第499話
ガヤガヤと騒がしいので、勇者達はなんの騒ぎかな、と気になっていた。
「どうしたんだろう?」
「さぁ? でも騎士の人たちがかなり怖い顔してるからな何かあったのかも………」
「襲撃ってわけでもないよね」
「そうだな。そんな雰囲気じゃなさそうだ」
騎士達の焦りがなんと無く伝わってくる。
そしてそのまま何と無く聞いていると、こんな声が聞こえてきた。
フィリア王女が誘拐された、と。
「「「!?」」」
それを聞いた瞬間、誰もが驚いた。
そして納得した。
それならばこの騒動は起こって然るべきだろう。
「嘘………王女様が!?」
「え………は??」
「そんな!?」
勇者達の間にもざわめきが広がる。
そして、それを起爆剤に、ざわめきをもっと広げる話題が飛び込んできた。
それは、こういうものだったのだ。
なお、誘拐したのは、勇者シシジマ レン及び、剣天 ラクレーである、と。
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「何故だ………何故だ、レンッッ!!」
ルドルフは歯を食いしばって、絞り出すようにそう言った。
彼にとってもこの騒動は不可解なものであろう。
よりによってあの蓮が誘拐なのだから。
「………」
国王からは既に命令を受けている。
その命令はこうだった。
“王女は確実に生きて救出し、レン及びラクレーは可能な限り生け捕りだが、王女の命を最優先とし、これが叶わない場合は即時処分せよ”
そうあったものの、正直かなり厳しい条件だった。
そもそも、蓮とラクレー相手に勝てる者など、現時点でこの城には殆どいない。
強い騎士はほんの数名で、それでも全員ラクレーよりは弱い。
自分も最早蓮には勝てないだろう。
それでどこまでやれるかは甚だ疑問であった。
しかし、これは王命。
王の忠臣として、なんとしても救出はせねばと思っていた。
その矢先だった。
「————————————ぁ」
「「!」」
追いかけられていた、蓮達と対峙する事になる。
蓮と目が合う。
やはり信じられない。
あの目は、悪人の眼じゃない。
これは、何かを守ろうと戦う、自分もよく知った眼だった。
だからこそ、ルドルフはこう言ったのだ。
「何故だ………何故ッ、お前程の者がッッ!!」
「………」
蓮はほんの少し申し訳なさそうに目を伏せるが、次の瞬間、剣を構えていた。
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ほんの少し、 裏切ったような気分となり、居た堪れない気になった。
しかし、蓮はこの行動は間違っていないと反芻し、剣を交える覚悟を決めた。
「教官」
「………」
そして蓮は、飛び出した。
「—————————ここを通ります」
「………………………………っ!?」
ガッッキン!! と、剣が交わる。
やはりルドルフの剣は重く、力強い。
実戦となると尚更だった。
「ズァアアアアアアッッッ!!!」
「!」
ルドルフは剣を弾く。
そのまま、次の攻撃へと入る。
滑らかに、洗練された一撃が、蓮を襲う。
すると蓮は真正面ではなく、少し体をずらし、剣をいなして威力を軽減。
続く二撃目、三撃も受け流し、躱す。
その瞬間、間合いの内へと入った。
だが、
「!?」
蓮はそれをすんでのところで躱した。
ルドルフの剣が形を変えている。
あれは、魔法武具。
武芸百般のルドルフは自在に種類を変える魔法具を持っているのだ。
「………」
なかなか厄介である。
この魔法具は突然間合いを変え、テンポを変える。
そしてその変化は時に戦況を変える。
やり辛い相手だ。
だが、
「ここで終わらせる」
ゆらり、と蓮の体がブレる。
蓮は目の前で驚いているルドルフにはお構いなしに、それを使い————————————
「………………!?」
一瞬で倒した。
本当に一瞬だ。
ルドルフは、自分が何をされたのかもわかっていなかった。
「何、を………」
「奥の手ですよ、教官………………もう行きますね」
蓮はそのまま通って行こうする。
だが、ふと立ち止まってルドルフの前でしゃがみ込んだ。
「………………教官。琴葉ちゃん達を頼みます。この婚約は何かがおかしいですから」
「!?」
蓮はそれだけ言うと、そのままラクレーと共に進んでいった。
遠くで何かを聞きたそうに見ているルドルフ。
教えようにも時間がないのだが、彼なら気付いてくれると信じた蓮は、本当に一言しか残さなかった。
「レン、そろそろ外。一気に抜けよう」
「はいッ!」
と、その時。
「どこへ行く、逆賊供」
「「!!」」
蓮達は、立ちはだかった男を見て、目を見開く。
その周囲にいる錚々たる騎士をも霞ませるこの存在感。
やはり違うなと感じた。
「国王………陛下………」
「アルスカーク………」
国王と数名の騎士団長。
蓮にとっては格上の相手が、壁となった。




