第53話
薄暗いダンジョンで俺は突っ立っている。
俺は今考えているのだ。
このガキをどうするのか。
「なーなー、なにをするんだ?」
仲間に加わった幼女は俺に尋ねてくる。
「何をするか………急いで育てる必要は無くなったもんな。ニール、こいつの年齢で冒険者登録出来ンのか?」
「年齢制限は無い筈だ。そもそもある程度の年齢でとるのはノルマ不達成によるペナルティがあるからな。この子供がパーティに入っていればそこは問題ない」
問題ないらしい。
この年齢の子供が働いていたら日本では大騒ぎになるだろう。
「ワタシはこどもじゃないぞ!」
と、本人は主張しているが外見や話し方は完全に子供のそれだ。
恐らく知識があっても会話などの経験が無く、話しなれていないのが原因だ。
「おいロリっ子」
「ロリっこいうな!」
ふむ、ツッコミの才能はある。
まあそれは置いといて。
ダンジョン育成には2つの方法がある。
先ずは、本人が戦闘や修行で強くなる方法。
だが、実際はもう一つの方法の方が成長速度は速い。
何故なら本来はそっちがメインだからだ。
「お前、生成可能なモンスターは何がある?」
「スライムとサーペントができるぞ。あとはむり」
両方ともGランク。
もう一つの方法とは、ダンジョンで冒険者を戦わせること。
倒せばその経験値は大きいし、傷を負わせるだけでも多少は得られる。
だが、スライムとサーペント程度では、素人に傷を負わせるのが関の山だ。
冒険者には歯が立たない。
「ふぅーっ………ラビ」
「なんだ?」
一度現実を突きつけよう。
「はっきり言おう。お前は………めちゃくちゃ弱い!」
「な、なにぃ!」
幼女は大げさに反応する。
「スライムとサーペントなんざ俺なら1秒で何千、何万、何億と倒せるぞ。それじゃあダメだ。それにトラップが入り口を塞ぐだけって。相当ショボい!」
「うう………くそぉ。いいかえせない………」
ラビは悔しそうに膝をついた。
「だがしかし! お前それは伸び代があると言う事! お前は今から成長する!」
「おぉ!」
こう言うガキは手懐けるに限る。
「今はショッボイダンジョンでも、俺に掛かればSSSランクの冒険者なんぞ軽くあしらう程のダンジョンになれる!」
「ほんとか!」
「ああホントだ。この俺が保証する。さっき見ただろ? 俺はその辺の冒険者やら魔族やらよりずーーーーーーーっと強い!」
「あ?」
ニールの気に障ったようで、不満そうなオーラが見える。
いや、事実じゃん。
「今からお前はこの俺の手によって最強のダンジョンになる!」
「うおおおおおお!!! ケン!!!」
「師匠と呼べ!」
「ししょおおおおおお!!!」
チョロい。
子供の洗脳などこんなもんだ。
その場のノリで大体言うことは聞かせられる(偏見)
「うわぁ………」
「なんと悪趣味な………」
後ろの女子二人が引いているがそんなのは知ったこっちゃない。
こうして俺は生物迷宮を手懐けることに成功した。
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俺は、以前リンフィアにした様な方法で、先にMPだけ上げておいた。
MPはダンジョンで生成可能な魔法具の複雑さに影響する。
これで最低限の遠隔操作はできる様になるので、一々接近せずに済む。
「どうだ?」
「おお………すごいぞ、ししょう。まりょくがふえた!」
まだダンジョン運営させる気は無いが、あって損はしないだろう。
「リフィほどではないが、それでも常人よりはかなり多く増えたな………」
流石は世界で唯一の生物迷宮。
「よし、そんじゃさっさとここを出るか」
「いいのか?」
「何が?」
「ハードミスリルあるぞ?」
「なに!」
俺は首がもげそうなスピードで首を回した。
「こっちにある」
ラビはダンジョンの奥へ走っていった。
俺たちはそれを追いかける
「ここだ」
「近いな」
すぐそこにあった。
「このおくにハードミスリルと“こうりゃくいん”がある。“こうりゃくいん”はさわっちゃだめだぞ、ししょう」
こうりゃくいん、攻略印とは、ダンジョンの最奥にある印であり、それに触れると報酬と共に外に出される。
なお、攻略印はプレートに刻まれ、それが攻略の証となる。
「俺が触ったらお前は力を失うんだろ?」
「うん」
気をつけよう。
「今までよくここまで来れた奴がいなかったな。何かの偶然か?」
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「あら? こんなクエストあったかしら?」
マイは見慣れない依頼書を手に取る。
「ハードミスリル………Dランク? ハァ………また誰かがイタズラしたのかしら。まったく………」
マイは手配書を持って執務室へ入っていった。
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「あ、見つかった。まぁ予定通りだけどねー。ふふふ、気に入ってくれたかな? ケンくん」
そう、これはトモの仕業だった。
「さぁ、君は一体彼女をどれだけ成長させられるか………楽しみだなぁ」
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「まさか………いや、あいつもそこまで暇人、いや、暇神か? おお、上手いこと言ったな、俺」
まさかトモの仕業かなと思ったが、すぐに忘れた。
ぶっちゃけどうでもいいからだ。
「よーし、ひらくぞ」
ラビは、ダンジョンの終点の扉を開いた。