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第498話


 琴葉は語る。

 あの日、3人の運命が間違いなく変わった日のこと。

 それは奇しくも、蓮が回想したものと同じ出来事であった。



 「愛菜ちゃんが死んじゃった日、私すごく後悔したの。もっと何か出来なかったか、とか、本当は無理にでも病院に入れて貰えるように言ったらよかったんじゃないか、とかね」


 「………」



 そう、同じだった。

 ケンも、蓮も、そして琴葉も。

 あの日のことをずっと後悔している。

 本当ならただの中学生に重い病気を治すことなんで出来ないのだろう。

 それでも3人が抱いている感情は間違いなく後悔であった。

 分不相応な後悔だった。


 蓮も琴葉も、愛菜と瓜二つの少女であるフィリアを通して、何かを見ている。


 そして今回は、何もできないわけじゃないし、もう何も出来ない子供でもない。

 力を得た。

 だから、



 「だから、蓮くんは後悔しないようにするべきだし、私もそうして欲しい。王女様を助けて欲しいの」


 「………」



 蓮はグッと拳を握り込む。

 背中を押されたような気がした。


 これは、彼女を守るための行為。

 しかしこれは、自己満足この上ない行為。

 それであってこれは、過去の後悔を、無駄にしないための行為だった。



 「琴葉ちゃん」


 「はい」


 「ありがとう」


 「にしし! それでいいんだよ、蓮くん。いってらっしゃい!」



 拳を差し出す。

 トン、とぶつけると、蓮は振り返ってそのまま進んでいった。





 「………頑張ってね。私もここで、頑張るから」












———————————————————————————












 ユースル達は、王が用意した客室にいた。

 高級そうな茶菓子と紅茶が用意されているが、手をつけた様子もなかった。



 「ああユースル様。ああ、ああ、ユースル様!」

 

 「聞こえているよ、ココナ」



 ユースル達は、悠々と紅茶を楽しんでいるわけではなかった。

 虎々奈が耳に手を当てている。

 耳を澄ませて、本来聞こえないはずの声を聞いているのだ。



 「動きました。獅子島 蓮くんはともかく、もう1人の子ですが、さぁどうしますか? 人質にしますか?殺しますか?殺しますか??」


 「そう息を荒立てなくても大丈夫だよ。私たちの目的を忘れたかい?」


 「! そうでした………申し訳ございませんユースル様が婚約なぞせずに済んでホッとしたあまり支離滅裂なことを言ってしまいましたので私にどうか直々に罰を与えて貰えると………………はっ! 申し訳ございません」



 ユースルは苦笑する。

 だが、彼女の能力はユースルにとってかなり有用だった。




 固有スキル【超見聞】


 視覚聴覚を文字通り強化し、視聴覚を乗っ取ったり、強化したり、見えないものを見たり聞いたりなど、感覚を強化するものだった。


 さらに、彼女たちルーテンブルクの転移者は、魔法ではなく、特殊な呪印を得ている。




 無を有にする魔法とは違い、有をさらに大きなものへ昇華させる性質をもつ呪印は、彼女たちの固有スキルを更に強化する。

 が、今回は使うことはない。



 盗み聞きには、これで十分だった。


 

 「ふふふ。あの少年実にいい目をしていた。こちらに欲しい程だよ」


 「私としては男なら問題ないです、そう男なら。如何なさいます?」


 「いや、大丈夫だよ。姉さんがいる手前、好き勝手するのは難しいからね」


 「そうですか」



 不要とわかった途端に、虎々奈は興味を無くした。

 本当にユースル以外どうでもいいらしい。



 「では引き続き聞いてますか?」


 「そうだな………うん、この辺りでやめにしておこう」


 「わかりました」



 フッと能力を解除する。

 虎々奈はすぐに作業をやめた。



 ユースルの目的は何か。

 それは誰も知らない。

 そのユースルは、不敵な笑みを浮かべ、まだ動くことはなかった。

 そう、まだ。












———————————————————————————












 思えば、王族でいて良かったことなんてなかったかもしれない。

 フィリアは心底そう思っていた。



 「………」



 

 絵に描いたようなわかりやすい政略結婚。

 王族に生まれた以上、あり得なくはないと思っていたが、それでもやはりショックなものはショックであった。

 “オウゾク”というシステムに、形容し難い悍ましさを覚えた。


 王族だったら普通のことの筈なのに、自分も今までそう思っていた筈なのに、どうしてかこんなにも辛い。



 「………っ………ぅっ」



 嗚咽が漏れそうになる。

 フィリアは口を押さえて、感情が溢れ出てしまうのをなんとか防ごうとした。

 そうしつつも、果たして意味はあるのかと疑問に思う。

 もう手遅れな気がした。


 王子が来てからずっと、気丈に振る舞おうとしたが無理だった。

 とっくに限界を超えている。

 ついさっき蓮の前でも取り乱してしまったのだ。


 

 いっそ、我慢せずに泣いた方が楽になるのかもしれない。

 だってもう、これで終わりなのだから。



 そう思った時だった。





 「フィリア様、お迎えにあがりました。開けてください」




 蓮の声に心臓が跳ね上がる。

 蓮というのもあるが、もうその時がきたのか、と身構えた。

 自分には泣く事もできないのだろうか。

 そんな事を思いながら、でも、もしかしたらと期待する自分を笑いながら扉を開く—————————





 「さぁ、フィリア様」



 「え?」




 蓮はフィリアの手を握った。

 そして、こう言ったのだった。




 「行きましょう。ここから出て、自由になりましょう!」





 ああ——————と。

 自分の分かりやすさが馬鹿馬鹿しく感じる。

 今の今まで悲壮な顔をして、悲劇のヒロインのような事を思っていたのに、こんなにも分かりやすく、心が踊っているのを感じた。


 フィリアも手を握り返し、蓮にこう返した。

 


 「はい………私を、連れて行って下さい!」


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