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第545話



 正面に立っている “俺” は、俺と全く同じ構えをして目の前に立っていた。



 「こうなって初めてわかる………これはもう人間じゃない」


 「さいでっか。俺はまぁ気に入ってるけどな。力をくれたアイツに感謝してるよ」


 「それがまさか自分を殺すかもしれないなんて思わなかったでしょ?」


 「さぁな。まぁ、あれだ」



 お互いにグッと踏ん張り、魔力を溜める。

 そして、



 「四の五の言わずに来いっつー話だ!!」



 拳がぶつかり合った瞬間、地面に大きな亀裂が走った。

 一歩下がって再び接近する。

 お互いの拳が入り混ざり、爆音の鳴り響く激しい攻防が繰り広げられた。



 「ハァアアッッッッッ!!」


 「やァアアアアッッッ!!」



 拳がほおを掠める。

 かなりの正確さだ。

 おそらく、俺の技術までトレースしている。



 「はははははははははは!! スッゲェ!! 初めてここまで思いっきり戦えたぜ!!」


 「く、ゥッ………」



 向こうの口数は明らかに減っている。

 やはりかなり消耗するらしい。



 「別に無理はしなくていいんだぜ? その腰にあるダガーを抜いても構わねェぞ?」


 「これは………抜かない」



 拳に魔力纏わせ、連続で攻撃を放ってきた。

 俺はフッと力を抜いてそれを躱していき、一気に距離を詰めた。

 しかし、流石に俺の格闘スキルを一次的にとはいえ引き継いだのか、嫌なタイミングで牽制され、間合いを取らされた。



 「やるな。にしても意外だな。 はっきり言って俺の力はテメェには分不相応だ。それでもまだその姿でいられるって事は、余程強い神威を打ち込んだんじゃねぇのか?」


 「その………通りだ、よ!!」




 すると “俺” は、大きく手を後ろに下げた。

 貫手の構え。

 手には超高密度の電気が纏っていた。

 雷二級魔法【ライトニング】の重複使用だ。



 「喰らえぇェェェッッ!!」


 「ハッ」

 


 俺はスッと手を出して、それを掴もうとした。



 なんのつもりか知らないけど、腕は持っていく、的な事を考えているのだろうな。

 しかし、



 「馬鹿が」


 「!?」



 その瞬間、激しい電撃が一瞬にして霧散してしまった。



 「やっぱし、能力値とある程度の技術はトレース出来ても、脳みそまでは完全にトレース出来なかったみたいだな」


 「!!」



 地面から魔法が飛び出してくる。



 「さて、どれだけ近づけてるのか見てやるとすっかな」


 「こんなもの………………!!」



 身体強化を上乗せ。

 一箇所だけ魔力が薄い場所があるをの見つけた “俺” は、そこへ飛び込み、罠を警戒する。

 しかし、



 「!?」



 何もでてこない。

 その瞬間に、ようやく気がついたらしい。

 何もない事、それ自体が罠だと言う事に。



 「しまった!!」

 

 「見えすいた罠に引っかかりやがってこの馬鹿が!」



 俺はすぐに背後をとって、ガッチリと羽交い締めにした。



 「判断が遅いと俺相手じゃ勝ち目はねぇぞ。普通に戦っても脳みそが足りねェからな。俺に力を与えてる神はどいつだったか忘れたのか? 知恵の神の特異点と戦いたきゃ、反射で動けるくらいやってくれねェとな!!」



 風属性魔法で地面に向かって思いっきり加速。

 地面を砕き、土埃を舞わせながら激突した。



 「よっと」



 地面を眺めて様子を見てみる。

 まぁ、結果は見えてるが。



 「さっさと出てこいよ」


 「………」



 “俺” はむくりと立ち上がると、驚いた様子で自分の手足を見ていた。



 「どうだ? 俺の体。そこまで持ってくのに一年かかったんだぜ?」


 「………なるほど、やっぱり特異点ってまともなのがいないんだね」



 クレーターから飛び出して、再び “俺” は俺と対面した。



 「で、どうする? まだ勝てると思うか?」


 「勝つよ、なんとしても。どんな手を使っても」


 「!!」



 この魔力の高まり方………



 「おいおいおいおい!!」



 その瞬間、俺のすぐ下の地面が氷結し、巨大な氷柱が俺を目掛けて飛び出してきた。

 ステップを踏みながらそれらを回避する。

 最後に飛び出すかなり巨大な氷柱は思いっきり飛んで躱した。

 すると、交わした場所には、無数の風の刃が待ち受けていた。

 手に風魔法を纏わせ、それらを分解していき、それらを利用して、背後から迫っていた炎魔法を打ち消した。



 「チッ………面倒くせェな!!」



 街への被害を防ぎながら、どうやってこいつを生け捕りにするか考えてみる。

 正直ゴリ押しでもどうにかなるかと思うが、こういうタイプは追い詰めると面倒だ。



 「さーて………どうすっか、ぁあッ!?」



 つい手を滑らせて一発だけ取りこぼした。

 廃墟に向かって飛んでいくので、魔法を放ってなんとか完全な崩落は免れた。

 だが、



 「!!」



 建物が消え、ここでようやく気がついた。

 人がまだ残っていた。

 それも、動けない子供だ。

 更に、運の悪いことに建物が崩れそうになっている。


 保ってあと十秒だ。

 どうする?

 これでも手一杯。

 おそらく逸らしてうまく相殺するには向こうの魔法は威力が強すぎる。

 さぁどうする?



 ………………そんなの、悩むまでもない。



 「………はぁーあ」



 俺は向こうに向けた手を建物に向け、放った。

 既に落下していた瓦礫は、すんでのところで消え去った。



 「!? 何を………あれは………」



 向こうは驚きながらも、完全に隙の出来た俺に次々魔法を放った。

 一級魔法の集中攻撃。

 これでもかというほどに撃ち込まれた。

 そして最後、炎一級魔法【紅蓮ノ海】を、留めたまま土の中に突っ込み、至近距離から放った。


 巨大な火柱が上がり、生きているかのように炎が暴れた。

 



 「ハァ………ハァ………これ、なら……」

 


 上がり続ける黒煙。

 “俺” は攻撃の手を止め、じっと眺めていた。

 すると、

 



 グォオオオッッ!!




 という音と共に、煙が晴れた。

 俺は振るった剣を再び戻し、“俺” を睨みつけた。



 「は………………はは、なんでかわからないけど、ここまでダメージを負わせられた!!」


 「………」



 なるほど、確かにボロボロだ。

 ここまで傷を負わされたのは初めてかもしれない。

 だが、




 「あっはっはっはっはっは!!」




 俺は大声で笑った。

 腹の底から笑ったのだ。



 「………!?」


 「こいつあんなに燃やされたり切り刻まれたりしてなんで笑ってんのかって感じの顔だな。ま、確かに俺はHPが多い分、大きく削れたときの痛みはおそらく他の奴らの比じゃないだろう。でも、そんな事はどうでもいい。俺は痛みに疎いからな。俺が笑ってんのはお前だよお前」



 俺は指を指してそういった。



 「は?」


 「殺人鬼気取りが、死にかけたガキ1人にあそこまで目の色変えて気ィ使うたァ笑いもんだって話だよ」


 「!!」


 

 そう、子供を見かけてから、こいつの攻撃は完璧なまでに俺に集中していた。

 しかも、巻き添えを喰らわないように威力を少しだが弱めながらだ。



 「この—————————」






 


 その瞬間、まるで時間が止まったかのように、“俺” は動きを止めた。

 突然背後に現れた俺に驚くあまり動けなくなっているのだ。



 「ぁ………………は………?」


 「まさか、俺にはこの上がないとでも思ったか?」



 背中に浮かんでいる小さな一本の光の羽。

 俺は一瞬だけ、神威を用いたのだ。

 


 「俺の身体にいるんなら見えはしたろ? ならわかった筈だ。次元の違いが」


 「こんな………事が………!」



 このまま潰そうと思えば潰せる。

 でもそうじゃない。

 今やるべき事は、こいつの説得だ。

 だから俺はこういった。



 「やめにしねェか? 嘘つくのはよ」


 「………」


 

 仲間が大切に思っている人を傷つけるような真似は、本当はしたくない。

 でも、こいつは言って止まるような様子でも、無理止めて収まる様子でもなかった。

 戦意を喪失し、自ら手を止めるための流れが必要だったのだ。



 「そっか………」



 そしてようやく、話を聞いてくれそうだった。



 「流が俺に語った話、これまでのお前の行動、そしてあいつの()()()()()()()。死にかけると突然強くなるなんてそうそう都合のいい事はない。普通は蓋が開くだけだ。リフィもそうだったな。そして、お前の弟もだ」



 “俺” の姿が崩れ、留華は諦めたように目を瞑った。



 「お前は嘘をついている。でも、あいつは嘘はついていない。そう思い込んでいるんだ」


 「………その通りだよ、ケンくん」





 流は自覚しない。

 何故なら、それを知っているのは——————





 「流のもう一つの人格。つまりあいつはもう一つ、固有スキルとして【二色(にしき)】を保有している」



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