第50話
「思ったより暗いな」
俺たちは今ダンジョン内部にいる。
中には人工の明かりはなく、薄っすらとした光だけが辺りを照らしているため周りはほとんど見えない。
「あれ? ケンくんこの暗闇で見えるんですか?」
「よーく見える」
暗視スキルがあるからな。
レベルは最大。
一切明かりがなくても全然余裕で見える。
「いよいよ人間かどうか疑わしいですね」
「何つー言い草だ」
俺はリンフィアの吐いた毒にツッコミつつ進む。
「今のところはただの洞窟だな」
当然まだ鉱石は見当たらない。
そろそろ進もうと正面を向くと分かれ道があった。
ぶっちゃけ面倒くさい。
「うわぁ、この段階で分かれ道か。なあ、右と左どっちがいい?」
「右がいいです」
「右だ」
基本的にリンフィアの意見を聞いていればニールの意見は必要ない。
だって同じだから。
俺たちは右に進むことにした。
「今から全部のルートを調べるから注意して周りを見ろよ。それとリフィ、モンスターには注意しとけ」
「気をつけます」
俺は頷いて前を向いた。
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罠とかはなさそうだ。
不自然な魔力の変動は感じない。
「それにしても何もないな」
「はい、ここまで何も無いのも不自然です。あ、分かれ道」
再び分岐点。
今度は3本道。
立ち止まって考える。
次はどっちに進むべきか。
やはりこれだろう。
「次は右だ」
これは最初から決めてあった案の一つだ。
「なんでですか?」
「言ったろ? 隅々まで調べるって。端から見ていくつもりだ」
手当たり次第全ての道を潰す予定だ。
もう一つ、引き返して左のほうの道に行くという選択肢もあったがそれは結構めんどくさいのでしなかった。
俺は右の道に入った。
やはりそこもただの洞窟のようだ。
めぼしいものはない。
「………お」
この道は行き止まりだった。
「もう行き止まりか。早いな………ん?」
その瞬間、
ズズッ
なにかの影が動いた。
「………ようやくお出ましだな」
モンスターが現れた。
「キシャアアア!!!」
見た目は黒い蛇だ。
大きさは人間ほど。
それが3匹。
「おお、キモっ」
このモンスターはサーペントという巨大毒ヘビだ。
歯や唾液に毒が含まれている。
俺は木刀を構えた。
「リフィ、サポート」
この程度なら瞬殺できるが、リンフィアに経験を積ますためにあえて手を抜く。
「はい」
「リンフィア様、来ますよ」
ニールも構えた。
蛇は今にも飛びかかろうとしている。
「『光よ、闇を照らせ。フラッシュ』」
ニールは蛇の近くにフラッシュを飛ばす。
フラッシュは目潰しの魔法でもある。
間近で光ったら敵の視力を一定時間奪える。
「シュルアアアア!!」
どうやら通じたようだ。
だが、これは不正解だ。
「ケンくん、今です!」
「甘いぜ、リフィ」
「え?」
サーペントは俺に向かって正確に毒を吐いた。
スピードは大したことはない。
俺は横に体を捻って躱した。
「!? なんで!」
サーペントは一気に距離を詰め俺に飛びかかる。
「ヘビに目潰しは効かねーよ。ピット器官っていうのがあるからな。熱で物を見分けられるんだ」
ピット器官とはヘビについてるくぼみの器官のことだ。
サーモグラフィーはこれを参考にされたらしい。
「正解はこれだ」
俺は炎五級魔法のファイアカッターを発動する。
「!? キシャアアアアアアアア!!!!」
ヘビがバタバタし始めた。
「ヘビ系のモンスターは熱に弱い。ピット器官が大変なことになるからな。威力を下げて広範囲に使えるこの魔法が正解だ」
俺はサクッと首を切って魔石を拾う。
「ちなみに高ランクのヘビ系のモンスターは、ピット器官が壊れそうになると別の器官に切り替えるから、この方法は大して有効じゃないけどな」
豆知識を披露した俺だった。
「よーし、次だ次」
俺はチラッと後ろを向いた。
「………」
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俺たちは来た道を戻って今度は真ん中の道に入る。
「今度は続きがありそうですね」
「ああ」
そうして進んだ先に再び分かれ道。
下手全体に分かれ道がある。
その数全部で5つ。
「今度も右ですか?」
「………いや、今度はこれだ」
俺は出て来た場所から左前にある穴を指した。
「でもさっき………」
「気が変わった。いくぞ、一度一気に調べる」
俺は穴に入った。
そこからざーッと適当に走り回ってダンジョンを見回った。
「ケンくん、大丈夫なんですか?」
流石に不審に思ったのかリンフィアが聞いて来た。
俺はこう返した。
「いや、大丈夫じゃないな」
さらにこう付け足す。
「迷いそうだ」
声を大にしてこう言った。
「え!? さっき大丈夫って言ってたじゃないですか!」
「いやぁ、悪りぃ悪りぃ、一旦戻ろうぜ」
暗闇が見えない設定から見える設定に変更しました。




