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第532話


 「すぅ………すぅ………」



 子供は治療した後、すぐに気を失ったので、先程入りかけていた家の中で大人しくさせておいた。

 幸い飢餓や脱水ではないので、魔法ですぐにどうにかなった。




 だが、やはり気になる。

 先程の笑顔。

 あれは、あんな笑顔は、ボロボロの子供が浮かべるようなものではない。


 ………少し訂正しよう。

 確かに例外はあるが、おそらく先程の子供はごく普通とまではいわないにしても、まだ壊れ切ってはいないと俺は感じた。



 ならばあれは何だ?

 何故あんな笑顔ができる?

 そもそも、何故笑顔だったんだ?



 答えなら既に出かかっている。

 きっとそれは、非人道的なものだ。

 だからこの街は外へ安易に情報を流さないようにし、結界には認識阻害までついて中が簡単には見られない作りになっていたのだ。

 しかし、それを安易に認めることは俺には出来なかった。

 その正体はきっと、どうしようもなく吐き気を催すような行為であろう。



 「………ちゃんと調べねェとな」



 俺はいくつかの食料を子供の傍に置いて街の奥へ進んでいった。











———————————————————————————












 「わぁ! 凄い街ですね!」



 門を通過したリンフィア達は、煌びやかな街並みに目を奪われていた。

 かなり凝った意匠の施された建物や、噴水、彫刻、塔などの芸術的な建造物が町中に見受けられる。

 まるで街自体が、一つの巨大な芸術作品のようだった。

 


 「いやぁ、お金かけてるなー。芸術関係のスキルや魔法を極めた職業の人を大量に呼び込んでるみたいだねー」



 この世界はあまり芸術や料理といったものに対する関心があまりないのだが、この街はそうではないらしい。

 ヤーフェルも相当だが、ここはそのさらに上だ。

 


 「ここの貴族は大金持ちらしいからねー。ここの四貴族の総力を結集すれば、ミラトニアの万宝………ギルおじと同じくらいの財力があるんだって」


 「ギルおじ………」


 「国一の大富豪を凄い呼び方してるな」



 ニールと流が呆れたように言った。

 流石は王族といったところだろうか。


 みんな適度に気を抜いている。

 油断をしているのではないが、やはり張りっぱだと集中が持たないのだろう。

 だが、前の街から気を張りっぱなしにしている奴もいる。

 約3名、レイ兄妹とファルグは睨み付けるように辺りを探っていた。

 

 

 「………」


 「どうなさったのですか?」



 難しい顔をしていたレイの顔をセラフィナは覗き込んでそう言った。



 「セラフィナ殿。いや、貴女の話では、確かここは治安が悪い筈ではないのかと思って」


 「それは私も思ったな」



 話を聞いていたルイが、会話に参加した。

 ずっと気になっていたのだろう。

 確かに、この街の様子は言っていたよりもずっと平和なものだった。



 「恐らく、私が見たときはまだ階級による住宅地の区分が完全ではなかったのだと思います。以前までは平民の方々もこの辺りにいた記憶があるのですが、この通り身分の高い方々しか見受けられません。平均以下の人は一切入られないのでしょう」


 「それはまた徹底的な………」






 「このッ、ノロマがァあああッッ!!」






 「「「!!」」」



 突然近くから聞こえた怒鳴り声に反応するリンフィア達。

 何かを叩きつけるような音と、遠くからでも聞こえるほど大きな罵声。

 声の聞こえる方へ向かうと、若い貴族の男が、髪で顔が隠れたこちらも若い男の奴隷を鞭で叩きつけていた。

 身体中傷だらけなところと、今まで幾度となくやられた跡の残ったボロ服を見るに、()()()()使()()()をされている奴隷だと分かった。

 見る見るうちに表情を強張らせていくリンフィア達。

 するとここで一つ、あることに気がついた。




 「なんて酷い………………あ………れ………!?」




 かなり大きな音も出していたし、何より道のど真ん中で目立つので一瞬で人だかりを………と、リンフィア達は思っていた。

 しかし何故か、周囲の者らは、野次馬になるどころかその声にさして反応することすらなかったのだ。

 


 「おいおい………なんだこりゃ? おかしくなってンのかこの街は………」



 ファルグはこの異様な光景を不気味に思っていた。

 これは明らかに異常だ。

 すると、



 「おかしくなってるんだよ」


 「何?」


 「人を傷つけることが当たり前になった人間の結果がこれだよ。この国の貴族は、もう色々と()()()()()()()。正真正銘の人でなしだよ」



 ウルクは、他の者と違って驚きはしないが、この光景に憤りを覚えている事は同じだった。

 今にも飛び出してしまいそうだ

 しかし、そう簡単に飛んではいけない。

 今問題を起こせば、救えるものも救えなくなる。

 ウルクは唇を噛みしめて、この場は動くまいと耐え忍んでいた。

 


 「ふーっ、ふーっ………………このくらいで済ませておいてやる。さっさと立てッッ!!」



 顔を蹴られ、力なく倒れる奴隷の男。

 しかし、命令には即座に従わなければならない男は、ボロボロの体に鞭打って立ち上がった。

 

 

 その時、ウルク達は見た。

 今度ばかりは、ウルクですら言葉を失うことになった。



 「………………………は………?」




 男が浮かべたのは、一点の曇りのない笑顔だったのだ。

 これを見た瞬間、全員セラフィナが言っていたことを思い出していた。



 “皆さん笑顔が絶えないんです”



 「これって………奴隷達の事………ですか?」



 ミレアがチラッとセラフィナの方を見てそう言った。



 「………!」


 セラフィナは口元に手を当て、目を見開いた。

 何かを、思い出したらしい。



 「これ………は………」










———————————————————————————












 「何なんだよ………この街は」



 モヤモヤしたものが、どんどん溜まっていく。


 俺は、その光景を見てそう言った。

 貧民街を歩き回って見つけたのは、巨大な魔法具と、その中にいる大量の奴隷。

 そして平民。

 観察した様子だと、あれは魔力収集用の特殊魔法具で、技術が足りていないせいでかなり性能が悪かった。


 強制的な魔力収集には苦痛が伴う。

 加えて低スペックの魔法具による雑な収集と相まって、それは最悪と言っていいほど酷いものとなる。

 なる筈なのだ。


 俺は、さっきの子供を見た時と同じ不気味さと、ここではっきりと分かった連中のあまりに非人道的なやり方に対する怒りが頭の中で暴れ回っていた。

 


 「この………クソ共が………!!」



 死にかけた女子供までもが、笑顔で居続ける異常な空間。

 どこまで弱っても、笑顔だけは決して絶えない。

 それが作られた感情だと知らずに、彼らは一体どれほどの数死んでいったのだろうか。


 クウコの言っている意味がよく分かった。


 断言できる。

 ここは確かに、最悪の地獄だ。




 この街は、奴隷や平民に暗示をかけ、使い潰れるまで強制労働に従事させていたのだ。




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