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第527話


 「おいおい、マジかよ………おまえほどの情報屋が、何一つ情報を持ってないのか?」



 クウコはゆっくりと頷く。

 どうやら冗談ではないらしい。

 四死王 “爪”の異名を持つ何者かは、よほどの大物らしい。



 「生きてはいるのか?」


 「ああ。それは間違いねェ。王家直属、国に歯向かおうとする反乱分子を今まで誰一人討ち漏らすことなかった、顔の見えない暗殺者が、“爪”の異名を持つ四死王だ。だがオレも、おそらくアルデミオともう一人の四死王も奴の正体ははっきり知らねェ。集まりがあっても、奴は常に代理を遣す。ンで、現在の代理をしてンのは………」



 ここで、意外な名前が、そいつに関わる人物の口から発せられた。



 「天崎 命だ」


 「「!」」



 奥から現れたのは、偶然話を聞いていたであろう流だった。

 どこか神妙な面持ちである。



 「あいつが関わってんのか?」


 「ああ」



 改めて思う。 

 奴は特異点本来の役割である神の存続………ひいては守護すべき国の存続のためにきっちり国の深い部分にいるらしい。



 「ナガレ………だったな。お前も確か異世界人だったよな。つーことは色々と知ってンのかイ」



 すると、少し間をおいて、



 「はい」



 何故か躊躇いがちに小さく頷きながらそう答えた。

 ………気になる間だ。

 と、色々と考えようとしていると、流は既に続きの説明を始めていた。



 「四死王 “爪”。クウコさん達と違って深く国と関わってる分、天崎とも関わりがあった………っていう単純な話でもないんですよ」


 「ほぉ?」


 「多分………いや、ほぼ確実に“爪”の正体は俺達異世界人の誰かです」


 「やっぱりそうか!?」



 座っていたクウコは椅子をガタッと鳴らして立ち上がった。

 するとすぐ様考え込むようなポーズを取る。



 「そうかもしれないとは思っていたが、なるほど………それならオレが情報を得られないのにもやっぱし納得がいく。異世界人の情報に関しては確かに防御が強い。なるほど、そうだったのか………こうしちゃいらンねぇ………!」



 クウコは急ぐような様子で外に飛び出した。

 大方手下の連中に情報を探らせようとでもしているのだろう。


 さて、と俺は流の方を向いた。

 隠しているのは明らか。

 出来る限り問い詰めるような真似はしたくない。

 しかし、殺し屋と聞けば話は変わる。

 レトが死んで間もないのだ。

 この後に及んで隠し事はなしだ。

 それに、もう大体分かっている。



 「流」


 「分かっている。皆までいうなよ。クウコさんには悪いけど、これなら好都合だ。レトさんとは知り合いだったみたいだし、知人を殺したかもしれない奴の弟が近くにいるとなれば気分も良くないだろう」



 と、あっさりと流は自供した。

 俺は大きなため息をつく。

 予測通りだ。



 「じゃあ、やっぱり………四死王の“爪”ってのは………」



 「ああ姉貴だよ」

 



 俺は、どこか飄々とした、流にそっくりな女の顔が思い浮かんだ。

 変装ばかりで素顔は数度しか見ていない。

 だが、俺の持つ奴の印象は、はっきりと “得体がしれない” だった。




 「お前、何がしてーんだ?」


 「………」



 知って欲しいのか、知って欲しくないのか。

 どっち付かずな流の行動に、俺は苦言を呈した。



 「多分俺は………知って欲しい、と、思ってる………きっとクウコさんなら姉貴へたどり着く。でも、それも多分すぐじゃない。だからお前にだけ話してるんだよ。俺は少し時間が欲しかった。話す決心がつくための時間が。だって………俺の姉貴が、これからまだもっとずっと仲良くなるかもしれなかった仲間を………殺したんだぞ?」



 俺は思わず顰めた顔をして見せた。

 そうだ。

 あいつは死んだ。

 もう戻ってこない。

 

 もっと笑い合えたはずだった。

 いろいろなものを共有できたはずだった。

 そして何より、ウルクはあれほどまでに悲むことはなかった。



 「確かに………レトは死んだ。でも、お前の姉貴が殺したかなんてのは、まだわかンねぇだろ?」


 「いいやわかるさ。戦うことなく背中を貫いて殺すのは姉貴のやり方だよ。俺はそうやって殺された死体をいくつも見ている」


 「だから………まだそうだとは限らねぇ………」


 「俺は、俺は、俺は………………ッッ」





 被せるように呟いて、段々と俺から意識を離していく流。

 その脳裏に映っているものは—————————







—————————










 今でも鮮烈に思い出す。

 血の匂いと死の気配を纏い、虚な目で佇む姉の姿。




 “ヒトヲ殺シタ”



 

 何人も、何人も、と小さな剣を持った姉はそう告げる。

 そして、涙ながらに姉は言う。




 “アナタモ殺ソウトシタノ”




 この時からだったと思う。

 あの能力が目覚めたのは。


 俺は、一度姉貴に殺されかけている。

 姉貴には、固有スキルの他にもう一つの能力があった。

 それは制御できない代物で、そのせいで姉貴は何人もの人を殺めた。

 そして、その牙はついに俺へ向いた。

 これがきっかけだったのだ。

 一度も死にかけたことがなかった俺は、ここで初めて死を想った。

 そして、信じられないような力を、ほんの一瞬得たのだ。




 俺たち兄弟は呪われている。

 真っ黒い影が、変われ変われと騒いでいる。

 きっとそれは、殺人の快楽を求めた、誰か(何か)の声。

 疎ましい能力だ。



 だけど俺は、俺の力には感謝をしている。

 きっと、俺が得た力は、姉に絶望を見せないためにある呪いなのだと、そう思えるからだ。

 

 呪われてたっていい。

 俺はせめて、ほんの少しの守りたいものくらい、守れるように————————

 








——————








 「?」



 ボーッとしている流。

 まるで何かを思い出すような遠い目だ。



 「おいッ!!」


 「っは………!」



 ハッと我に帰った流。

 少し混乱しているのか、顔色が悪いように見える。

 俺は流の肩に手を置いた。

 



 「ごちゃごちゃ悩むのは休んでからにしとけ。少し………色々ありすぎた」


 「………」



 トボトボと生気のない様子で歩いていく流。

 少し………何かがブレているように見えたのは、気のせいなのだろうか。




 状況整理といいつつ、落ち着きにきた俺が言えたことではないが、ウルクたちルナラージャ勢は、少し休息が必要だ。

 作業は多少遅らせておこう。


 さて、それはそうと状況の整理だけはしておこう。








 ミラトニア国王アルスカークからファリスへの依頼により、俺たちは視察の名目でこの国へ密入国した。

 現在は依頼された目的を逸れ、俺独自の目的、ミラトニア防衛のために行動している。

 


 入国前から通路の番人の遺体を発見。

 俺たち以外の入国者………ファリスの隠し通路を知っている入国者が存在することになる。

 少し気になる手がかりがあった。



 入国後、俺達は現在いる国境沿いの街 ヤーフェルに到着。

 情報収集の際、四死王の一角であるクウコと遭遇。

 ウルク派であるクウコは、その流れで俺たちのパーティに参加する事になった。

 クウコの情報により、ルナラージャとルーテンブルクの併合が明らかになった。

 原因は、蓮が起こしたフィリアの逃亡事件とルナラージャの異世界人によるミラトニア侵攻で、両国が敵に回り、その敵同士で同盟を組む形になったと思われる。

 主導権を握っているのがどちらかはまだ不明。



 これらの情報により、俺たちは併合前にルーテンブルクを潰すため、ルナラージャの注意を引くべく奴隷達による大規模反乱を引き起こすことを決めた。

 俺たちが見つかれば、おそらく全勢力を持って両国が俺たちを潰すことなると考えたため、俺たちの正体は伏せることになった。

 計画の初めとして、聖女と呼ばれるエルフ奴隷のセラフィナを英雄にまつりあげることに。



 ………この初めの計画の途中、レトが何者かの手によって殺害される。

 犯人はまだ分かっていない。




 そして、これからの予定。

 それは、この街で最も奴隷たちを虐げた貴族二名の、公開処刑である。

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