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第521話


 「スラウル、お前にやった奴隷だが、ちゃんとしつけているか?」


 「うん! ちゃんとしつけてるよ! もうちょっとで泣き叫ぶまでいたぶれると思う!!」



 ヤーフェルの大貴族の一人であるストウルと、その息子のスラウル。

 彼らは奴隷主の中でも特に常軌を逸していた。

 決して表には見せない残虐性ゆえに誰も彼らの実情を知らないが、今まで幾度となく奴隷を拷問の末に殺している。



 「はっはっはっは!! そうかそうか。しっかりやれているならいい。流石私の息子だ」


 「ふふふ、でもまだパパには及ばないけどね」


 「当たり前だ。心を壊さずに痛めつけるというのは本当に経験が必要だ」


 「できた時気持ちいいんだけどねぇ」



 嬉々として語るストウルと無邪気に喜ぶスラウル。

 普通の会話の中に時折混ざる嗜虐的な発言が、この親子の異常性を物語っていた。

 



 「あの女奴隷も私ならもう少し早く絶望させられていただろう」


 「ぼくだってやればできるよ!」


 「ほぅ? いうようになったなスラウル。はっはっはっはっは!」


 「く〜〜!! だったら今す—————————」







 プチッ








 それは、命が散る瞬間としてはあまりに平穏過ぎた。

 ただひたすらに唐突で、呆気ない。

 本人すら気づかぬうちに事切れることだろう。

 



 「?」



 なにをされたかも分からず、宙を待っている()()()()()()()()

 それの目から光が消えたのは、血だまりが出来るよりは早かった。



 「安らかにお休みなさい。ご主人様」



 ストウルは実の息子がたった今死んだというのに何も言わずにぼーっとしていた。


 何が起きた? これは現実か?


 そんな思考の無限ループ。

 目の前にいきなり現れた2人組とそのうちの一人である首をはねたエルフに気を回す余裕はなかった。

 ただただ息子が死んだ。

 悲しみ云々ではなく、突然おかれた事実に呆然とするしかなかったのだ。


 そんなストウルはお構いなしに、セラフィナはそのまま悠々と近づいていく。




 「さて、ストウル様」


 「………何をしているのだ?」



 やがて整理がついて事実を飲み込み始めたストウルは、そこから次第に怒りを見せ始めた。



 「何をしているのだと………聞いているのが聞こえんのかッッッ!! この穢らわしい奴隷風情が!!」



 ストウルが正気に戻ったのを確認したセラフィナは、スラウルの遺体へ近づき、腕輪に剣を突き立てた。

 


 「きさッ………」


 「遺体を辱める様な残虐なことをしません。死者に与えられるべきは安寧ですから。そう、貴方にもすぐに与えられますよ。安寧」



 優しい微笑を浮かべるセラフィナ。

 ただし、殺気の入り混じった、だが。

 そのアンバランスな微笑がどことなく不気味に感じたストウルはヒュッと声を漏らすと後ろに一歩下がる。



 「おッのれ………………奴隷風情がァ………奴隷、奴隷?」



 ハッとするストウル。

 今の今まで忘れていたらしい。

 彼の腕には奴隷主が持つ“主人紋”の刻まれたブレスレットがあるのだ。



 「くッ、ふははははは!! ばっ、馬鹿め!! 貴様が私に逆らえるわけがないだろうが!!」



 ストウルはブレスレットをかざして魔力を込める。

 しかし、



 「………え?」



 何も起きない。

 ブレスレットは全くの無反応のまま動く気配はなかった。



 「無駄です」


 「は?」


 「奴隷紋は消えました」



 セラフィナは服を巻くって紋があった腹部を見せた。

 そして次の瞬間、






 ズパンッッッ!!!






 再びフリーズしそうだったので、今度は斬撃を飛ばして無理やり意識を引っ張った。

 これも本当だと理解するストウル。



 「ヒッ………」


 「奴隷風情が………とは言わないんですね」



 キッと睨みつけるセラフィナ。



 「あなたの様な方はいつもそうです。自分が持つ権力が及ばなくなった途端に弱気になり、なりふり構わずわが身可愛さに勝手気ままに振る舞う。自分の息子が死んだというのに、貴方が先ほどまで気にしていたのは矮小なプライド自分の命だけ。私は………それが許せない」



 剣を向け、魔力を放つ。

 部屋一杯に充満した濃密な敵意は、ストウルを一瞬で絶望に陥れた。




 「う、ぅう、わあああああああああッッ!!!」




 一目散に逃げ去るストウル。

 おそらく外まで逃げていっただろう。



 「………」



 セラフィナはその様子を見届けると、剣と魔力を収めた。



 「ここまでは計画通りですね」


 「ですね」





 ストウルはここでは殺さない。

 これは最初から決めていた。

 奴が逃げることにより、奴隷紋を破壊する武器の存在を広めることができる。

 奴はこの領地でかなりの力を持っている。




 「今頃予定通り地下にいる人たちが外に出て派手に騒ぐ様になっている筈です」



 「家主が騒いでる拍子に抜けると同時に、噂も広めつつ奴隷達の安全も守る………そしてその家主からも噂が広がって他の奴隷を活気づけたところで救出してさらに勢力を拡大」



 ケンはそこから更に先を読んで細かい指示を送っている。

 セラフィナは色々と思いついては実行できるあの少年にただただ驚かされていた。



 「さぁ、私たちは次です。いきましょう、ナガレくん」


 「はい!」









————————










 屋敷を脱出後、元奴隷だった連中をわざとボロ布を着た格好のまま野放しにした。

 作戦通りかなり目立って、奴隷が脱走して無事でいるという、噂を更に掻き立てる情報をばら撒きつつ、戦える奴とこいつらを守りながら、クウコに用意してもらった仮拠点に戻ってきた。



 「ただいまー」


 「オウ、随分と早ェ到着だな………って、なんて格好してンだヨ」



 クウコはボロ布を着た俺にそう言った。

 俺は奴隷達に混ざるためにわざわざボロ布を着てここまで帰って来た訳だ。



 「仕方ねーだろ。1人だけ装備が綺麗だったら目立つし」



 俺は換装魔法で装備を変更、元どおりに装備に戻った。

 奴隷の連中には悪いが、やっぱりかなり着心地は悪いし、臭いもきつい。

 まぁ、動きやすくはあるが。



 「ふぅ、やっぱしこれだ」



 こちらの世界に来たばかりの頃は多少違和感があったが、慣れたらまぁまぁ落ち着く。

 でも、やはり外では着崩した学ランか、家ではいつものジャージの方がしっくり来る。

 目立つので学ランは無理なのだが。



 「ほぉ? そいつァまた便利そうな魔法じゃァねェか」


 「今度教えてやるよ。で、首尾はどうだ。いい感じか?」


 「あたぼーよ。オレを舐めンなヨ。市民貴族共に順調に流してる」


 「流石、腕のいい情報屋は頼りになる」



 クウコには、情報屋に必要な技術、カリスマ、人脈、人望、知識が全て揃っている。

 ここまで計画が早く進むのもクウコのお陰だ。




 「で、次の作戦ってわけかイ?」


 「おう」




 計画は第二段階へと移行するのであった。









 「………………………」




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