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第52話


 「成長する………ダンジョン!?」


 恐らくそれは、地上で誰も知らないダンジョン。

 ダンジョン自体は知られていたとしても、正体は誰も知らない。

 だが、俺はその正体を知識として知っていた。


 「生物迷宮………こんなガキが?」


 「ん? おまえ、なんでしってる?」


 生物迷宮とは、既に完成されたダンジョンとは違い、移動や成長を行う意思のあるダンジョンだ。

 正確にいうと、ダンジョンという世界を所有した人間のことを指す。

 突然現れたり消えたりするダンジョンがあれば、それは生物迷宮だ。

 核は人間で、そいつが強くなればなるほど、ダンジョンが豪華になっていく。


 「そうだ。わたしはせんだいのせいぶつダンジョンだったははうえのちからをついだ、あたらしいせいぶつダンジョンなのだ」


 幼女は得意気な顔になり、大きく胸を張ってそう言った。

 なんとも生意気な顔だ。


 「あ、そうだ。しょうかいしないとな。おーい、ははうえー」


 「はーい? どうしたのラビ………あら」


 「!?」


 壁から人が現れた。

 ラビと同じ髪の色の女性だ。

 こいつが成長すればこうなるんだろうなと………なるのだろうか?

 それは置いといて、まあ親だとわかる女性だ。

 

 「ははうえー、つかまっちゃった」


 「あらあら、ダメじゃない。母のようにダンジョンの力を失ってしまいますよ」


 そう、攻略されれば力を失うのだ。

 ………ん?

 だったら何故、この女は生きているのだろうか。

 気になるところだ。


 「冒険者様方。宜しければ娘を放しては貰えないでしょうか? この子はまだ幼いダンジョンなんです」


 「いや、別に俺たち攻略するつもりで来たわけじゃねーよ。ここにあるっていうハードミスリルを探しに来たんだ。ほら、行けチビ」


 俺はラビを離した。


 「む、チビではないのだ! ワタシにはラビというりっぱななまえがあるんだぞ!」


 と言いながら母親の足元に隠れるラビ。


 「いいのか? 逃げられるぞ?」


 「いや、多分大丈夫だ。さっきの見たら、俺がこんなところ一瞬でクリアできるってのが伝わっただろうからな」


 「ウフフ、逃げたりしませんわ。そうですか、ハードミスリルを………いいでしょう、差し上げます」


 「お、マジで? その条件でこいつを鍛えればいいのか?」


 「!」


 母親は驚いている。

 鉱石はこの内部に有るのだろう。

 これも生物迷宮の特徴だ。

 ダンジョンのモンスターや、魔法具を作る材料は、ダンジョンの成長に合わせて増えていく。

 こいつを鍛えればその分大量に手に入るというわけだ。


 「よくご存知で………書物には一切残ってない筈なのに。いや、そもそも我々の存在は認知されてない。貴方は一体何者なのですか?」


 「俺はただの不良だ。ただ、ちょっと他人より賢しい不良だ」


 俺はニッと笑う。


 「ウフフ、面白い方ですね」


 俺に返すように、母親は穏やかに笑った。

 俺はとある疑問があったので母親に尋ねた。


 「アンタ、なんで生きてんだ? 力は失ったんだろ? 確か生物ダンジョンは攻略と同時に死ぬはずだ」


 ダンジョンと所有してある人間とは結びつきが強いため、力を失うとその核である人間は衰弱し、死に至るのだ。


 「ええ、攻略時に力は失いましたわ。でも、もうその時既に力の半分程あの子に引き継がれていましたから。ダメージが小さめで済んでなんとか生き残れました」


 「なるほど、その例か」


 疑問が解決してスッキリした。


 「それで引き受けてくれますか?」


 「ああ、良いぜ」


 「そうですか! それはありがとうございます!」


 母親は深々と頭を下げた。


 適当に鍛えてやればいい。

 裏技を使えばすぐに強くなれる筈だ。


 「ラビ、いよいよ旅立つ時が来たのよ。これからお前はこの方達と共に戦い、史上最高難度のダンジョンとして君臨するの。いい?」


 「うん! ははうえ! ワタシ、りっぱなダンジョンになる!」


 ん? 旅立つ? 共に戦う??


 「楽しみにしてるわ。元気でね、ラビ」


 「わかった! ははうえ!」


 すっかりお別れムードに入っている。


 「ケン、これは………」


 「ケンくん、これってまさか………」


 トントン拍子に話が進んでいく。

 まさかだとは思うが………この母親、俺にこのチビを連れて行かせるつもりか?


 「おいおいおいおい………冗談だろ………?」


 「貴方のお名前をお聞かせ願えますか?」


 「え、ああ。俺はケンだ」


 つい名乗ってしまった。


 「私はメイズ。ついこの前まで生物迷宮だった者です。ケン様ですか。変わったお名前ですね」


 「あ、それ私も思いました」


 「私もです」


 まぁ、異世界人だからな。

 特に日本人の名前は珍しいだろう。


 「それではケン様。この子をどうかよろしくお願いします」


 「えっ! ちょ、おい!!」


 メイズは壁の奥に消えていった。


 「またね、ラビ」


 「ばいばーい、ははうえー」


 こいつはこいつで気が抜ける。

 いや、そんなことよりもこれはマズイ。

 面倒な事になった。

 

 「よろしくな! ケン。うはははは!」


 俺は思わず顔が引きつった。

 

 ダンジョンにクエストを受けに来たはずだったが、ひょんなことから幼女を預かる羽目になった今日。


 「ははは………マジかよ」

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