第508話
「グルルウウウアアアアアッッッ!!!!」
木々を震わせる異形の咆哮がケン達に降りかかる。
ドロドロと身が腐って、骨が剥き出しになったドラゴンが現れた。
しかし、ゾンビドラゴンよりひと回り大きく、溶けかけた肉が蠢いている。
アシッドドラゴンだ。
「野生のモンスターにしてはなかなか強ェな。周囲に溜まってる魔力を食いまくったか?」
「グゥアアアアアアア—————————」
ピンッ、と。
糸の切れる音と共にアシッドドラゴンの首が落ちる。
取り出した剣をアイテムボックスに収め、アシッドドラゴンの体へと近づいていく。
「魔石回収っと」
俺は消えたアシッドドラゴンのいた場所に落ちていた魔石をアイテムボックスに収集した。
「お前、古代魔法は使わないんだな。あちらの方が強いだろ?」
「逆に聞くが、お前は全部が全部大剣抜いて戦うか?」
「おお、なるほどな」
「いちいち使ってたら燃費悪ィだろ。基本俺は詠唱魔法で戦うし、そっちの方が使い勝手がいい。だがまぁ………」
「ギャギャギャッッ!!」
「!?」
完全に油断していたウルクの背中目掛けて、物凄く早い何かが迫っていた。
「姫ッッ!!」
バルドが盾になろうとする。
しかし、敵モンスターは恐らくSランク。
あいつじゃ対処できない上、俺も飛び出すには距離が遠い。
なので、
「[弾けろ]」
「「!?」」
空気が震えてバルドとウルクが両外に吹き飛んだ。
俺は使用と同時に飛び出していたので、そのモンスターの第二撃の前に、手刀で首を刎ねる。
「ギャッ—————————」
「フゥッ………………!!」
宙を舞う首を粉々にし、それと同時に現れた魔石を掴み取る。
「油断禁物」
「いてっ」
俺はウルクにデコピンをした。
ちょっとくらい注意してると思ったから放っておいたが、やっぱりこいつはまだまだだった。
「まぁ、こう言う場合は全然使う。詠唱でも対処できないことがあったら使うさ」
「なるほどな」
ニールは納得したように頷いた。
「つかウルク。街は近いんだよな?」
「うん、もうそこを抜けたらすぐ見えるよー」
「………そう言うことか」
ミラトニアの場合、基本SランクやAランクがゴロゴロ現れるような場所には討伐隊が派遣される。
それが普通だ。
そうしなければ、街はが滅びるからである。
だが、この様子だと………
「どっちか、だな」
俺はそう呟いて、街の方へと向かって行った。
これでようやく森ともお別れだ。
ここはもう森の出口だったので、やっと広い景色を目にできる。
そして、
「やっと、お目にかかれたな。ルナラージャ」
広がる広大な大地。
ミラトニアと似ているようで、やはりどこか違う。
映えている植物や、通りかかる人々の服装、見つけようと思えばいくらでも見つけられそうな違いがある。
他国に来たな、とここでも改めて思った。
少しみんなの表情が強張る。
こうなった今、リンフィア達魔族やレイ、ルイのルーテンブルク人ははともかく、俺を含め他の奴にとってここは敵国だ。
一層気を引き締めなければならない。
「………ん?」
チラッと左を見ると、ウルクの言う通り、そこには街があった。
ほんの少しだが、人の声も聞こえる。
どうやら滅んではいないらしい。
「あれか? ウルク」
「うん。あれがヤーフェル。とりあえず最初の街、かな」
ふと空を見ると、日が落ちようとしていた。
俺たちはとりあえず街へ向かうことにした。
————————
「………………これは」
街はちゃんとしていた。
建物や人の様子、生活水準は、ミラトニアの地方の街よりむしろ高かった。
それどころか、貴族でも住んでいそうな様子だったのだ。
「言ったでしょー。ここはまだ全然なんだよ。国境沿いが汚かったら他国にどんな印象を持たれるかわからないしねー………………ホントに嫌になる」
ウルクは一瞬目を伏せる
そして振り返ってこう言った。
「とりあえず、拠点を探さない? 宿は取っておこーよ。お金は人間界の中なら共通だから問題なく泊まれると思うよー」
「………そうだな。だが、一つ。全員気をつけておいて欲しい事がある」
この街は国境沿い。
それは敵も承知の上だ。
つまり、
「多分、この街には転移者がいる」
「「「!!」」」
ここ最も警戒すべき警戒ポイントに置かない手はないだろう。
「それは私も思ったな」
「私もだ、兄さん」
レイとルイも同意した。
「極力魔法を解かない方がいいな。部屋もケン、私、兄さん、トカゲ女、先生がそれぞれの連中で組んだ方がいいだろう」
「そうだな………じゃあ、レイとミレアとウルク、流とルイ、ニールとリフィとラビ、ファルグと護衛2人がいいだろう。部屋が足りなかったらその時考える」
男女比が同じで良かった。
これで丁度いい。
「あれ………ケンくんは?」
「俺? 俺は寝る気ねーからいいや」
俺はゲキマズ栄養ドリンクを取り出す。
見た瞬間、リンフィア、ニール、ラビが嫌な顔をした。
冒険者時代から愛用している一種の魔法具だ。
睡眠と同じ効果を与えるが、飲むと2分間ほど激痛が流れる。
しかもマズい。
「あー」
俺はまとめて二本飲んだ。
ラビがぎゃああああああと悲鳴を上げていた。
思い出しているのだろう。
「っぷは…………………ッ、!………ふぃー」
めちゃくちゃ痛い。
が、我慢は全然できる。
今俺の額にはくっきりと青筋が浮かんでいる事だろう。
「聖………お前とうとう」
「犯罪者を見る目で見ンじゃねーよ。これは痛みの副作用がある代わりに体に一切の害悪を及ばさないように作ってある。中毒性どころか誰もが二度と使いたくなくなる設計だ」
「ししょうあたまおかしい!」
「うるせークソガキ。俺は街を散策してーンだよ」
俺はとりあえず帯剣すると、そのまま街の方を向いた。
「そんじゃ、いくぞ」
明らかに痛そうな俺の額を見て、微妙な顔をしたみんなはそのままついてくるのであった。




