第543話
「ケンくん!」
「ようリフィ。ちゃんと時間通りことが運んだみてェだな」
時間指定したのも、ただこいつらが狙いやすい時間にしたのではなく、俺がこいつらを助けられるように時間を調整したのだ。
「いろいろ言いたい事はあるが、話は後だ。ラビとすぐにやってくるエルと流を連れて腕輪を付けにいけ。細かい説明はエルがしてくれる筈だ」
遠くの魔力を探ると、流もすぐそこまで来ていた。
あいつは【一色】のお陰で消えたり現れたりして上手くここに誘導させているようだ。
流石にあんな化物は野放しに出来ないと思っているのだろう。
「急げ、時間がねェ。それと気ィ引き締めろよ。多分初めての事だからな」
「はい、ナガレくんから聞いています」
「そうか。一応念押しするが、これから俺やニール達を戦力として期待すんな。つまり、武闘派抜きでの作戦だ」
「………」
色々と厄介な事態だが、これだけは確実。
今回、この半人前組が作戦の要になるのだ。
理由は簡単。
時間がない。
こいつらを倒した後でも、俺は俺でやる事がある。
それに、腕輪をつけてすぐニール達が復活するわけでもないのだ。
復活には、しばらくの時間経過を必要する。
それ故の正念場。
俺がそう言った理由はこのためだった。
こいつらも、けっこう死線をくぐり抜けてきた来ただろうが、やはり今までは自分よりつよい存在のサポートありきのものだったと言える。
だから、これは試練だ。
ここできっちりレベルアップしてもらおう。
「さァ、行ってこい!!」
「はい………!」
リンフィアはラビと共に、ニールたちのいる拠点へ戻っていった。
「さて………来たな」
姿が見え隠れして敵をうまく挑発している。
能力をうまく使って化け物をここまで誘導してくれたようだ。
正直ありがたい。
「よう」
「ん、やっと来たんだな」
「後は任せたぞ」
「了解」
流は、おそらくそこまで戦闘経験はない。
だが、あいつなら多分大丈夫だ。
あそこまで能力を使いこなしているのなら上手くやってくれるだろう。
「さて………問題はこっちだ、なッ………ッ!!」
化け物の突進を正面から受け止める。
やはり単純な力だけならラクレーを凌いでいる。
「ギギギギギギッッッ!!」
「神威汚染………暗木よりは軽いが、深いな」
神威汚染。
普通の人間や魔族などの生命体が神威を過剰に取り込むと、神威が暴走し、化け物になってしまう現象。
だが、奴らは暗木と違い、人の肌の色を若干残しつつ、人型ではなくなりかけていた。
これは長期間神威を浴び続け、体に馴染んだ後に、腕輪を外した事で一気に流れ込んだために起きた一種のバグだと思われる。
バグなだけあって、追いかけてきた三体………いや、
「こっちからも来たか………」
もう一方向からエルの連れてきた化け物が現れた。
これで4体だ。
エルは既に向こうに向かっていた。
とりあえず、今はこの異形共をぶっ潰してしまおう。
「ふゥー………………」
【クインテットブースト・ダブル】
準備万端。
いつでもどうぞってとこだ。
「来な」
「「「ギギギギギギィィィィガァアアアアアアッッッ!!」」」
きっと俺が何を言ったのか理解していないだろう。
だが、4体の化け物は呼応する様にこちらに飛んできた。
こいつらはもうダメだ。
どの道神威で中身はズタズタ。
直そうと思っても手遅れな段階に来ている。
もう、楽にしてやろう。
触手が、巨大化した腕が、魔力によって変質させた拳が、俺に向かって飛んで来た。
剣を構える。
居合の構え。
ラクレーの得意とする、剣術の極地。
ゆっくりと目を開き、流れる様に剣を抜く。
そして、
「ふ………ゥッッ!!」
【万裂羅】
万の刃が肉塊を切り裂き、跡形もなく消しとばした。
しかし、
「!」
切り落とした側から凄まじい速度で再生………いや、若干だが増殖している。
手足は強靭になりより威力を増した。
化け物共は、それを地面に叩きつけた。
大地に激震が走る。
轟音、そして暴風。
全てを薙ぎ払う破滅の一撃が一瞬で建物を全て消し去った。
中心地に巨大なクレーターができ、周りが隆起している。
だが、これだけでは終わらない。
「マジか………!」
ガパッと開いた大口から放たれたそれは、
グォオオオオオオッッッッ!!
っと、とてつもない音を放ちながら魔力砲を放った。
俺が避けた魔力砲はそのまま雲に突き刺さり、爆発
周囲の雲を激しい爆風で散らしていった。
「これはマズイな………………だから」
風魔法で加速、地面に着地すると同時に、魔力砲を放った奴の背後に一瞬で周りこみ、首を落とす。
その場で修復しようとしたので、真っ二つに裂いて、完全に焼却した。
その瞬間、残った二体が飛びかかって来たので、まとめて外側の肉を削ぎ落とした。
「さっさと潰しとくわ」
「本当に出来るかな?」
ガッッ! キィィィン………と、火花を散らしながら、ぶつかり合った。
「!」
「ああ、出来るぜ?」
後退りし、距離を取られた。
上手く釣れてくれたようだ。
さて、ここで現れたか、楠 留華。
「よう、真似っこ女。弟の顔でもみに来たか?」
「ううん、違う。君にちょっと聞きに来たの」
「ほぉ?」
すると、留華の顔つきが一気に変わる。
そしてこう言ったのだ。
「君、気づいちゃった?」
これは意外な質問。
まさか向こうこそ気がついていたとは。
「リンクでもしてたのか? 偽物ちゃんよォッ、ッッ!?」
速い。
これは多分、いや間違いなく、こちら側の領域に入ったな。
「なら、殺すしかないね」
肌の色が、紫に変わる。
暗木と同じだ。
【十色】による変化ではない。
これは、神威の力だ。
そして、衝撃の事実。
こいつは今、神威を制御できているのだ。
「こりゃあ、正直驚いたな」
グッと身構えた。
これは少し気を張らなければ。
そう思っていると、
「その前に………」
「?」
「少し話をしよっか」
2020/02/26
末の部分を少し改稿しました




