第549話
「が………ァ………………」
なんとか殺さずに無力化出来た。
とりあえず、回復魔法はかけられない様に術式破壊の準備をしつつ、近づいてみる事にした。
「これ以上は動きませんよね?」
「く、そ………何者………だ」
「諸事情で言えないんですけど、まぁここを無茶苦茶にしに来たって事を覚えてくれるとありがたいですね」
ミラトニアから国を滅ぼしに来ましたなんて口が裂けてもいえない。
さて、どうするか。
とりあえず、抵抗する気配はなかった。
「何が………目的だ」
「それも言えないですね。逆にこっちが聞きたいですよ。こんなものを作った目的を」
「そんなも、のは………知らん」
じっと目を見る。
と言っても、嘘を言ってるのかどうかはリンフィアにはわからないのだが。
ただ、これが嘘ではなさそうだということはなんとなくわかっていた。
「リンフィアねえ!」
「あ、ラビちゃん! 戻ったんだね」
ちゃんと小さくなっていて安心した。
別に胸が負けていたから小さくなって安心したわけではない。
断じてない。
ともかく服も見た目も元に戻っていた。
「こいつらぜんいんしばっといたぞ。そいつもしばるか?」
「や、この人は特に重症だから手足だけ縛っといてもらってもいいかな? あと詠唱出来ないように拘束具も忘れないでね」
「はーい」
とりあえず、このまま待機する。
一時避難させているニール達はそのままでいいとして、今からまた攻め入る予定であるリンフィア達3人は、やはり固まって行動しなければどうしても危険なのだ。
—————————
待つこと20分。
流の戻りが遅い。
このままでは動けないので依然待機中だ。
すると、
「………おい女」
少し体力が回復したのか、若干の詰まりはあるが話せるようにはなっていた
「はい?」
「何故俺の口には拘束具を付けない」
「あなたからは出来るだけ情報を引き出しておきたいので。この中で一番強いですよね? 多分、1対1なら時間は掛かったにせよ負けていたと思います」
おそらくランクはS相当。
ラビも、薬の効果切れの時間からして勝てなかっただろう。
「だったら、ここの情報を持ち得るのはあなただけかなって」
「残念だが、本当に何もしらない。どうせ聞きたいのはこの貧民街のことやあの飴玉の事だろう? 残念だが、お貴族様共は俺達に何も教えることはなかったよ。知ったやつは消されたって話もあるくらいだ」
「!?………消されたって………………!!」
どうやら思った以上に根の深い話らしい。
すると、
「ただ………」
「?」
「ここと似た様な場所が国のあちこちにあるというのは聞いたな」
「!!」
リンフィアは、それを聞いて大きく目を見開いた。
とても信じたくはないが、やはり嘘をついている様子はない。
こんな非人道的な施設が国中に点在しているということは、この国の王家はこの件に大きく関与している可能性が高い、いや間違いなく関わっているだろう。
「許せない………」
「許せない、か………………ははは、あんたまさか他所の国から来たのか?」
「………まぁ、そんな感じです」
「変に誤魔化すことはない。そうか他所から………ククク、まぁ確かに、他所様から見ればこの国は多少イカれているかもしれんな。何せ俺もミラトニアからの移民だ。まぁ閉鎖されてしまうずっと前の話だがな」
男はしみじみと語る。
「ああ。この国はおかしい。だが、住んでみればそれが普通に思えるものなんだよ、これが。あんな大事件があったんだからな」
「大事件?」
耳につく単語だ。
国内でそんな大きな事件があったのだろうか。
「その様子じゃ、知らないらしいな。それじゃあ、一つ教えといてやろう。もしこの国に楯突くつもりならやめておけ。確実に全てを失う」
男は真剣な面持ちでそう言った。
あまりに真剣にいうものだから、リンフィアも敵だということを忘れて耳を傾けていた。
もしかしたら、悪人じゃないのか?
ただ雇われているだけで奴隷達にひどいことをしていないんじゃないのか?
そう思ってしまうほどに、警戒心は緩んでいた。
実際、もう男に戦意はなかった。
それにリンフィアが気づいていたかは別の話だが。
「あなたはこれからどうする気ですか?」
「さぁな。特に考えてもない。あとはまぁ、煮るなり焼くなりすきに、ッ………ぁ、え…………ぼぽぽ………?」
ぐりん、と目が後ろを向いた。
ビクビクと体を跳ねさせながら、血を吐き続ける男。
いつの間にかうつ伏せになっていた男の背には、見知った顔の男が乗っていた。
「煮るのも焼くのも俺の趣味じゃないから、刺させてもらうね」
背中から心臓を一突き。
それが、この殺人鬼のやり方。
クスノキ・ナガレ
—————————否
「ダメでしょ。きっちり殺しておかないと、後々反撃くらって死んだりでもしたら聖やニールちゃんが悲し—————————」
急に喋るのをやめた。
どうやら気づいたらしい。
こちらの敵意を。
だったら、直接聞いておこうか。
「誰? あなた」
銃口を向けられ、動きを止める流。
手を挙げて、白々しく降参のポーズを取る。
「なんの、つもり?」
「喋りかた、顔、声、固有スキル、記憶。これはちゃんとナガレくんのものです。そして、多分これは本物」
「? じゃあもう本人って言ってるもんじゃ」
「魔力の質、その殺気、残忍さ。これはナガレくんじゃない。誰かが身体を乗っ取った? ううん、多分そうじゃない。じゃあなんなんでしょうね。それが私にはわからない。だから聞いてるんです」
魔力を高めつつ、隣でリルに戦闘準備させていた。
そしてリンフィアは再び問いかける。
「あなたは誰なんですか!!」
静寂が訪れる。
二人の間には異様な空気が流れていた。
すると、
「ははは………魔力の質、か。なるほど、確かにそれは盲点だった。周囲に魔族なんていなかったし、気にしたこともなかったよ」
「ッッ………………!!」
放たれたとてつもないプレッシャーに耐えきれず、二人は距離を取った。
「クスノキナガレじゃない。うん、ちょっと違うし、ちょっとあってるかな。僕はちょっとばかしややこしくてね」
振り向いて目を見た時に確信した。
やはり、いつもの流ではない、と。
「僕はね、クスノキナガレの影とか闇とか、そういうものだよ。リンフィアちゃん?」




