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第539話



 貧民街北区。

 リンフィア達がさっきまでいた貧民街東区からゆっくりとここまで歩いてきた。

 途中途中あたりを散策しつつ歩いたが、どうも人の気配がない。

 各区に大きな魔力溜まりがあったので、とりあえずそこへ向かっている。



 「リンフィアねえ、なんでちかくのほうにいかないんだ?」


 「えーっとね、逃げるためだよ。万が一逃げる様な事態になったら、今動けないナガレくん達のところまですんなり逃げられるとは限られないと思ったの。だから念のため少し離れた場所からなら拠点まで追いかけられないんじゃないかなって」


 「おお、なるほど。ぎゃくがわはぎゃくがわでとおいからこっちにしたのか。リンフィアねえさえてるな!」


 「えへへ、ありがとう」



 と言っても、逃げる様な事態にすらならないかもしれないし、そもそも逃げきれないような敵と遭遇する可能性もある。

 完全に安心できる案でもないのだ。



 「もう少しかな」



 魔力溜まりの方角を見ると、わかりやすく防壁が建てられていた。

 貧民街を囲っているものや街全体を囲っているものと比べれば比較的低めだ。



 「んー、あと10ぷんくらいでつくとおもうぞ」


 「探索しながらだったら30分くらいだね」


 「たんさくかー………」



 ラビはチラリとすぐそこに見える廃墟に目をやった。

 相変わらず生活感の割にがらんとしていて、一切活気がない。

 変わったところもあまりなく、強いていうのなら、たまに同じ種類の妙な飴玉が転がっている事くらいだろうか。

 こんな建物が10数軒あったのだ。

 おかげでラビは徐々に探索が面倒になってきていた。



 「さっきのおんなのこがいたんだからひとはいるとおもうけど、まりょくだまりまではきたいできなさそうだな」


 「でも、ここまで来たら調べないわけにもいかないでしょ?」


 「むー、たしかに」



 ラビはそう言って廃墟の中へ入った。

 ラビが建物を調べている間、リンフィアは周囲の警戒と逃走経路の確保を担っている。

 まとめて入るよりは確実な手を取ったのだ。



 「といっても、人っ子1人いない状況で敵が出てくるなんて思ないけれど………」


 

 警戒は解かないが、少し気が抜けてしまいそうだった。

 でも、万が一。

 そう考えると気は抜けそうで抜けなかった。

 すると、



 「リンフィアねえ!!」


 「!!」



 リンフィアは即座に飛んでいき、声の聞こえた方を見た。

 ラビがオロオロした様子で突っ立っていた。

 警戒は役だったかと思ったリンフィアだったが、飛んだ肩透かしを食らった気分である。

 まぁ、無事ならよかったと、ホッと息をついたリンフィアはラビに返事をする。



 「どうしたの? ラビちゃん?」


 「てきはいなかったからはいってきて!」



 そんなに焦ってどうしたものかと思って向かおうとすると、ラビがこんな事を言った。



 「ひとがいた!」


 「え!?」



 リンフィアは中に入ってラビの側へすぐに駆けつけた。

 確かに人間の男の子が眠っている。

 ゴールまでもう少し、ここに来て初の住民との接触だ。



 「この子だけ………みたいだね」


 「おとなとかほかのやつがいるけはいはないぞ」



 この広い廃墟の中でも、ここにいるのはこの子供だけだった。

 やはりこれはレアなケースらしい。

 だが、情報収集はすぐには出来そうにない。



 「………眠ってるのかな?」


 「おこすか?」


 「うーん………どうだろう。でも、このままってわけにもいかないし………………あれ?」



 そっと子供に触れてみる。

 熱い。

 異常なまでに体温が上がっている。

 いや、それ以前にこの子供、



 「マズイかもしれない………」


 「え?」


 「この子多分、魔力欠乏症だよ!」



 よく調べてみると、確かに魔力がかなり少なくなっている。

 魔力不足と高体温、身体に様々な不調を来す魔力欠乏症の症状だ。



 「ラビちゃん、MPポーションあったよね?」


 「ある!」



 リンフィアはラビからポーションを受け取ると、治療を始めた。

 数年前まで異常なまでに低過ぎる魔力のせいで魔力欠乏症に良くなっていたリンフィアは治療方法をしっかりと心得ていた。



 「おお………じゃあリンフィアねえ、そっちはまかせるぞ」



 ラビはモンスター数匹を呼び出して周囲の散策に向かった。

 リンフィアはラビに視線をやった後に、すぐに処置に戻った。

 命に別状はないが、かなり弱っている。

 おそらくなにもせずに眠っていればある程度回復したと思うが、数日後には自然治癒も効かないレベルで弱っていたことだろう。

 偶然とはいえ、見つかってよかった。



 「ふぅ………」



 一通りの処置を終え、額の汗を拭った。

 リンフィアは妙な気分だった。

 今まで自分がされていた治療を他人にしていることが少し不思議な感じがしていたのだ。

 


 「もう大丈夫かな………あ」


 「ん………」



 子供が目を覚ました。

 体温は少し下がって症状はだいぶ落ち着いている。



 「あ、れ………僕………………寝ちゃってた」


 「おはよう。気分はどうかな?」


 「………お姉ちゃんはだあれ?」



 そう尋ねている子供からはやはり警戒の色はほとんどなかった。

 ノームの子供と同じだ。



 「お姉ちゃんはたまたま通りかかった人だよ。君が倒れてたから看病してたんだけど、気分はどうかな? 気持ち悪かったり、フラフラしたりしない?」


 「あ、そういえば体がずっと軽いや! これお姉ちゃんがやったの?」


 「うん、そうだよ」


 「そっか! ありがとうお姉ちゃん! これなら一番高いお仕事ができるよ!」



 小さく眉を潜めるリンフィア。

 一番高い仕事とはそのままの意味だろうか?

 そういえば、ノームの子も働いていた。

 何か決まったシステムがあるのかもしれない。

 


 「僕、ここのお仕事って例えばどんなのがあるのか教えてくれるかな? 私ここに来たばかりでよくわからないんだ」


 「そうなの? じゃあ教えてあげる!」



 男の子は奥から紙切れを取り出した。

 これが仕事のリストなのだろう。



 「まずね、一番下のお仕事が力仕事。子供は水汲みとかで、大人は家とか壁の修繕をしたりするんだって」


 「一番下………」



 ノームの子の仕事は一番下という事だ。

 リンフィアは次を尋ねた。



 「うんと、次は貴族様のところに行ってご奉仕するの!気に入られた人は運が良かったらずっと飼ってもらえるんだ!」


 「っ………」



 思わず表情が引きつってしまった。


 やはり、貧民街に住んでいるのは皆奴隷の様だ。

 セラフィナの話では平民もいる様子だったが、おそらくそれも奴隷のされている可能性がある。


 あまりに酷い。

 予想通りなら、相当な人数が奴隷にされている事だろう。

 『飼ってもらえる』

 こんなものは、子供の言っていいセリフではない。


 

 「お姉ちゃん?」


 「………うん? どうしたの?」


 「? まぁいいか! 最後はね………」



 男の子は外を眺めた。

 すると、外が見える場所まで走っていった。

 リンフィアも男の子に付いていく。

 そして、窓の外から顔を出した。







 「         」







 「あれだよ!」



 にこやかな少年が指を刺して見せたのは、魔力溜まりがあった場所から住民たちが帰ってくる様子だった。

 しかし、リンフィアが衝撃を受けたのはそこではない。

 道端で次々に倒れている人々に一切見向きもしない彼らの様子に戦慄していたのだ。

 



 「わぁ、今日はたくさん倒れてる! 僕も明日から頑張らなくっちゃ! 」


 「りッ、リンフィアねえ! そとが………そとが!!」



 慌てて帰ってくるラビ。

 リンフィア同様あれを見たのだろう。

 リンフィアはキュッと口を結び、すぐに外に出る準備をした。



 「あれ? おねえちゃんもう行くの?」


 「………うん。もう行かなくちゃいけないんだ。ねえ僕」



 リンフィアは子供に優しくハグをした。

 わっ、驚いた様な声を上げたが、男の子はそのまま大人しくしていた。



 「お仕事無理しないでね。死んじゃだめだよ」


 「?」



 リンフィアはスッと離れて外に出た。

 


 「ラビちゃん、急ごう」


 「うん」



 リンフィア達はもう探索する事なく、目的地まで突っ走った。









———————————————————————————









 「不思議なお姉ちゃんだったなあ」



 男の子は自分の住居区画まで戻った。

 仕事について書かれた紙を仕舞って、そのまま寝ようとすると、ふと忘れ物を思い出した。



 「あ! 危ない危ない。お薬飲まなくちゃ」



 枕元に置いている袋から飴玉のようなものを取り出した。

 一見なんお変哲もないただの飴玉。

 薬だというその飴玉を男の子は口に加えてガリガリと噛み砕いた。



 「お仕事ずっと出来てなかったから、もうあんまりお薬がないなあ。頑張らなくちゃ」

 



 そう言って飴を食べ終わった男の子は眠りについた。





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