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第506話



 「久々の馬車だな」



 ガタガタと揺れる馬車。

 しかし付加魔法のおかげで揺れはほぼなく、かなり快適な馬車旅だ。



 「へぇ? 学院長の馬車に何度か乗った事あるが、こいつはちょいと驚いたねェ。あれよりも揺れがちいさい」



 そう言ったのは、同じ馬車に乗っているファルグだった。

 今回俺たちのお目付役という名目で着いた教師。

 戦闘能力はおそらく三帝クラスの超人だが、詳しい事はまだよくわからない。



 「そういや、ケン。今まではろくすっぽ関わることはなかったのに、何故俺が同じ馬車なんだ? 王女でも誘えばよかったろうに」


 「言ったろ。俺は関与してねー。ま、丁度いいっちゃ丁度いいがな」


 「?」


 「アンタとは少しばかり話してみたかったんだよ」


 「止めとけケン。この男と会話しても不毛なだけだぞ」



 と、はっきり言うニール。

 相変わらず遠慮がない。



 「はっはっは。相変わらず毒舌は治っていないな、ニール。また模擬戦でもするかィ? 未だ無敗だがね」


 「!?」



 ニール相手に無敗か。

 やはりかなりやるな。

 通りでニールの腕が上がっていたわけだ。



 「ほらな。むかつくだろ、この男」


 「ああ。完全に遊ばれてるもんな」



 俺がニールの拳をひょいと避けながらファルグに尋ねた。



 「アンタ、目的があって付いて来てンだろ」


 「あたり。まぁ、用事と言ってもホントにちょっとした用事だけどな」


 「ほー………」










———————————————————————————










 「おお………ここがこっきょうのかべか」



 ラビが首をこれでもかと言うほど上げて、その巨大な壁を見上げていた。

 国を守るようにそびえ立つその壁。

 隣国へと繋がる門があるのは数カ所のみ。

 今いるのは、その中の一つである都市。

 マルボスト——————の、郊外だった。



 「ここにかくしつうろでもあるのか? ししょう」


 「お、わかってんな、ラビ。ファリス曰くそうらしいぜ」


 「おー」



 現在ミラトニアは、フィリアの逃亡による事実上の婚約破棄と、この間のマギアーナ侵攻によって、ルナラージャ・ルーテンブルク共に国交が断絶している。

 そのため、正規ルートである門は通過できない。

 と言うわけで、ファリスが用意した裏ルートからの不法入国と言う事になったのだ。



 「………まさか不法入国する日が来るなんて思っても見なかったですね………父様に知られたらなんと言われるか………」


 「ケケケ、怖気付いたかよ優等生」


 「ふふふ、まさか。自分のした選択です。後悔などしませんよ」



 ミレアはいつもより少し子供じみた雰囲気でそう言った。

 まぁ、実際子供なんだからこっちの方がいいとはおもうがな。



 それにしても、



 「えらく深ェ森だな、オイ。まさに樹海って感じだ。地面もぐしゃぐしゃだ」



 見渡す限り森。

 その中にある狭い道に馬車を止めていた。

 その道もほぼ整備されおらず、森の中同様足場がぐっちゃぐちゃになっていた。

 馬車を出た俺たちは、しばらく準備をする。



 「これだけ深い森に作ったと言うことは、それなりに重要な取引で使っていたのだろうな」



 ニールにしては珍しくちゃんとした事を言っている。



 「ああ。本来はファリスが向こうの連中との密輸入に使っていたらしい。中にはかなり珍しいもんもあったんだと。だが、今回の騒動以降取引は断絶。封鎖されて通れ無くされてるらしい」



 俺は久々に立ち上がって身体を動かしながらそう説明した。

 すると、リンフィアが首を傾げてこう言った。



 「? でも、それなら通れないんじゃないですか?」


 「確かにそうだな。だがリフィ。ここにはもう一つ通路があるんだ。ファリスのみが知る()()()秘密の通路。そして、ここにはそこを通って来た奴がいる」



 俺が振り返ると、準備を済ませたウルク達がそこに立っていた。



 「道案内するよー」


 「おう………………っ、待て!」



 俺は全員を静止させた。

 距離は遠い。

 だが、この匂いは………


 

 「わかるか、お前ら」



 全員コクリと頷く。

 少しばかり慣れていないミレアと、戦闘経験や、そう言った経験の浅いラビはピンと来ていなかった。

 だが、なんとなく雰囲気で察していたらしい。



 「敵………ですか」


 「いや、わからねぇ。だが、何かがいて、戦闘があったのは間違いない」



 俺は、ほんの微かに風に乗って漂ってくるこの匂いをよく知っている。



 「血の匂いだ」


 「!」



 ラビとミレアは言われてみればと言う顔をした。



 「しかも………これって門がある方角だよ」


 「「「—————————!!」」」



 ウルクの一言で場が凍りつく。

 もしかしたら、唯一のルートが潰されているかもしれないのだ。



 「チッ、序盤から結構波乱の展開じゃねェか」



 俺たちは武器を携た。

 警戒はしつつ、なるべく静かに行かねばならない。

 周囲の警戒を消えることができる流にまかせつつ、俺たちはそこへ向かった。



 しかし







————————









 「なっ………………」




 そこに着くと、地面に隠し階段があった。

 その秘密の出入り口とやらは開放された形跡があり、開くとそこから異臭が立ち込めていた。

 どうやら中で戦闘があったらしい。

 



 「まさか………こちらに密入国者が!?」



 ミレアがそう言った。

 確かにそれも考えられる。

 だが、




 「いや、違う。見てみろ」



 俺は入り口の奥を指さした。

 地面に泥がついているのが見える。

 



 「外から入ってる。こっちから侵入したんだろうぜ」



 俺は中に入った。



 「あ、ケンくん!?」


 「心配すんな、ちょっと見てくるだけだ」



 階段を降りる。 

 かなり深めに作られている。

 防音も兼ねているのだろう。

 俺は顔をしかめながら、階段を降り切った。



 「っと………」



 

 俺はリンフィアにそう言って奥へ進んでいく。

 一段と匂いが増している。

 密閉しているのか、かなりの異臭だ。

 すると、点滅している灯が見え、その下に死体がいくつか横たわっているのが見えた。

 


 「チッ、ダメだったか」



 侵入者の温情か、かなり狙って急所をやられている。

 痛みはほぼなかっただろう。

 しかし、数名ほどは抵抗したのか、心臓をかっ裂かれてそれが外に出ていた。

 血だまりができている。



 「………」



 刃渡りの短い武器による攻撃。

 それに、壁にこびりついた焦げ。


 

 「………………」




 俺は一度戻って、全員と合流した。

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