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第51話


 俺たちは引き返した。


 「………」


 ニールは黙ったままだった。

 怒ってるのだろうか?

 俺はニールの顔を見た。


 「………!」


 違う。

 こいつは理解している。

 俺がなにかを企んでるという事を理解している。


 「………助かる」


 歩く、歩く、歩く。


 一見、彷徨っているように見える。

 だが、そうではない。


 俺は迷ったわけではない。

 道は完全に覚えているのだ。


 言うならば、これは餌だ。

 迷ってる冒険者を装って俺は()を釣ろうとしている。


 「頼むぜ………」


 上手く釣られてくれよ、と願う。







 わざと通ったことのないルートを通って道を覚えつつ、一度通った道も通る。

 だいたいこのダンジョンの構造は把握した。


 部屋は全部で40。

 その間に分かれ道が100以上存在する。

 分かれ道も長かったり短かったりするのでメモを取りながら進むのはかなり辛い。

 その上、闇に乗じてモンスターが現れる。

 しかし、モンスター自体は大したことないので、じっくり攻略すれば、別にどうと言う事はない。

 普通は、だ。


 「ケンくん。これはどういう基準で進んでるんですか?」


 「さぁな。適当だ適当」


 「はぁ………」


 もちろん嘘だ。

 このスピードで進めばそりゃあ適当だと思われても仕方ない。

 ちなみにここは今入口から3つ目の穴だ。

 今までそれらしい物は見えてこなかった。

 だが、そろそろ見える頃だ。


 「!」


 そしてついに発見する。


 「やっと見つけた………」


 俺は誰にも聞こえないようにそう呟いた。

 今までなぜ俺がこんなことをしていたのかと言うと、それは蛇と戦った時に遡る。




 

 あそこは行き止まりだった。

 あの時触れた壁には、微かだが違和感を感じた。

 そこで俺は考えた。


 もしこれが意図的に設置された物だとするとどうなる?


 まずは誘導。

 偽の壁で罠まで誘導するという案。

 これは歩いても歩いても罠らしい物は無かったので無しだ。

 次に隠蔽。

 あの先にある何かを隠そうとしている。

 これも無しだ。

 今までの冒険者がそれに全く気がつかないというのはおかしい。

 この先に何かあるのなら進んでそれを取っているはずだ。


 最後はこれだ。

 ただ遊んでいるだけ。

 そして、おそらくこれが答えだ。


 俺はこの壁を見て確信した。


 この壁には本来穴があった。

 それも唯一入口に繋がってる穴だ。

 ここを通らないと入口には戻れない。


 ここで先程の行き止まりの壁の話に戻るが、あれに感じた違和感は、音だ。


 風の音が僅かにしたのだ。


 これは聞こえていても注意していなければかなり分かりづらい。

 風の音ということは出口だ。

 つまり出さないようにしている。

 



 そして、ここからは少し賭けだ。



 「行くぞ」


 「はい」


 歩く。

 どんどん奥に進んで行く。

 向こうが解除するのはおそらく俺たちが向こうに着く頃。

 

 魔法具が無い。

 遠隔操作には特殊な魔法具が必要だがそれがない。

 基本どのダンジョンでも破壊不能な細工をして置いてあるが、それが無い。

 つまり手動。

 きっと出てくるはずだ。



 そして、空間に足を踏み入れた次の瞬間、



 「………今だァッ!!」


 俺はクインテットブーストを発動させる。


 轟ッ


 と、地面が揺れた。



 「うわぁ!」


 「これは………!」



 そして、一瞬でさっきの場所に戻る。



 「居た!」



 壁の魔法を引っ込める子供がいた。

 あれだ。

 あれは間違いなくこのダンジョンの何かだ。

 無関係ではない。


 俺はそいつの肩をしっかり掴んだ。

 

 「よーし捕まえ………た?」


 目の前に見える、小学生ほどの幼女。

 肩ほどまでの髪を雑に結んだ茶髪の幼女は、目をぱちくりさせながらこちらを見ていた。

 

 そして、ここでハッとした幼女は八重歯を剥き出しにして口を横一杯に開いたと思うと、どんどん声を貯め始めた。




 「ぃ………ぎ」



 これはマズイ。

 エネルギーチャージ中だ。

 急いで鼓膜を!



 その瞬間、幼女の叫び声がダンジョン中に響き渡った。









———————————————————————————









 「なるほど、迷ったのはわざとだと」


 「はい」


 「この子を見つけるためにと」


 「はい」


 「では何故襲ったのですか?」


 「違あああう!!」


 俺は地面に正座させられている。

 どうやら俺が幼女を襲ったと思われているらしい。

 解せぬ。


 「リンフィアさん、これは大いなる誤解です。あなたは何か勘違いしてらっしゃる」


 「黙らっしゃい!」


 「えぇぇぇぇ!!!」


 何故だ。

 怒るようなキャラじゃないはずだ、お前は。


 「おまえ! ビックリしたぞ!」


 膝を叩いて幼女は俺に訴えかける。


 「うっせぇ、クソガキ!」


 「うハハ!!」


 イラっとする。

 ものすごいイラっとする。

 俺は深呼吸して精神を落ち着けた。

 間違いなくこいつは子供ではない。

 見た目こそ子供だが、中身は間違いなく成人と同じだ。

 しかし、正体が掴めない。


 「ハァ………それで? 捕まえたのはいいが、お前は一体なんなんだ?」


 「ん? ワタシか? ワタシはな、ここのダンジョンマスターなのだ!」


 茶髪の幼女は声高らかに叫ぶ。

 ビンゴだ。

 まさか好都合よく事が運ぶとは。


 「へぇ、ダンジョンマスターですか。年はいくつなのですか?」


 「じゅういっかげつだ」


 なるほど、そこそこ新設ダンジョンだと言うわけか。


 「じゅ、11ヶ月………ケンくんはそんな子に………」


 「待てええええええ! おかしいだろおおお!!!」


 つい叫ぶ俺。


 「しんぱいするな。ワタシはこうみえて、ちのうだけはおとななのだ。こんなナリでカタコトでもおとななのだ」


 幼女はカタコトでそう言う。

 そして、予想だにしないことを言った。


 「あらためてじこしょうかいだ。わたしのなまえはラビ。このダンジョンのマスターにして、せかいでゆいいつのせいちょうするダンジョンのせきにんしゃだ」


 

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