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第537話



 「………………」



 土塊を手ですくうミレア。

 当然、ただの土塊がものを言うわけもなく、それはただの物質としてそこに存在していた。



 「こんな馬鹿な………………」



 ひと1人の死とは思えない呆気なさ。

 ショックを受ける間も無く、面影すらも残さずに消えてしまった。



 「あんなに、笑顔だったのに………」


 「………………笑顔?」



 それを聞いて、何かが引っかかるような感じがした。

 何か、重要なことがあった気がする、と頭の中をぐるぐると、笑顔というワードとある場面が巡っているのだ。

 リンフィアは、先程見た子供の屈託のない笑顔と、貴族街で見た子供奴隷の笑顔を重ねて合わせた。

 忘れもしない衝撃的な場面だった。

 あの、()()()()()()()()()()()()は、間違いなく何かある。


 しかし、異常な魔力は感じなかったので、魔法をかけられているとは思えないし、奴隷紋が発動している様子もなかった。

 単に術者が優れているからか?

 恐らくは否だ。


 無作為に目にした2人が別々の魔法を掛けられている可能性は排除出来る。

 とすると、同じ魔法という事になる。

 そして、無作為であるなら、あの2人が特別選ばれたという可能性も低いと思われる。

 多数、あるいは奴隷なら全員に掛けられていると考えていいだろう。

 だが、そこまでの大魔力を誰が維持するのだろうか?

 そんなものを供給できる魔法使いはほぼいないだろうし、万が一貴族たちがそれぞれで魔法を使っているなら流石に数名はボロが出るだろう。


 では一体、何だと言うのだろうか。

 ここで一旦思考が止まってしまった。


 実のところ、ここまでの推理は、ケンと同じものという見事なものだった。

 しかし、一つ足りない。

 残りの1ピースが足りなかった



 ここでリンフィアは、ふと防壁に目が行った。

 一見ただの壁のように見える。

 しかし、この壁には神威が流れている。

 ………神の力の欠片である神威が。






 「………………………………!」


 




 何かがぴったりとハマるような気がした。

 それがハマって行くほど、嫌な想像が頭を覆ってしまいそうになる。

 もし()()なら、それは自分の手に負える領域ではない。


 急がなければ。


 その焦燥は、頭で考えるより先にリンフィアを突き動かしていた。




 「ダメ………みんな急いでここを——————」










 それでも、間に合わなかった。





 「………………………」




 肩に触れ、呼び掛けている途中で気がついた。

 これはおかしい。

 ここまで話しても一切反応がないのだ。

 無視しているわけでもない。

 ショックで話す気が失せているわけでもない。

 これは、呼びかけそのものに気がついていないという様子だった。



 「り、リンフィアねえ! なんかみんなへんだぞ!」



 ラビが焦った様子でそう叫んでいた。

 周りを見ると、リンフィアとラビを除き、他全員の様子がおかしくなっている。

 


 「くッ………間に合わなかった………!!」



 リンフィアは忌々しげに防壁を睨みつけながらそう言った。

 タネに気がついた頃には、時すでに遅し。

 リンフィアとラビ以外のメンバーは、全員術中にハマってしまったのだ。



 「ニールねえ………? ナガレにい………??」



 能力はわからない。

 だが、何と無くその正体の影は掴んだ。



 そう、これは………固有スキルだ。



 リンフィアはそう判断するや否や、この場ではどうしようもないと直ぐ判断し、一度撤退する事を決めた。



 「ラビちゃん、少し身を隠そう。リル、出られますか?」



 リルはリンフィアの影から飛び出して、流とルイを抱きかかえた。

 とりあえず、使い魔は無事らしい。

 もしかしたら持ち主が正常な場合のみかもしれないが。


 

 「お嬢。どこへ運ぶ?」


 「向こうにある廃墟に行きましょう」


 「廃墟だな」



 こうして、リンフィア達は一先ず古びた廃墟に行く事になった。











—————————











 向かった廃墟には、幸い誰もいなかった。

 生活感はあるが、使われない部屋もあったので、とりあえずその部屋を使っている。



 「ニールねえたち、だいじょうぶかな………」


 

 あの後、気を失ったニール達を、ラビが心配そうに眺めていた。

 しかし、慰めようにも情報もなく、下手な事は言えない。

 リンフィアはただ黙っておくことしか出来なかった。



 だが、立ち止まってはいられない。

 考えるのだ。

 今できる事を。

 折角助かったのだから。


 ………何故助かったのだろう。

 リンフィアがそう考え出すのと、ラビがこう言うのは同じタイミングだった。



 「リンフィアねえ、もしかしてワタシたちがたすかったりゆうがわかれば、なんとかなるんじゃないのか?」


 「うん。その可能性はあるね………よし、それじゃあ………あ!」



 リンフィアがそう言いかけたところで、ミレアがゆっくりと起き上がった。

 どうした事か、頭をかかえながら俯いている。



 「会長無事ですか!?」


 「リンフィア………………ええ、問題無いです。ご心配をお掛けしました」



 ミレアは気丈そうな笑顔でそう答えた。

 どうやら体調に問題は無さそうだ。


 そう、表面上は問題無い。

 だが、リンフィアの予想が正しかったら、ミレアはもう、さっきの彼女らと同じになっている筈だ。

 リンフィアは祈るように目を閉じ、そして何気ない様子でミレアにこう尋ねた。



 「会長、さっきの事は覚えていますか?」


 「さっき………?」



 訝しむかのような声を直後、一瞬の間が開く。

 もしかしたら、という一瞬小さな期待が浮かぶ。

 しかし、その祈りはリンフィアを嘲笑うかの如く、いとも簡単にリンフィアを裏切っていった。




 「ああ、さっきの子ですね」




 依然、笑顔。

 その狂った笑顔は、リンフィアに真実を告げるのであった。

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