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第524話


 ある程度の奴隷紋の破壊が済み、ひと段落ついたので、情報共有のために仮拠点に戻ると、そこには先ほどまであったであろう活気はなく、暗く虚な雰囲気が目に見えるように漂っていた。



 「………………」



 奴隷達は状況が分からにずうろたえている。

 暗い雰囲気なのは、仮偵察部隊の面々だった。

 ウルク、ファルグ、バルドが何かを囲んで座っていたのだ。



 「………おい、何があった?」


 「………ケンか」



 ファルグが返事をした。

 どうやらウルクとバルドは酷く放心しており、俺に対応するだけの余裕がないらしい。

 嫌な予感がする。


 俺が情報共有に来た理由は、主に遠距離攻撃妨害についての情報だ。

 この雨のお陰で攻撃自体は減った。

 狙いがうまく定まらない上に、一度放てば亜人が多い奴隷たちは勘づく。

 しかし、人自体はある時を境にピタリと減らなくなった印象があった。

 遠距離攻撃役排除に行ったのはウルクとレトだった。



 「………」



 何があったか知りたいが、今問うべきではないと判断した。


 何があった?

 ウルクは無事だ。

 だが、レトがいない。

 この二つの情報だけで嫌な想像がどんどん膨らんでいく。



 「?」



 ふと、中央にあった塊に目をやった。

 なんだあれは。 

 あんなものを置いた記憶がない。


 それは、人が入れそうな大きな袋で———————





 「………………!!!」





 俺はきっとひどい顔をしていただろう。

 これがそれほどのものだと、気づいてしまったからだ。

 


 「ケン、少し」



 ファルグがそう言って外へ向かう。

 俺はほんの一瞬ウルクに目をやったあと、ファルグと共に外へ出るのだった。










———————————————————————————












 「単刀直入に言おう。あの護衛の青年は死んだ」




 ファルグは淡々と俺にそう告げた。

 


 「背中から心臓へ一撃。HPが一瞬で消し飛んだんだろう。抵抗した跡もなかった」



 人間は各急所にダメージを負うと、大きくダメージを負う。

 特に脳や脊髄、心臓も含めた各臓器は大きい。

 心臓が貫かれた場合は、俺のHPでも消え失せてしまう事だろう。



 「………誰が殺ったんだ?」


 「悪い………そこまでは調べ切れていない。作戦中だったから俺もヘタに動くわけにはいかなかったのサ」


 「いや、いい………」


 

 掌に爪が喰い込んで血が出るまで強く拳を握り込んだ。


 ふつふつと、煮えたぎるような怒りが湧き上がって来る。

 それが溢れ出る事が無かったのは、ウルク達がいるからだ。

 あいつらを差し置いて、俺が暴れまわるのは流石に忍びない。




 「遺体を持って帰ったのは?」


 「ウルクだ。酷い面していたよ。泣き腫らした顔のままレトを負ぶって来ていた」


 「そうか………」




 辛いだろう。

 辛いに決まっている。

 俺はそんなにあいつと多くを語ったわけじゃないが、レトがウルクとバルドをどれほど大事にしているかはよくわかっているつもりだ。

 きっと、ウルク等もレトを同じくらい大切に思っているだろう。

 そう思うと、どうしようもない程にやるせない気持ちになる。




 「作戦はどうする?」



 ファルグはそう言った。

 そう、作戦の方も疎かには出来ない。

 しかし、あいつらにこれ以上余計な負担をかけさせるわけにはいかない。



 「あいつらが抜けた状態でやろう。もう半分ほどの奴隷は解放した。後は民家にいる奴隷が中心で………」




 「待て。俺は出るぞ」




 「「!!」」



 奥から出て来たのは、バルドだった。

 平静を装った様な表情だが、やはり精神的に相当きている事が見て取れる。



 「青年。あまり無理をするモンじゃァ………」


 「動けるのなら、レトがいた場所を担当してくれ。援護が欲しい」



 俺はかぶせる様にそう言った。



 「は!? ケン、お前今さっき無理させるわけにはって………」


 「いや、気が変わった。バルド」


 「なんだ」


 「無茶はするな。内容の方だが………」


 「問題ない………あいつがいつもみたいにペラペラ喋っていたからな」




 バルドは無理に笑顔を作ると、振り返ってレトとウルクが担当していた場所に向かった。

 何かしていないとやってられないのだろう。

 それがわかるだけに、見ていて辛くなる。

 



 「そうか………」




 俺も武器を装備して準備をする。

 なるべく俺は動かないつもりだったが、敵が出た以上は早めに作戦を終わらせる必要がある。



 「出る気か?」


 「ああ」


 「行かせてよかったのか?」


 「やり場のない怒りをぶつけたい時がある事はよく知っている。だから俺はバルドを出向かせたんだ」



 感情というものは、ため込むとろくな事にならない。

 それが善いものだろうが悪いものだろうが、だ。



 「今の状況は?」


 「デカい貴族は4つ中3つは潰した。残りはリンフィアのところ、お前の言った通りやはり最後に残ったデカい貴族はここの領主サ。テェ訳でルク………ナガレとエルフのネーチャンがむかってる。制圧率は6割弱だ」

 

 「なら………俺は雑魚狩するから、全員に残った屋敷に向かう様に言っておいてくれ。ただし、とどめはセラフィナに譲れ。なるべく目立つように、だ」


 「了解」


 

 6割も潰せば、流石に一般人は完全に引っ込むだろう。

 後は適当に暴れて、領主が潰れた後に一気に奴隷を解放する。


 俺は木刀を握りしめて外に向かった。













———————————————————————————














 ルナラージャ王都内某所。

 軍事施設の一角にあるとある部屋に場面は映った。


 そこにいたのは、





 「暴動?」



 ルナラージャ、命の神の特異点である天崎 命はそう聞き返した。

 聞き返された問いに対してコクリと頷きながら答える一般兵。



 「はい、どうやらヤーフェルの奴隷が1人脱走したのをきっかけにどんどん奴隷達が暴動を起こしている様です。王都にも救援要請が入っております」



 命は、軍事管理も務めていた。

 なので、こうやってたまに暴動や反乱が起きた時に勇者が動けるよう、リーダーである命に報告がいくのだ。

 

 その命はというと、今の報告を受けて首を傾げていた。



 「奴隷紋は?」


 「それが、奴隷紋を破壊する武器があるらしく、首謀者の奴隷の仲間が持ち込んだとのことです」



 「奴隷紋を破壊にござるか!? それはまた奇怪な………とはいえ、今は勇者を動かす訳にもゆかぬしなぁ………ん? ヤーフェル?」



 命は何かを思い出した様に、はたと手を叩いた。



 「ああ、あそこならばあの方がいるではないか」


 「あの方………あ、ぁ、“あの方” ですか?」





 兵の声が小さく震える。

 



 「そうだ。あそこに居ると聞いたでござるよ。我が国の最強の戦士 “四死王”の “鬣” 殿が」



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