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第515話


 「で、具体的にはどうする。最初はどう動くつもりなんだ?」



 そう尋ねるのは、意外なことにファルグだった。



 「お、意外と止めないんだな、先公」


 「いやァ、俺も真面目な方でもないしな。それにルナラージャだけでなくルーテンブルクにも行くってんなら俺も全面的に協力するサ」



 そういえば、と俺は思った。


 よく考えてみれば、こいつもレイ達ルーテンブルク勢と関係がある風だったのだ。

 ファリスがこいつを俺たちのお目付役に付けたのには関係があるのだろうか。

 ともあれ、今はまだそれはわからない。



 「で、どうすんだ?」


 「さっき言った通りだ。奴隷を味方にする。クウコの話によると、この街はぱっと見治安はいいが奴隷たちの労働環境は最悪らしい。十分にメシは与えられず、休憩もほぼ無し、虐待なんて日常茶飯事だ」


 「そこで俺たちが奴隷主を潰して助けるってシチュエーションかね?」



 ファルグはそう言った。

 虐げられた奴隷を、非道な持ち主を倒す事で俺たちが救い出して、連中の英雄となる。

 それもまぁ一つのパターンだ。



 「んー惜しい」


 「は?」


 「そうなったら、助け出した奴が誰なのか、というのを第一に探し始めるだろ? 俺たちが首謀者になるってのはダメだ。後々の事を考えたら、今俺らの存在が露見するわけにはいかない。そこでだ」



 俺は地図を取り出して、街の西にあるとりわけ大きな屋敷を指差した。



 「ここにはマジで大人数の奴隷がいるらしい。その中に、“聖女”と呼ばれたエルフがいるって話だ。剣の達人で、魔法にも長けている。しかも、聖女と呼ばれるだけあって清く正しい心を持っているんだと。それ故に、奴隷主に強く反発して、他人より酷い仕打ちを受けているんだ。こういうのは嫌なんだが、ピッタリだろ?」


 「………………!!」



 じーっと地図を眺めつつ、そのエルフの事を考えていたファルグがハッとした。



 「なるほど、そういうことか。お前さん、そのエルフを英雄にしようって腹積りかい?」

 

 「ご名答」


 「なるほどな。確かに、バックボーンのある奴ならいい。条件的にも英雄たり得る。悲劇と正義。これは欠かせねぇからな。って事は、まずこいつの所に行って、説得の必要があるな」


 「そうだ。そこで、ちょうど良いのが」



 俺はウルクと流を指差した。



 「こいつらだ」


 「いいねぇ。国を憎む王族が、英雄になる聖女共に奴隷たちを救う、っていう筋書きか。些かありきたりだけどな」


 「ありきたりってのはいい事だ。とどのつまり分かりやすいっつー事だからな」



 こういう英雄譚を作るなら、複雑でない方がいい。

 今必要なのは、この物語のフォロワーだ。

 わかりやすく、且つ希望が持てる程度の説得力のあるストーリーが欲しい。



 「で、俺らはどうする?」


 「そうだな………戦闘に備えて準備しておいてくれ。さっきはああ言ったが、潰すのには変わらねーからな。性根の腐ったゴミ共は確実に根絶やしにする」



 俺は立ち上がった。

 今からというわけにもいかないので、とりあえず今日はみんなには休んで貰おう。



 「よし、そんじゃもうそろそろ………というかとっくに日ィ跨いでっから、今日は解散しようぜ」



 という事で、この集会は解散という流れになったのだった。










———————————————————————————












 「けど、やっぱし眠れねーんだよな」



 俺は結局ドリンクの効果が抜けなかったので、折角だと思って街の表を改めて散歩する事にした。

 人通りは少ないが、夜中3時台にしては人がいる。

 


 「明るい街だ。まぁ向こうの都市に比べりゃ暗いが………」



 かつて訳もなくぶらついていた時の事を思い出していた。

 思えば色々と変わったもんだ。

 それに、ちょっとはマシになったかもしれない。

 そう思うと、やっぱりきて良かったと思える。



 「………ん?」



 ふと少し耳を澄ませば、怒鳴り声と悲鳴が聞こえてきた。

 集中すれば、ちらほらと。

 歩き回っているとあちこちから聞こえてくる。

 常人には多分聞こえないだろう。

 感覚が鋭くなっているのも困り物だ。




 助けて




 何もしなくとも聞こえてくる。




 助けて




 誰も聞こうとしない悲鳴が聞こえる。




 助けて




 ああ、聞こえる。

 聞こえる。

 今まで幾度となく、踏みつけられた声。

 こんなものが許されている事を、見知らぬ顔で同じく容認している事実がよくわかった。

 本当に、




 「………………ッッ!!」









 ————————————どこまでも不愉快な国だ









 俺は弾けそうになった魔力を地面に飛ばしてなんとか耐える。


 常人でも、これだけ虐待があるなら少しくらいは気がつくはずだ。

 そんなふうにこれを容認する連中も、虐待をしている連中も、そういう文化を植え付けた国の上の連中も、何もかもが気に食わない。


 この計画が成功して、最後まで行けば、少しはこの国の害虫どもも痛い目を見る事だろう。


 



 その後も俺は、街の惨状を目に焼き付け、耳に残し、憤怒を溜めていくのであった。

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