもねぇ………えふふ、えふふふふっ」
絶好調だ。
「すんごいじゃあくだな」
「少しはオブラートに包もうぜ」
確かにラビの言う通り邪悪だけども。
闇はあるけども。
「この子が、前にケンくんが助けたって言っていた子ですか?」
「おう。元は流と同じルナラージャ側の転移者だったんだ。色々あって、今はこっち側。今まさにちょいと頼み事をしてンだよ。な」
「えふふ。まぁね」
そう、暗木には事前に通信魔法具を渡しており、いつでも通話出来るようにしておいたのだ。
「でも、結構遠くなかったですか?」
「ちょっと高くついたケド、飛竜に乗ってこっちに来たんだ。ルナラージャは飛竜乗り場を大体把握できてるし、ミラトニアもケンくんに聞けば短時間で行ける方法がはわかるしね」
「飛竜を………」
向こうでいうところの飛行機のようなものだ。
飛竜に籠をくくりつけて、100人程度を運ぶ。
こちらの運送業は、テイムしたモンスターや使い魔を用いたものなのだ。
「で、なんでメメちゃんを呼んだんだ?」
と、流。
流石に同級生の動向は気になるのだろう。
「こいつには、ヤーフェルの反乱軍に合流してもらうつもりだ。“反乱軍の肩を持つ転移者” っていう情報があれば、向こうの眼が俺たちに向く事はねーだろうしな」
「………戦わせるって事か?」
「!」
ピリッとした空気を放ちながら、流れはそう尋ねた。
すでに酷い目に遭わされてるメメを巻き込みたくないというところだろう。
メメは、天崎の手によってすでに化け物にされている。
現場にいた天崎はもとより、留華にも裏切られたと思っているので、心には確かに傷を負っている。
しかし、
「強要はされてないし、私が受けたいって言ったんだぁ」
「!? でもメメちゃん、天崎や姉貴達には二度と関わりたくないって言ってたんだろ?」
「まぁ、ね。ぶっちゃけ少し怖い。えふふ。でも、止めなきゃいけないじゃん。15年前、転移してすぐのあの頃みたいに戻りたいよ」
………………ん?
「まて、は………? 15年前??」
聞き捨てならない台詞だった。
どういう事だ?
俺たちとえらい違いじゃないか。
「あれ? ケンくん知らなかったの?」
そう言ったのはウルク。
そういえば、こいつはもともと転移者達と一緒にいたんだった。
「ナガレくん達、もう30歳超えてるんだよ」
ウルク、流、メメ。
この3人以外の全員の時が一瞬止まった。
そして、
「「「嘘ォオ!?」」」
「「「マジだよ」」」
なんと、この見た目で………年齢的には俺と変わらないくらいの見た目でまさかの10歳以上も年上だったのだ。
「いや、待てよ………………確かにこいつらの主神は命の神………不老のスキルを持っていてもおかしくない」
「えふふ、さっすがケンくん。あたりだよ」
なんてこった。
こいつらは人間の永遠の望みである不老をちゃっかり手に入れているようだ。
「俺達が転移して2年くらい立ってから、だっけ?」
「うん。私達が成人してすぐくらいに突然神様がみんなの前に現れて、これあげるとか言ってスキルをくれたの。それが【不老】のスキル。女の子たちはおおはしゃぎだったよぉ」
じゃあ、蓮達もなんらかのスキルを得られる可能性があるわけか………
「そうだったのか………なぁ、ナガレおじちゃん」
「ぐふっ………マジで傷つくからやめてラビちゃん………」
おそらく、精神年齢も固定なのだろう。
20歳で固定………まぁ、色々と丁度いい年齢だ。
「まぁ、それはいいとして、話を続けるぞ、流おじちゃん」
「やめてよ!! こうなるから言わなかったのはお前ならわかってるだろ!!」
さて、どうだろうか。
それは置いといて、話を続けよう。
「そんなわけで、反乱軍とのコンタクトを取りたいわけだが、ウルク、ファルグ」
「ん?」
「なーに?」
「ヤーフェルからいい加減連絡は飛んでこねーのか? クウコから掛かってくる予定だろ?」
通信魔法具はこの二人のどちらかに持たせた筈だ。
俺は作業中だったので、連絡はなかなか取れなかったが、そろそろ二人のどっちかに連絡が届いている筈だ。
だが、
「それが、来てないんだよ」
ファルグがそういうと、ウルクも同意する様に頷いた。
「何………?」
「おかしいと思って俺からもかけたが、どうもさっぱりでよ、そもそも魔力が届いてないみたいなんだ、これが」
魔力が届かない?
馬鹿な。
「………………ちょっと貸してみろ………!!」
「あ、ああ」
俺は通信魔法具を受け取り、通信を試みる。
確かに、魔力が方向を見失って四散していた。
ファルグの言う通り、向こうの通信魔法具は壊れている。
「クソッ………」
俺は通信魔法具で、反乱軍連絡を入れた。
すると、
「! 繋がった………おい、聞こえるか!!」
『ケン殿? 如何なさった?』
無事つながった。
この声の様子だと、反乱軍に変なことを起きなかったらしい。
「よし、無事だな。なぁ、今クウコのアジトに向かう事は出来るか?」
『クウコ殿に? ああ、使いの者を臆する事は出来るが、何故に?』
「話は後だ、様子を見てくれ!!」
『あ、ああ。了解した』
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俺たちはしばらく連絡が入るのを待った。
「………無事だといいけど」
微かに震えながら、ウルクはクウコの身を案じた。
俺としても、ここで何かあってもらっては困る。
あいつは貴重な情報源だ。
だが、それ以上に、無事であって欲しいと願うばかりだ。
「まだ何があったとは限らねぇよ。だが、嫌な予感しかしねぇ………」
不穏な空気が流れる。
まだか。
まだ連絡は来ないのか。
その時、
「!!」
けたましく音を発する通信魔法具。
来た。
「わかったか—————————」
『けっ、ケン殿!! これは………これは………!!』
「どうした!? 何があった!!」
向こうで叫んでいる兵士の様子から、ただ事ではない事が窺える。
一体何があったのだろうか。
『しっ、ししし死んでいる………………ここにいる情報屋が、全員死んでるんだ!!』
「なっ————————————くッ、クウコは!?」
頼む………せめてクウコだけでも………!!
『それが………クウコ殿だけ死体が………』
「………無い!?」
まさかクウコが………一体何故………そもそもクウコがやったのか??
クソッ、ここじゃわからねぇ………!!
ギリギリッ、と奥歯を軋ませながら歯を食いしばる。
何もわからないのがもどかしい。
『くっ………なんと酷い………ここまでボロボロにいたぶるなんて………』
魔法具の奥から、無念そうにそう言う兵士の声が聞こえる。
少し落ち着いてからかけ直そう。
俺も少し考えなければなるまい。
そう思って通信を切る旨を伝えようとしたとき、兵士があることを口にした。
そしてそれは、
『………みんな………心臓を背中からやられている………!! 一体誰がこんなことを』
俺をさらに揺さぶるのだった。




