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第544話

2020/02/26 に、543話を少々改稿しました



 「殺人鬼ねぇ………背中から一突きって事は余程気配を隠すのが上手いのか………」



 流は、外で配られていたビラを眺めながら、そう呟いた。



 「怖いですよね………これまでに見つかってるだけで10人以上を暗殺らしいですよ」


 「大丈夫だよ。君は俺が守るから」


 「ふふふナガレ様ったら」



 彼女は、王宮に仕えているメイドのナーシャだ。

 当時も流の女癖の悪さは健在で、所構わず口説きまくっていた。

 タチが悪いのは、口説くたびに成功しているというところだろう。

 しかし、なびかない女もいる。



 「なー………ちゃんっ!!」


 「ぐぶっ!? その声は………なんだ姉貴か」


 

 その1人が彼女。

 姉の留華だ。

 まぁ、兄弟だし当然である。



 「てか、何で殴った?」


 「新調した防具の角。見てみて、鱗がついて頑丈なのに軽い軽い」


 「そうか。きっとその防具も泣いてるよ。用途が違うって」

 


 留華は結構激しめ(物理的に)なスキンシップをよく取るのだ。

 まぁ、防具で殴るのはどうかと思うが。



 「おや? ありゃー、今日はナーシャちゃんかぁ」


 「そんな取っ替え引っ替えみたいな言い方はよしてくれよ。ねぇ、ナーシャちゃん」


 「それを私に尋ねてくるあたりが凄いですよね」


 「あーっ! そうだ姉貴。この記事だけどさ」



 わかりやすく話を逸らす流。

 何も言わないあたり、もうみんな諦めていたということだろう。



 「はいはい………………ああ、これね。丁度今依頼されて調査中なんだ」


 「へぇ、誰から?」


 「命ちゃん」


 「あー………」



 正直、流から見ても命はかなりとっつきにくかった。

 口説こうとしたことはあったが、よくわからない威圧感で決行前にやめたのだ。



 「あの子ね」


 「てなわけで、るーは忙しいのでなーちゃんに構ってる暇はないのだよ」


 「おっと? 絡んできたのはどっちだったっけ?」


 「知らないの? 年上の兄弟が黒といえばたとえ白でも黒と言わなきゃいけないんだよ」


 「姉貴ってたまにすっごい理不尽いうよね。そんなだから彼氏ィッッ、ンがッッッ!!」



 後頭部に強烈な二発。

 やられた流はまるまり、留華は満足げだった。

 


 「それじゃあねー」


 「うおおおお………いててて………一応言っとくが、気をつけろよ」


 「りょーかい」



 留華はそのまま走り去って行った。

 騒がしい姉だ。

 全くいつになったら落ち着くのだろうか。

 そんな事を思いつつも、流は平和を噛み締めていた。



 「………ん?」



 ふと床に落ちた何かの切れ端を見つけた。



 「これは………」



 どこかで見た覚えのあるような切れ端。

 しかし、血塗れでよくわからなかった。



 「姉貴の………だよな」



 どことなく、不吉な予感がした。

 だが流は、それを押し殺して気のせいだという事で自分の頭の片隅に押しやったのだった。








———————————————————————————







 メイドとのデートも終わり、自室に帰った流は、久々に訓練でもしようと自分の武器を探していた。

 しかし、



 「あれ? 俺のダガーがないな………」



 何故かどこにも見当たらない。

 昔から使っているダガーだ。

 留華からの要求でわざわざお揃いにした二対のダガーの一つ。

 持ち手の部分にはこれもお揃いの布を巻いている。



 「えー………じゃあもう木製でいいかな………って、もう夕方か」



 小一時間探していたので、いつのまにか空には夕焼けが差していた。



 「んーでも、身体も鈍りそうだしなぁ。仕方ないか」



 流は、そのまま木製のダガーを持って外に出て行った。

 







———————————————————————————








 「ひゅっ、ひゃあぁくゥ!!」



 最後の一撃を放って、流はバタリと倒れ込んだ。

 ゼーゼーと息を切らして汗まみれになったのはいつぶりだったか。

 空を見上げると、あたりはすっかり真っ暗だ。

 だが、そこまで身体も鈍っていなかった。



 「まぁ………ここまで出来れば十分かな………俺は化け物チームじゃないしね」



 手をグーパーさせてみると、じんわり痺れたような感覚があった。

 頭もぼんやりしている。

 加えてめちゃくちゃ眠い。



 「ちょっと………五分………いや、二分………」



 目を瞑り、一瞬だけ眠ってしまおうと思った。

 そしてゆっくりと、意識が沈み—————————





 「きゃあああああああああああッッ!!!」





 「!!」



 ——————一瞬で目が覚めた。

 起き上がって辺りを見渡すが、誰もいない。

 声の聞こえた方角を見ると、訓練場から見える大臣の部屋で悲鳴が上がっていた。



 「あそこか………!」





 


——————






 悲鳴が聞こえたのは、左大臣・ゲルカンの執務室である。

 そこまですっ飛んで行くと、ナーシャが青ざめた顔で突っ立っていた。

 どうやらナーシャの悲鳴だったらしい。



 「大丈夫!? ナーシャちゃん!」



 流はナーシャの様子を見たが、特に異常はなかった。

 怪我もないようだ。

 ホッと息をつくと、ブルブルと震えたナーシャが流の服の裾を掴んでこう言った。



 「あ………さ、左大臣様が………………!」


 「え?」



 指を刺した方を見る。

 するとそこには、




 「………………は?」




 背中から心臓を一突きされていた大臣の死体が無残に転がっていた。



 「これって………例の殺人鬼の殺し方と同じ………!」



 ビラに書いていた背中から一突き。

 なるほど、確かに同じだ。

 しかし、そんなものより先に目についてしまったものから、流は目が離せなかった。



 「………これ、は」



 落ちていたのは鱗だった。

 それも、ついさっき見た鱗。



 「まさか………いや、でも………!」



 目が回る。

 信じたくはない。

 でも、疑わざるを得なかった。

 

 もしかすると、姉は何人も人を殺しているかもしれない、と。



 「ナガレ様………?」


 「………人を呼んでくるね。このままってわけにもいかないし」


 「は、はい………」










———————————————————————————











 あの後流は、王宮にいた近衛騎士から事情聴取を受けた。

 疑いが晴れた後、夜遅くに自室に戻ると、もう日を跨ごうとしていた。


 ベットに飛び込み、仰向けになってボーッとする。

 いつも通りだ。

 でも、いつも通りではない。



 「………姉貴」



 訳がわからない。

 意味がわからない

 何故? どうして?


 同じような事をぐるぐるとかき回して、答えの出ないままそれを延々と繰り返していた。



 連続して犯行を行なっている殺人鬼。

 つまり、ずっと前から行っているという事だ。

 全て犯行は夜。

 みんなが寝静まった真夜中の時もあれば、日が沈んですぐの時もある。

 だが、一貫して夜。

 そして、今回も夜だった。



 顔を隠すように腕を乗せる



 「なんで………」



 





 —————————サテ、ナンデダロウナ








 「ッ………!?」



 振り下ろされようとしていたダガーをすんでのところで受け止める。

 手には失くしたはずのダガー。

 ここでふと気がついた。

 いつの間にか、自分が立ち上がっている事に。




 否




 「あ………ぃ、が………」




 脳を引き裂きそうなほど激しい頭痛。

 ダメージを負った?

 いや、これは違う。

 これは記憶が一気に流れ込んだが為に、脳が悲鳴を上げているのだ。

 そう、いつの間にかではない。

 流は今まで戦っていたのだ。

 それも、自分でも信じられないようなスピードとパワーを持って、だ。




 「おま、え………………は………」





 記憶の中でもおぼろげになっていた敵の顔が、今はっきりと目の前に見えている。


 嘘だ。

 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!


 決定的なものを目にしてなお、流は信じられなかった。

 信じたくなかった。

 しかし、己の口は全てを受け入れるように、その名を発したのだった。



 「あ、ねき」



 夥しい血の量。

 服に、顔に、手足にこびりついた紅いものは、既に乾いて赤黒くなっていた。

 手に持っているダガーは、布の部分が千切れている。

 そこでようやく気がついた。

 あのボロ布は姉のダガーの布だった、と。

 


 「………殺したのか?」


 「うん」


 「なんで………?」


 「制御できないの」


 「まさか………固有スキルが………?」


 「………………」



 留華は、困ったような顔で小さな笑みを作った。

 そして、





 「ごめんね、なーちゃん」




 何があろうと言い訳はしない。

 私は人を殺した。

 そして、あなたも殺そうとしたの。




 これが、任務で国を出る前に、流が最後に聞いた姉の言葉だった。

 









———————————————————————————









 「それが全て。なーちゃんが私の正体を知った日の出来事よ」



 以前流から聞いた話と同じだ。

 制御できない固有スキルのせいで人を殺してしまっている、と。


 留華はそう言う。

 しかし、



 「そう言いたかった。そうなら本当によかった………でも、気づいたんだよね。()()()()


 「ああ」



 ハァ、と小さく息をついた。

 そして、



 「君に勝てる能力の使い方を考えたの。でもね、それには神威の力が必要だから少し無茶をしたよ」


 「!」



 ぼこぼこと、留華の身体が変質していく。

 顔が変わり、体格が変わり、力も魔力も何もかもが変わる。

 俺に勝ち得る者の身体に。



 「なるほど………………」



 楠 留華………いや、ヒジリケン。

 まさか自分が相手になるとは。

 これはやはり、少し手がかかりそうだ。



 「さぁ、戦ろうか」



 自分と向かい合って変な気分だ。

 出来の悪い鏡を見ている気分になる。

 さて、どう捌くか………

 そして、この話もきっちり終わらせなければなるまい。

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