第514話
「奴隷………」
ウルクは、どこかハッとした様子でそう呟いた。
そう、彼らを味方にする。
使役はせず、解放して味方につけるのだ。
改めて見たらこの国の奴隷の多さは異常だ。
おそらく亜人奴隷を始めとして、あらゆる名目で民を奴隷に落としているのだろう。
「これはずっと考えていた。そして、ウルクの望みを実現する為の方針でもある」
「私の?」
「ああ。お前の望み通りに国をひっくり返す為、国をひっくり返した後の為に、奴隷たちの支持は必要だ」
王族が倒したとして、その直後は間違いなく国は混乱に陥る。国民と奴隷達で大きな争いが起きる事は想像に難くない。
その時のために、手綱を握っておく必要があるのだ。
だが、ウルクの顔が少し曇る。
「でも、奴隷が戦わないといけないんじゃ………」
それに関しては、俺も誤魔化すつもりは無い。
奴隷達は戦わなくてはいけないのだ。
しかし、ちゃんと理由ならある。
「だからこそだ。言っとくが、お前の望みの為ってのはこっちのがメインだぞ」
「え?」
「もし合併が完了してミラトニアとの戦争になれば、雑兵として奴隷は間違いなく大量に駆り出される。連中のやり方なら、確実に物量頼りの無茶苦茶な戦法で戦おうとするだろう。だが、ここで俺が指揮して戦わせるなら死人の数は激減するぜ」
「!」
全国民が平等な国を作るのが、ウルクの夢だ。
そしてそれは、奴隷たちがもう虐げられないことであり、傷つかないことでなのである。
俺は連中を働かせるが、それでも限界まで死人の出ない戦い方をするつもりだ。
「無血で戦争回避なんて甘い考えは俺も流石に捨てる。それもおかしな話なんだがな………でも、色々と事情が事情だ。争いを回避しようとしても譲らない奴は現れる。なら、潰すしかない」
俺が拳をグッと握りしめた。
「だが、俺も二カ国同時に相手すンのは無理だ。戦力的になら俺1人で勝てるが、死人を出さねーように戦うなら無理だ。圧倒的に物量が違いすぎる。それ故の協力者だ」
俺も万能とは言えない。
さっきのように、知恵が、思考力があるだけに、無理な事ははっきり無理だと、俺にはわかってしまう
そのために、俺は協力をする必要があったのだ。
「ここまでやってるんだ。この国の王家とルーテンブルクの王家は………いや、この二つが合わさったときの王家は確実に滅ぼす。そしてそれは俺がやる。奴隷たちはあくまでも時間稼ぎだけだから安心しろ」
俺はすくっと立ち上がった。
方針は決まった。
ならばこの旨を伝えなければならない。
「バルド、全員ここに呼んでくれ。俺はちょいとクウコにこの国の情勢とか聞いてるから」
「っ、ああ」
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俺は一番広いバルドたちの部屋に全員で集まった。
13人がすっぽり入ったので、問題なさそうだ。
俺は早速話題に移ろうとしたが、一つ尋ねることがあった。
「あー、今更だけどよ、この一派は俺が仕切ってもいいんだよな?」
と、俺は全く持って今更な質問をした。
予想通り、何を今更と言った顔をされる。
全員特に異論はないらしく、みんな各々反応をした。
「そんじゃ、許可も貰えたことで、さっき決めたこっからの方針について話しておく」
「一応聞いておくけど、“偵察”のだよな?」
訝しげな顔で流がそう尋ねた。
当然そんなわけもなく、
「逆に何故それを聞くんだ?」
「あーはいはい。わかったよ。この前ミラトニア国王からの依頼書とやらもビリビリに破いていたしね」
みんなの引き攣った表情を無視して俺は続ける。
「続けるぞ。と、その前に言っておかねーとな。まず最初は………………」
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「ってわけだが」
俺は国の合併や、クウコのこと、蓮の情報をとりあえず全員で共有した。
話の前提として必要な事は先にいっておこうと思っていたのだ。
「クウコさん、ですか。よろしくお願いします!」
「おう」
リンフィアがそう挨拶を交わすと、わいわいと周りもクウコに話しかけ始めた。
進まなくなるのである程度済んだら引き剥がしたが。
「さらっととんでもないな………………合併だと? お前それが何を意味するのかわかっているのか?」
レイが手の甲をさすりながらそう言った。
「当然。だから潰しておくんだよ」
ザワッとする。
今言ったのは事実上、国に対する叛逆を名言したようなものだ。
「ケン君、貴方………………」
「ああ。これが本題。これから俺たちはこの国をひっくり返して、ウルクに乗っ取らせる。ま、俺たちは叛逆者ってことだな」
「「はぁ!?」」
何も知らないミレアとファルグが声を上げて驚いた。
リンフィア達は何となくわかっていたらしい。
レイやウルク達外国勢は言うまでもないだろう。
「学院長にとんでもねェガキってのは聞いてたし、ヤベェのはわかってたつもりだが、こいつは予想以上だな、ヒジリケン………」
「ああ………頭痛がします………」
俺は一応チラッとレイを見る。
「ワリィな。国家間の戦争はどうにかするが、結果的にルーテンブルクとは戦いになるかもしれねーんだ」
「いや、構わん。ルナラージャ、ルーテンブルク両国家の消滅は私も望む所だ。人間界統合。それが為されるのであれば問題無い。だがいいのか? 貴様が言っていることはつまり………ウルクを王にしてミラトニア王家も滅ぼすと言っているんだぞ?」
「っ………!?」
リンフィア、ニール、ラビが俺の方を見た。
こいつらはきっと、琴葉達のこととか色々考えてくれているのだろう。
しかし、
「それはちょっと違う」
「何?」
俺は改めてこう言う。
「人間界統合。それが最終目標だ。そしてその時唯一の国であり、人間界そのものの象徴となるのがミラトニアだ。知恵の神の力は必要だからな。他国の連中も改宗させる。戦争から人々を救った英雄にでもなれりゃ誘導できそうだしな」
「? だがそれではウルクが王になれないだろう」
「ああ、ウルクは王にはならねーよ」
「は?」
俺がチラッとウルクを見ると、心なしか嬉しそうな表情になっていた。
大丈夫だ。
ちゃんと忘れていない。
そして俺は宣言する。
「こいつが目指すのは、王の統治ではなく民の自治。つまり、ミラトニアをベースとし、人間界初の民主主義国家へと大きく作り替える。それが目標だ」
「「「………」」」
あたりがシンとする。
あまりにスケールが大きすぎてポカンとしている。
一際頭の悪いニールは少しショート気味だったのか俺に尋ねてきた。
「ちょっ、ちょっと待て!? 話が大きすぎてついていけんぞ………」
「ごちゃごちゃ言ってるがつまりだな。くっつこうとしてるルーテンブルクとルナラージャを邪魔して、先にルーテンブルクを滅ぼして、その後にルナラージャを滅ぼす。そして国境を取り払い、残った民衆をミラトニア人として受け入れ、ミラトニアが人間界唯一の国になったら、王家を解体して新たな体制でミラトニアを治める」
平たく言えばこうだった。
「とりあえず、全部ぶっ壊すんだよ」
宣言していた12/20を過ぎたので、本日より、投稿間隔を二日に一話投稿とさせていただきます。
受験が終わり次第、毎日更新にしていくつもりですので、どうかよろしくお願いします。
何か質問等がありましたら御手数ですが、活動報告からよろしくお願いします!




