第547話
「………ふぅ」
「っ………………!?」
声を発するごとに、本能的な何かが揺さぶれらている様な感覚だった。
警戒しなくてもいいと思っているのに、身体が拒絶している。
一体何があった?
何故ここまで、警戒してしまうのか。
そんな考え事が、リンフィアからほんの僅かに油断を作ってしまった。
「リンフィアねえ、あぶない!!」
「!」
振り返ると、剣を振りかぶった敵が立っていた。
咄嗟に銃を向け、引き金を引くが、
「あ………!?」
弾切れだった。
余計な思索のせいで、リロードをし損ねていたのだ。
リロードして撃つ頃には、おそらく喰らっている。
リンフィアはそれを察知し、至近距離ようの魔法を準備しようとすると、
「!?」
身体が斜めに傾いて剣を躱した。
目で追っていると、いつの間にか流がすぐそこまで来ていた。
「油断はダメだよ」
「あ、ありがとうございます………」
「チッ、このガキがァアッッ!!」
背後から突き込まれた剣を半身になって躱し、腕を引っ張って前にこさせる。
そのまま腕を後ろに持っていき、前に倒れ込んだところでダガーを首に当てた。
「な………………!!」
「!??」
恐ろしく滑らかな動き。
やられた警備兵も何をされたか理解していない様だった。
「はい、おしまい」
ピッ、と首筋に赤い線が入る。
数秒もしないうちに、押さえつけられていた腕は一切の抵抗をやめ、そのまま動かなくなった。
「リンフィアちゃん」
「!!」
「向こうをやってくるから、こっちは頼んでもいいかな?」
「は、はい」
流は柔らかい笑みを浮かべると、敵が集まってきている方向へ突っ込んでいった。
「リンフィアねえ、ナガレにいは何しに行ったんだ?」
ボロボロになったラビがリンフィアの背後につきながらそう言った。
やはり向こうは向こうで苦戦中らしい。
「一人で向こうを相手にするって」
「え!? だってナガレにいリンフィアねえよりもよわいんじゃなかったか!?」
「いや………」
そうだ。
ラビの言う通り、単純な戦闘能力ならばリンフィアの方が上。
流の武器は戦闘力というよりは固有スキルによる闇討ちだった。
しかし、今の流は戦闘能力さえ武器になる。
特にあの動き。
技術は達人クラスだと言えるだろう。
「それよりもラビちゃん、後残り何人くらいかわかるかな?」
「たぶんむこうをぬいて6にんくらい、かな?」
「6人か………」
正直微妙な数字だ。
いけるかいかないかの瀬戸際といったところだろう。
「リンフィアねえ、とっておきとかある?」
「まぁ一応ね………でも一発限定なんだ。しかもケンくんに内緒で作ったから確実とは限らないよ」
「でもいうってことはじしんはあるよな?」
う、と困った顔をしたリンフィア。
ああいっておいて今更気まずいが、実はかなり自信があったのだ。
「………正直ある」
「そっか!」
ラビはぴょんと外に飛び出すと、すーっと息を吸って全身に力を込め始めた。
「じゃ、ワタシもとっておきをいくぞ!」
ラビはポケットから大きめの丸薬を取り出した。
何やら見覚えのある丸薬だった。
「それって………………!」
形は大きいが、間違いない。
これはケンがラビに渡していた、年齢を引き上げる薬だ。
「ワタシしらなかったんだ。おおきくなったとき、どうじにちょっとつよくなってたことに。これなら、ほんのすうふんかんだけはあれがつかえるようになる」
ラビが丸薬を口に加え、ガリッと噛み砕いた。
すると、みるみるうちに身体が膨らんでいった。
「師匠達が、合宿に行ってる時に編み出した未完成の技を!」
「!?」
いつも舌足らずな発音をしているラビの声がはっきりと聞こえた。
髪が伸びて髪留めが切れ、身体が徐々に成長していく。
そして、
「ひひっ、これはいいや」
ニッ、と相変わらず尖った八重歯を剥き出しにして笑みを浮かべた。
「さァ、悪党ども! ワタシが一人残らず相手をしてやるぞ!」
指を刺してラビはそういった。
明らかにこれまでとは違う。
リンフィアは、大人になったラビから受ける圧に驚いていた。
ただ、
「ら、ラビちゃんその前に服を………」
「ほよ」
ラビは成長して元々着ていた服がはち切れんばかりになっていた。
「うわわわわ!! みっ、見えちゃう見えちゃう!」
ラビは慌てふためきながら胸と下を押さえた。
そんな状態のラビを敵は放置する訳がなく、
「ハッ、結局は見掛け倒しだ!! せっかくクソガキがこんないい体になったんだから楽しませても、ッら、ッッ、ぐぼォオッッ!?」
ラビは敵の攻撃を最低限の動きで躱しつつ、一瞬で敵の懐に入ってダガーを握った手で腹部に4発打撃を加えた。
「え!?」
ラビがあまりに滑らかに動いたので、驚きのあまり声も出なかった。
しかし実は種がある。
「サンキュー、スラ左衛門」
「ありがたき御言葉」
脇から覗いていたスラ左衛門が動きを伝えていたのだ。
それにしても完璧な攻撃だったが。
「ぐッ、お………この女………!」
「さて、ここからが本番だ」
スラ左衛門が一度引っ込んだ。
すると次の瞬間、ラビから異様な圧が放たれ始めた。
スッと手を上げ、集中し始める。
間違いない。
「来い、スラ左衛門!!」
憑依召喚だ。
影から飛び出した青い光がラビを包み、それをまるで鎧の如く纏い始める。
これは、モンスターの力を纏い、自在に扱う技だ。
術者の力が強いほど、当然強くなる。
一見すると、以前と同じ形態だ。
しかし、感じる力は完全に異なっていた。
「………!!」
敵の警戒が増していく。
彼らも一流の戦士たち。
ラビの脅威は刺さる様に伝わっていた。
そして、それに反する様に余裕のあるラビは、敵にこう言い放ったのだった。
「よーし、さっさとぶっ飛ばして終わらせてやるぞ!」




