第548話
「凄い………」
ラビのあの動き。
先程まであんなに手こずっていた敵を相手に、あそこまで翻弄できているとは。
自力も技術も、明らかにパワーアップしている。
どういう仕組みかは知らないが、これならば任せられそうだ。
リンフィアは片方の銃を仕舞い、腰に下げている長めの筒を銃口に嵌めた。
ケンから貰った、単発用の拡張パーツ。
連射はできなくなるが、一撃の威力が格段に増す。
「よし………」
手に魔力を集中させる。
リンフィアは、空の魔法弾にグッと力を込めた。
何故ストック済みの魔法弾を使わないのかというと、そもそも今から撃とうとしている魔法の弾丸がないからだ。
デスウェポン戦で使ったあの弾丸。
あれが欲しい。
あの時は作れなかったが、今はどうだ?
力は増したし、魔法もだいぶ覚えた。
全く同じものは無理でも、似通ったものは作れるんじゃ無いだろうか。
「ふぅー………」
思い浮かべるのはあの魔法。
虹色の一撃を放った弾丸の魔法だ。
でも、やはりあれ程の威力は、私には出せない。
だから “絞る”。
力を収束させ、かつある程度の大きさは残す。
威力も範囲もあの時に劣るけど、これならば敵を一網打尽に出来る。
————————
「お?」
チラッとリンフィアの方に目を遣る。
かなりの魔力の高まりだ。
これなら最後に一気にという作戦は可能だろうと、ラビは確信した。
「あ!? なんだこの魔力は!?」
しかし、注意しなければならないのはこいつらだ。
この辺は障害物もなければろくな建物もない。
隠れて射撃というわけにもいかないのだ。
だから、剥き出しになったまま大技を出そうとしているリンフィアを守りつつ、敵を一点、または一直線に並べなければならないのだ。
「にひひ、戦場の操作が得意分野で良かった」
「!!」
ドラゴン、ゴーレム、サーペント、ハーピィをはじめとして、様々なモンスターが呼び出される。
今こそ軍師としての能力を発揮する時。
『いくよ、お前達!!』
「「「おぉッッ!!」」」
陣形を組み、まず敵を囲む。
中央にはラビが陣取り、外に出ようとする敵を背後から攻めれば簡単に出ようとはならないだろう。
「なんだこいつら!?」
「数が多いだけだ! 落ち着いて戦えば余裕で崩せる。奥の女は後にしろ!!」
そう指示を出す男にドラゴンが一匹突っ込んだ。
しかし、男は目を遣る事もなく槍を突き刺し、そのまま上空へ飛んだ。
「散れッッ!!」
男の声で仲間達が散っていく。
その時、一瞬反応が遅れたモンスターたちは、
「消えろォオオッッ!!」
その技の餌食になった。
雨のように氷の氷柱が降ってくる。
怒濤の様に降りかかる氷柱。
地面を砕き、逃げ遅れたモンスター達を次々に串刺しにしていった。
そして、
「セァアッッ!!」
ドラゴンの頭を槍が貫通する。
男は、周囲のモンスターの中で最も強いドラゴンから片付けようとしたのだ。
しかし、そのドラゴンもタダではやられない。
後頭部から口に飛び出した槍を噛み、ガッチリと捕まえた。
「むっ………!!」
ラビはその隙に周囲のモンスター達を男に飛びつかせた。
周囲にいる他のドラゴンが一斉に火を吹きだす。
だが、次の瞬間。
「!!」
比較的弱いサーペント達の背後から一人中央に入り込み、炎を一ヶ所だけ弱めて逃げ道を作る。
すると、その逃げた先にも数体のモンスターが待ち受けていた。
「ハッ、その程度の浅知恵が通じるか!!」
素手になった男は、そのまま空中でモンスター達の攻撃を捌き、頭に着地する。
そしてすぐ様槍の後ろを殴ってドラゴンの頭を完全に貫通させた。
他の仲間達がそれを拾って男に投げ飛ばす。
槍を受け取った男が、飛びかかってきたモンスター達を一掃した。
「流石だな」
助けた男がそういうと、
「まだ油断はできんが、このままならどうにかなりそうだ」
「ん………………? いや、待て!!」
男が指を刺したのはラビのいる方向だ。
散り散りになっていった敵の数名が追い詰められていた。
「残念だな!! 単体ならワタシ一人で十分潰せるぞ!!」
「クッソ………舐めやがって!!」
上空に飛び、弓を構える警備兵。
魔力が溜まり、矢に炎が灯る。
「これでも喰らえッッ!!」
火花を撒き散らし、炎を燃え上がらせた矢が、風を切ってラビ達に突っ込んだ。
すると、
「引っ込め!!」
モンスター達が一瞬にしていなくなった。
矢は空を貫き、そのまままっすぐ地面に突き刺さった。
「ゴー!!」
再び地面から飛び上がったモンスターが弓兵に飛びかかる。
しかし、流石にAランクレベル。
落ち着いて距離を取り、弓を構えた。
————————先回りしたラビに気付かないまま。
「だーれだ」
「!? しまっ————————————」
「ハァアッッ!!」
「馬鹿が」
更にその背後に敵が現れる、が。
「おやぁ? 馬鹿はどっちだろうな?」
周囲にラビのモンスターがいる以上、そこに死角はない。
これもラビの罠だった。
ラビはそのまま背後から来た敵を空中で避け、弓兵と激突させつつ、そのまま同時に撃破した。
「ゼァアアァアアアッッッ!!!」
地面に叩きつけられる二人。
ラビは散り散りになったのを利用して各個撃破していたのだ。
「クソッ………あの女から潰すぞ!!」
奥の3人が突っ込んでくる。
その3人を追いかけるようにして、モンスター達も包囲網を徐々に縮小していく。
「くッ………………こっちに来てるな」
「放っておけ。多少時間も食うしダメージも増えるだろうが、ゆっくり戦えば勝てなくはない」
そして、全ての敵が中央に集まった。
かなりの密度だ。
だが、囲んでいるとはいえ、敵は歴戦の戦士。
確かに時間をかけて戦われると不利かもしれない。
「さぁて。大人しくすれば痛い目には合わずに済ませてやる」
「まぁ、多少楽しませてもらうがな」
警備兵達の下劣な笑い声が聞こえてくる。
しかしラビは表情を崩す事なくこう言った。
「あんたらの負けだよばーか」
ラビははそのまま上空に飛んで行った。
反応した敵がすぐ様攻撃を仕掛けるが、モンスター達が盾となり、ラビに攻撃が当たることはなかった。
「あの女………!! まぁいい、まずはこの鬱陶しいモンスターどもから—————————」
一瞬の出来事だった。
振り返ると、モンスターは一匹もいなくなっていたのだ。
「な………に………ッッ!!」
そこにいたのは、リンフィアだけだった。
「ごめんね、待たせて」
「いや、バッチリだ!」
異様な魔力の高まりに、警備兵達は唖然とした。
攻撃はわからない。
しかし、今まで見たリンフィアの戦いかたで、高速の遠距離攻撃が来ることは分かっていた。
「全員防御体勢————————————」
「いっけぇぇえええッッッッ!!」
引き金を引く。
物凄い勢いと共に、弾は静かに打ち出された。
弾丸はまるで花のように開いていき、虹色の光を撒き散らしながら一瞬で大きくなった。
しかし、それでも弾丸。
周囲の砂粒や石をとてつもない勢いで弾き飛ばしながら、一直線に。
虹の線は瞬く間に敵を飲み込み、そして弾けとんだのだった。




