第502話
色々あって魔獣演武祭も中止になり、しばらく張られっぱなしのテントに、集合することになった。
そこにはリンフィアをはじめとするいつもの面々と、クラスメイト達、ウルクの護衛達、イシュラ、アルシュラ、レイ、ルイ、流、そして教師が数名いた。
「よく集まってくれた」
中央に立ったファリスはそう始めた。
まだ誰もこれから何を話すのかわからない。
人によってはそれが何の面子なのかもわかっていないだろう。
だが、何か重要な話があるという事は、皆が察していた。
「今回の魔獣演武祭だが、とある連中の介入により、継続が難しいと判断したため、打ち切る事になった。わかっているだろうが、外でガルディウスの騎士団にわざわざ警備を頼む程だ」
外には、ガイウス達がまだいた。
ちなみにガリウスだが、少しいやそうな顔をしつつも、以前よりは大分マシになっていた。
そしてファリスは続ける。
「そして、今回はこれに関わることを知っているお前達を呼んだわけだ」
ファリスがチラッと俺を見た途端、大半の者がこれが何の集まりなのか察していた。
「そこにいるケンは、この間王都にて召喚された勇者の一員だったことは知っているだろう。今回襲って来たのは、ルナラージャの勇者だ」
「「「!?」」」
やはりざわつき始める。
そりゃそうだ。
何せ勇者は、
「勇者は、魔族討伐のための英雄では無かったのですか!?」
と、教師から。
「その辺りはまだよくわかっていない。ケンはどうなんだ?」
「あー、それなぁ、俺もよくわかんねーんだよな。最初は確かに魔族討伐ってのが名目だったわけなんだが、これがどうも違うらしい。まぁ、俺は魔族と敵対する気もねーからどーでもいいが、他国を攻撃するってんなら話は別なんでな。いろいろ考えたが、あの様子だと完全に魔族討伐とは違う目的で呼ばれてるだろうぜ」
そもそも最初から違和感はあったが、特に最近は酷い。
もはや丸無視なのだ。
「まぁ、わかんねーから今は無視でいいだろ」
俺がそういうと、ファリスはコクリと頷いた。
「結局勇者の詳しい内情についてはわからない。だが、国王は流石にこれは容認できないと考え、対策を練る事にしたらしい。そしてその依頼が三帝と巨大ギルドのマスターに届いたのだ」
ファリスはアイテムボックスから一枚の紙を取り出す。
チラッと見えるのは文字だ。
いわゆる勅書………と、思ったが、こいつらは独立した地位。
命令というよりは正しく依頼だろう。
「『三帝 ファリスマギアーナに告ぐ。先の事件により発覚したが、他国の侵略による国家の危機が迫っている。余がそなたへ依頼するのは、ルナラージャへの偵察部隊の編成だ』」
「「「!?」」」
思わぬ内容に、再びざわめき始める。
フィリアはそれを尻目に続けた。
「『可能な限り情報を広めないようにしつつ、人材はそちらから選出を頼みたい。そして、おそらくそちらに居るであろうヒジリ ケンは確実に編成して欲しい。編成するのであれば、しばらく放っておくつもりだ』」
「………!」
国王はわざわざ俺にだけわかるようにそれを書いたのだろう。
むかつくが、ここは乗っておく他ない。
まぁ、元々行く予定だから良いのだが。
そこから先は別にどうでもいい内容だったので聞き流した。
手紙を読み終えると、なんとも言えない空気があたりを包んだ。
とは言え、田舎者のようにわかりやすく王様がどうだとか騒ぐ奴もいないのだが。
「との事だ。希望者がいるか?」
と、言ったので、俺は真っ先に名乗り出た。
「ま、当然だな」
「ならもちろん私も」
「それならば当然私もお供する」
「おー、ひさしぶりのししょうとのたびだ!」
と、いつものメンバー。
きっとエルもバシャバシャと暴れていることだろう。
すると、次は
「まぁ、私の場合………ねー?」
「俺も似たようなものだね。まぁ、目的は別のところだけど」
と、ウルクと流が言った。
こいつらに関しては絶対だろう。
道案内も必要だし、俺の近くが一番安全だ。
それに護衛もいるし。
この辺りは、誰も何も言う者はいなかった。
だが、ここで知らなかった者がざわめき始める。
「私たち兄弟も行こう」
「うむ」
と、レイ・ルイの兄弟もついて行くと聞き、まず最初に反応したのは、
「え!?」
ミレアだった。
そう、ミレアはレイ達の素性を知らないのだ。
「レイ、貴方………」
「会長、実は私、この国の生まれではないのです」
「!」
「私はここでもルナラージャでもなく、ルーテンブルクで生まれました。半分はミラトニア人ですが、黙っていた事は申し訳なく思っています。今、ルナラージャこそ注意すべき国のように思われていますが、実際はルーテンブルクも今はこの国にとって危険、つまりこの人間界での情勢が大きく動こうとしているのです。故に私は、ケンと共に行かなければなりません」
レイは相変わらず、ミレアには丁寧にそう言った。
メンツはこれで決まりだろう。
元々のメンバーにプラスで6人。
まぁ、偵察部隊っぽい人数ではある。
行けてもせいぜい10人。
これくらいなら十分だ。
と、思っていると、
「あの、学院長。お尋ねしても?」
ミレアはがそう言った。
「なんだ」
ファリスは心なしか、機嫌がよさそうに聞き返した。
そこ返しに対して、今度はミレアはこう尋ねたのだった。
「………まるっきりの部外者の私も、行く事は出来るのでしょうか?」
「「「!?」」」
このセリフには、みんなが驚いた。
フ、と笑うファリス。
そしてこう言った。
「ああ、可能だ………だが、これは遊びでもなんでもない。危険はつきもので、当然死ぬリスクもある。それでも行くのか?」
ファリスはミレアの目の前まで行ってそれを問う。
ファリスの言った通り、この旅は危険だ。
生半可な覚悟では、ついていけないだろう。
だが、ミレアは承知の上かのようにこう言うのであった。
「はい。当然覚悟の上です。私の命は、責任を持って私自身で守ります」
ミレアがそういうと、ファリスはふいっとこちらをみた。
俺に判断を委ねるつもりらしい。
そうか。
「なら、かまわねーだろ。正直、こいつはこっちにいても十分やってくれると思うしな」
特に異論がある様子もなかった。
これにて、ミレアの同行が決定する。
「よろしくな」
「はい。よろしくお願いします」
ミレアがそうしていると、心配そうにミレアを見る視線をちらほらと感じた。
うちのクラスの連中だ。
「ミレア、本当に行っちゃうの?」
シャルティールが心配そうにそう尋ねる。
それに重ねるように、ドレイルとアルフィーナも声をかけていた。
「か、会長さん。怖くは、ないんです、か?」
「いきなりの他国。相当なプレッシャーだと思うが………」
「心配してくださってありがとうございます。でも、問題はありません。私が無計画で無茶する事はないでしょう?」
と、話していると、俺も俺でクラスの連中と話していた。
「流石に俺はパスダネ。正直言って、この前の連中レベルの敵相手だと、サポートが苦手な俺だと足を引っ張りそうダネ。この前助けてもらったのに申し訳ないダネ」
「まぁ、無理してくる必要ねーよ。でも、ガリウスが立候補しねーのは意外だったな」
「俺も兄貴の足は引っ張りたくねぇッスよ。な、ウォルス」
「すまない。恩があるのに返せなくて」
ボルコも、ガリウスも、ウォルスも、義理堅い奴らだ。
俺としても、そんなに何人も巻き込みたくなかったからこれで。よかった
その後しばらくして、ミレアが何と無く偵察組の方へ行くのを見ると、ファリスはサクサクと進めた。
「よし、そうか。他の者は居ないな? なら、私からも1人推薦しておこう………行ってこい、ファルグ」
「フゥー………」
徐に立ち上がるファルグ。
そしてこちらを向いた。
「てな訳だ。よろしく頼むわ、ケン」
「おう。俺としても、アンタは気になってたし、ちょうといいや」
俺とファルグはニッと笑うと、再びお互いの場所へ戻っていった。
「よし、これで偵察部隊のメンバーは決まった。“ケン、リンフィア、ニール、ラビ、ウルク、ルクス、レイ、ルイ、ミレア、ファルグ” 以上を偵察部隊のメンバーとする。恐らく、ここをすぐに発つことになるだろう。各々3日以内に片付けるべき問題は片付けておけ」
10人連れの国を跨ぐ旅。
これはまた大変そうだと思うと同時に、何か嫌な予感がしていたのだった。




