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第538話



 「リンフィアねえ………これマズイきがするぞ」



 ミレアに続き、レイやルイも目を覚ました。

 一見普通にもみえるが、やはり不自然なまでに笑顔が絶えない。



 「うん、完全に術中にはまってる。ラビちゃんは大丈夫………なんだよね?」


 「ワタシはもんだいないぞ。よくわからんけど」



 ほぼ確信した。

 このエリア一帯、もしくは街全体にいる貴族を除く人間が、固有スキルによって常時笑顔でい続けるようになっているらしい。

 貴族たちは先程の様子からも能力の範囲外にいる事が伺えたので、区別はしているのだろう。

 しかし、どうしてリンフィアとラビが効果に含まれなかったのかが疑問だ。

 これは偶然か必然か。

 いずれにせよ、これを活用しない手はない。


 そして、懸念はもう一つ。



 「おーい。ナガレにい」



 ラビは流を揺さぶった。

 しかし、反応がない。

 先程気を失った後、流だけが起きていないのだ。



 「おーい」



 ラビは流の頬を叩いてみる。


 反応はない。


 もう暫く叩いても反応がなかったので、少し強めに叩く。


 反応はない


 少しイラッとしたラビは、両頬を強めに叩き始めた。

 ペチペチという音がバチバチという音にいつの間にか変わっていても反応はなかった。



 「………………おきないな」


 「もしかしたら1人だけ強く反応してしまったのかもしれない………こんな時にケンくんがいれば………あ」

 



 ふと、強い自己嫌悪を感じた。

 こんなふうに当たり前に頼っているが、もうそれだけじゃいけない。

 こんな状況だからこそ、自分自身でどうこうしてやろうという気概が必要なのだ。

 なのに、つい頼ってしまう。

 これは良くない。

 


 「………………しっかりしなさい、リンフィア」



 リンフィアは頬を叩き、自分に喝を入れた。

 この先の事を考えるのだ。


 今動けるのはリンフィアとラビ。

 モンスターを出せるラビは、ここで見張りをしてもらった方がいいだろう。

 とりあえず、今は調査が必要だ。


 思い立ったリンフィアは今すぐにでもラビと相談して動き始めようとした。

 

 すると、




 「ぅぉわっ!!」



 隣でラビが声を上げていた。

 かなり驚いた様子なので、慌てて確認した。

 見てみると、気を失っていた流が起き上がっていたのだ。



 「………………これは」



 流はそう呟くと、ゆっくりと体を沿うようにして手を顔の前にやり、ピタッとくっつけた。

 ひゅっと、喉の奥から掠れた声を出すと、大きく目を見開いた。

 『そんな………』 と、小さく呟く流。

 その後もペタペタと顔を触って、少し深刻そうな顔でリンフィアを見つめる。



 「リンフィアちゃん………………」

 

 「どっ、どうしたんですか、ナガレくん………!」



 あまりに深刻そうだったので、大丈夫か、とか、気分は悪くないか、とかそういった確認をすっ飛ばしてそう尋ねてしまった。

 すると、流は恐る恐る口を開いてこう言った。



 「かっ………」


 「か………?」



 「俺の顔が………………腫れているっ………!!」



 と。



 「………………は?」


 「どどどどどっ、どうしようリンフィアちゃんっ! 両頬が横に5mmくらい膨らんでる! こんなアンパンフェイスじゃナンパが出来ない!!」


 「………………それじゃあ、この先の予定だけどね」


 「無視!?」



 あまりに素っ頓狂な事を言っていたので、リンフィアは何も聞かなかったことにしてスルーをした。



 「まってリンフィアねえ!」


 「どうしたのラビちゃん? 何も待つ必要は無いんじゃないかな? とりあえず2人でこの先の予定を確認した方がずっと有意義だよ」


 「リンフィアちゃん、徐々に遠慮がなくなってるな」


 「ナガレにい、()()()()()()!!」


 「!!」



 掛かっていない。

 ラビのその言葉にキョトンとする流。

 その様子からもわかる。

 笑顔がないのだ。

 つまり流は、固有スキルの影響を受けていない。



 「ナガレくん………なんともないんですか?」


 「? よくわからないけど、特に問題はないかな」


 

 リンフィアはさらに悩むことになってしまった。

 スキルの影響を受けるか否かの基準がよりわからなくなった。

 だが、これはこれで都合がいい。

 


 「ナガレくん。あなたが気を失ってた時にあったことと、これからの行動について話したいんですけど、起き抜けで話しても大丈夫ですか?」


 「! ………どうやら少し深刻なかんじかな。目は冴えてるから大丈夫。ほっぺたが少し痛いのか誰の仕業かくらいは知りたいけどね」


 「………………」


 「そこは黙秘するのね」









———————————————————————————










 「という訳です」



 この街とミレアたちの現状からまずは説明した。

 流はうーんと言いながら、何かを思い出していた。

 すると、パチンと指を鳴らして、



 「あ、菅沼の固有スキルか!」


 「スガヌマ………どこかで聞いたような………」


 「聖が言っていたんじゃないかな。合宿の時沸いてたらしいからね」


 「あっ、そうでした! 確か暗示系の能力で、暗示をかけたり命令違反に罰を与えたり出来る能力だって」


 「そう。なんで俺たちが掛かってないのかはわからないけどね」


 「そこなんですよね………だから、少し外を調査して来ようかと」


 「そこで姿を隠せる能力を持った俺はこの3人の見張りをするって訳か………うん。多分それが無難だろうね」

 


 チラッと3人の様子を見てみた。

 おそらくだが、使い物にはならないだろう。

 まさか武闘派の3人が一番早く脱落してしまうとは思っていなかったリンフィア達だが、何もしないわけにもいかないのだ。



 「早速行くのか?」


 「はい。あ、滞在期間は長くなるかもしれないので、念のためウルクちゃんのところに連絡を入れてもらってもいいですか?」


 「ああ、任せて」


 「それじゃあ、お願いします」



 特に準備もないので、リンフィアはラビとすぐに外へ出た。

 相変わらず人がいない。

 

 この状況、もしかしたらスキルの効果で普通に情報収集出来るかもしれない。

 そのためにも、まずは人探しからだ。



 「ラビちゃん、行こう」


 「うん!」










———————————————————————————












 「………あーあ、()()()()()()()()



 ここは、先程リンフィア達がいたテント、の奥の隠しテントだ。

 紫のローブを纏った者はそこで、ボロボロの肉塊の上で座っていた。

 占い小屋と言っていたが、そんなのは真っ赤な嘘。

 ここは上位貴族たちの集う闇市であった。

 この様な汚い場所だが、実は数件の家は地下からここに繋がっているため、すぐに直行出来る様になっているのだ。

 まぁ、もう闇市が開かれる事はないのだが。



 「久々のこれほどまでに濃い血の匂い。頭がクラクラするなぁ………」



 貴族や主宰者の死体の山。

 その上から飛び降りて、流そっくりな声でそう呟く。



 「さて、ボチボチ探すかなぁ」

 


 ローブの()はその顔を露わにした。

 キリッとした目元は、いつもより鋭くなっていた。

 楠 留華。

 流の姉は、いつもと少し違った様子でそこに佇んでいたのだった。



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