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第512話


 廊下の壁と激突する直前で踏み止まる。 

 敵は刃を捻ろうとしたので、無強化だった俺は手を放し腕を引っ込めた。

 当然追撃が飛んでくる。



 「フーーーーーーッ………………………」



 ゆっくりと、息を吐きながら、神経を研ぎ澄まし、そして、落としていく。

 深く、穏やかな意識の海。

 頭の中は忙しなく、且つ最効率でうごかし、それに対比するように集中力が高まった。



 そして、敵のその刃が届くほんの一瞬、

 



 「!」




 俺は最小限の動きでそれを躱し、一気に間合いまで入っていく。

 体を逸らし、次の一撃を防いだ後で、“デュオ”に強化を完了した。



 「もう当たんねーよ」



 縦に振り下ろされた剣を右足を軸に飛んで避け、返して飛んでくる一撃を飛んで回避する。

 トントントン、と踊るように足を運び、受け流す事も無く避け続ける。



 「…………」



 あれ………?


 少し妙な感じがする。

 様子が変わったと思ったら、急激に攻撃が弱まったのだ。

 俺は、軽く攻撃を躱し切り、敵の攻撃が尽きた瞬間を狙って背後に周り拘束した。



 やはり何かおかしい。

 抵抗を一切しないのだ。

 それどころか敵意も闘気も綺麗さっぱり消えていた。

 流石の俺も、抵抗しない奴を組み伏せるのは躊躇われるので、しっかりと掴んでいるが、それ以上のことはしなかった。


 だが、




 「あ!?」



 そいつはポンッ、と小さな破裂女のようなものになったと思ったら、子狐に変化していた。

 するりと俺の手を抜けてクウコの方へと向かっていく。

 足元にちょこんと座り、そこから動く気配もない。

 使い魔なのだろうか。

 しかしそれにしてはどこか無機質な感じがする。



 「………!」



 あまりに正気のない様子だったので、俺はまじまじと見ていると、ふとある事に気がつきハッとした。

 これは主従関係があるとかそういうものではない事を理解したのだ。




 「そういう事か」


 「そういう事だ」

 



 クウコはクスクスと笑いながら、灰皿に煙管の灰を落とした。

 そのコツン、という音と共に、その子狐はクウコへと回帰していった。

 



 「まんまとしてやられたぜ、妖狐族の女王」


 「尾の事を見破るたァ、なかなか博識じゃアねェかヨ。ま、そういうこった。女王サマなんてガラじゃねェが、種としてそう生まれちまったモンは仕方ねェ。試すようなマネをして悪かった。どうしてもお前の強さを測ってみてェと思ったモンでね」


 「試す?」



 コクリと頷くと、クウコは席を立ち上がって降りて来た。

 立ち上がると、より一層艶かしく見える。

 口調こそ乱雑で粗雑だが、その立ち居振る舞いは、やはり美しいという言葉が相応しいと思った。

 来ている着物のような衣服がよく似合っている。

 いや、“ような” はいらないだろう。

 あれは多少手を加えているものの、ちゃんとした着物だ。

 これ程の情報屋ならば、異世界人達の知識をある程度持っていても不思議ではない。


 クウコは俺の一歩手前で、俺を見下ろしていた。

 やはり俺より少し背が高い。



 「試すってのはどういう事だ?」

 

 「どうって、そのままさね。オレァな、ヒジリケンという男を知ってみたかったのサ」



 「そいつは………俺が来るって思っていたっつーことか?」


 「ああ」


 「!」



 クウコはフッと笑った。



 

 「さすがにいつ来るかまではわからなかったがな。お前の言う通りだ。尾を放って試すのも、ここに来るのも想定していた。オレァ、お前が来るのを待ってたンだぜ?このオレが—————————四死王の一角であるこのオレ、クウコ・フォルノックスが」



 一瞬思考を停止させた。

 思わずその名をつぶやいていた。


 「四死王………………四死王ォ!?」




 四死王。

 それは、ミラトニアの三帝、ルーテンブルクの双戦天のような、独立した地位を持った国の食客。

 その力量は、いずれも国内トップ。 

 しかし妙だ。



 「でも、この国で亜人が登り詰めるのは………」


 「ああそうだ。でもオレはその座にいることが出来た。さて何故か………」



 この超階級社会で、我を貫くためには、相応の力がいる。

 それは腕力かもしれないし、権力かもしれない。

 こう言う国なら、まず後者が圧倒的に強いだろう。

 そんな強者のうち、俺は亜人でも分け隔てなく接する者を俺は知っている。




 「ウルクか………………!」


 「そうだ、ヒジリケン。だからオレはお前に情報をいくらでもやるつもりだ。あいつを助けるために動く男ならば、オレは協力を惜しまねェ。それに一切の損失はないんだ。何せこれから世話ンなるんだからな」






 「………………………………は?」

 











———————————————————————————












 「よう、姫。久しぶりだな」



 宿に戻ってウルクに合わせると、ウルクは嬉しそうに飛び出したのだった。

 


 「クウコだー!!」



 ウルクはバフッとクウコに抱きついた。

 安心したような表情を浮かべている。



 「クウコさん………まさか協力してくれるとは………もう国内に期待できる勢力は居ないと思っていたんだけどな………」


 「お、さすがオレ。やっぱりこいつらが護衛してたみてェだな」



 予め分かっていた様子で、再会にあまり大きなリアクションは見せなかった。



 「ケンは知っていたのか?」


 「うんにゃ、完全なる偶然だ。情報屋を探して情報を買おうと思ったら、まさか仲間になるなんてな。ははは、儲けたな」


 「儲けたなんてものじゃないよ、ケン。これはすごい事なんだよ!」



 レトは興奮した様子でそう言った。

 確かに、貴重な存在ではあると思う。

 戦力としても情報力としても上等。

 なかなか心強い。



 「そうだ、早速で悪いが、お前らのツレを全員集めてくれねェかい? 伝えたい事がある」



 クウコはキリッと表情を変えてそう言う。 

 


 「伝えたい事?」



 バルドがそう聞き返すと、何やら改まった様子で、クウコは言った。




 「ああ………………………今オレが、一番に伝えるべき情報だ」




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