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第519話





 「ぁ………………っ、ウルクリーナ………王女殿下………………!!」




 それは敬意からだったのか、はたまた王族に対する畏怖だったからか。

 おそらく、大半が後者なのだろう。

 顔を見た瞬間、奴隷達はガタガタと震えながら、一斉に平伏した。


 そして、それはセラフィナも同様だった。



 「っ………………………………………!」



 まさかの反応に驚くウルク。

 おそらく、長らく向こうで生活していたせいで、この国における王族というものがどういうものなのか忘れていたのだろう。

 ウルクは眼を見開き、開いた口が塞がらない様子で少し唖然とすると、キュッと口を結んだ。


 ここでようやく、ウルクはこの国に帰ってきた事を実感しただろう。

 王族・貴族がいかに恐怖によって仮初の忠誠心を植え付けているのかという事を。


 それは、寛容であることで有名なウルクであっても恐怖心が働いているのを見れば明らかだ。



 「こいつは………」



 俺も些か面を喰らった感はある。

 ここまでのものとは、と思わされた。

 ラクルのリンフィア達は、ミラトニアでもかなり酷い例だろうが、ここは更に酷いらしい。



 「失礼いたしました………! このような下賤の身でありながら王女殿下に—————————」





 パチン!! と





 ウルクはセラフィナの顔を両手で包み込んだ。

 


 「大丈夫、私は味方。私は奴隷のみんなを救うためにここに来たの。でも、知っての通り国を追われた私はこの国を()()()()()()力がない………だから、奴隷のみんなに協力してほしいの」



 そう、王族を倒すだけならば俺だけでもいい。

 さっさと乗り込んで王城を丸ごと消して殲滅すれば終わりだ。

 だが、敵に転移系の能力があるのならおそらく逃げられる。

 そうなった場合、どういった形で報復を受けるかわからない。

 俺は万能ではない事は、俺がよくわかっている。

 できない範囲というのははっきりしている。



 「………」



 セラフィナはダンマリだった。

 流石に唐突過ぎたか。

 だが、この辺りの交渉は、本人たっての希望により、ウルクに全て任せている。

 その辺りの責任は持ちたいのだろう。


 だが、奴隷達は混乱の真っ最中だった。

 隠そうとしてはいるが、困惑の色は十分に見て取れる。

 

 その時だった。



 「………………………」



 何を思ったのか奴隷の一人がポツリと溢したのだった。

 小さな亜人の子供である。

 あまり何を言ったのか聞こえない。

 隣にいる奴ですら聞こえなかったようだ。

 すると、今度ははっきりとこう言ったのだ。




 「王族なんて、信用できるわけが——————」




 その一言は、まるで時間を止めたような静寂をもたらした。

 ヒューヒューと、小さく風の音が聞こえる。

 そして、少年はふと我に帰って、自分の言った事の意味を思い知った。

 


 「あ、あ………………ぁ………」



 少年の顔が絶望に染まる。

 だが、



 「!」



 ウルクはその少年を優しく抱きしめた。


 “あり得ない光景を見た”

 それは今見ている奴隷達全員の考えている事だろう。



 「安心して………なんて軽々しい事は言えないね。私の一族があなた達に与えた呪いは、私一人がそう簡単に消せるものじゃない事はよくわかってる。だから、せめて償わせてほしいな」



 ウルクはポンポンと、少年の背中をたたく。



 「私は、私の一族が………王族が許せない。でも、あなた達にとっては私もあの人達と同じ穢らわしい王族の一人。うん、それでいい。恨んでいいよ。いや、いっそ恨んでほしい。それはきっと、私が背負わなければいけない、私たちの業だよ」



 ウルクはスッと立ち上がる。

 その表情はいつもとはまったく違う、王の威厳を漂わせるものだった。

 その姿に、奴隷達や流は完全に魅入っていた。


 ああ、見たことがある。

 生まれながらの王の資質。

 リンフィアと同じ。

 そして、あまり言いたくはないが、アルスカークも持っている絶対的な資質。

 



 「私は、恨まれてでも民を助ける。王になりたいわけじゃない。何者になるつもりもない。私は、ただ国民が、奴隷達が、身分の壁を取り去って分け隔てなく平等に暮らせる国を作りたい。そのために、この国を倒す」



 決して力強いとは言い難い小さな女の手。

 差し伸べられたその手は、見た目とは裏腹にとても力強く感じた。



 「もし、自由を勝ち取りたいと願うなら………手をとって欲しい。ここにいるみんなの協力が必要なの。子供も大人も関係ない。もちろん君も」



 少年の目を見る。

 いつの間にか、恐怖は消えていた。

 その目の奥には、微かに光が灯っていたのだ。

 いや、少年だけではない。






 「………!」



 俺は思わず感嘆した。

 こいつにここまで人を動かす力があった事に素直に驚いた。

 日頃から妙な凄みは感じていたが、よもやこれほどまでとは。



 「聖………これは………」


 「ああ、スゲェな。正直、最初はセラフィナだけを動かすつもりだったが………」



 この場の支配者は完全にウルクのものとなっていた。

 


 さぁ、種火は起こされた。

 ここからどれだけ広げられるかで、この人間界の運命は決まる。

 広がれ。

 どんどん広がれ。

 望みを勝ち取りたいのなら、剣をとって立ち上がってくれ—————————





 立ち上がった奴隷達を見て、ウルクはニッと笑う。

 そして、前を向いてこう言った。



 「さぁ、ここから抜け出そう!! 自由を勝ち取るために!!」

 


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