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第497話


 カツ、カツ、と足音が聞こえる。

 ラクレーは、今まで下手に人前で王子に会うまいと、部屋に篭っていた。

 それなりに時間が経ったので、外に出たわけだが、どうも覚えのある足音と気配がした。



 「………」


 「………」



 今対面しているのは、人前ではないからだ。

 これならなんの問題もない。

 それは兄弟だから、とかそんな理由ではなく、ただ単に、人前であって状況がややこしくなるのを避けるためだったのだ。



 「やぁ、姉さん。10年ぶり」


 「………ユースル」



 この2人は、正真正銘王族である父と、王族であり正室だった母から生まれた唯一の兄弟だ。

 母はすでに死んでおり、正室は変わっているが、2人にはもうどうでもよかった。



 「まさか、あそこまで手を焼いていたこの国の三帝が姉さんだったなんてね」


 「あたしを連れ出してくれた人たちのおかげで強くなれた。彼女達の守りたい国ならあたしも守るだけ」


 「へぇ。あの姉さんがそんな事言うなんてね。どう? そのお仲間とやらとこちらに来ないか? どうせ同盟国だ」


 「断る。あんな国は2度とごめん。それに、あたしはあの国に戻らずにいる事に()()()()()



 ラクレーはそう言う。

 妙な言い回しにユースルは首を傾げた。



 「さよなら、ユースル」


 「ああ、さよなら。姉さん」




 2人とも気がついていたのだろうか。

 これが、決定的な決別の瞬間であった事を。



 だが少なくとも、今のラクレーは、











———————————————————————————










 「うん。わかってる」



 ラクレーはそう答えた。

 尋ねた方はというと、あまりにあっさりした返事に戸惑うくらいだった。



 「はっきりしろって促したのはあたし。だから文句なんて言わない。それに、()()()()選んだのはあたしだ。いずれこうなる事は責任を負ってからずっとわかってた事。だから、そんな顔しちゃだめだ、レン」




 背を向けたラクレーにそう言われた相手は、蓮だった。

 蓮は決意を告げに来たのだ。

 迷いはない。

 後悔は先に立たないし、優柔不断さが己も人も殺すという事を、よく知っている。


 それでも、いうべき相手に告げるべき事を告げずに去るような不義を、蓮は良しとしなかった。



 

 「師匠………」


 「大丈夫。もう決めた」



 ラクレーは振り返る。

 振り返ったラクレーは顔を上げていた蓮と目を合わせた。

 互いの目を見て、そしてそこでお互いの意思を確認する。


 そして、蓮は頷いてこう言った。



 「わかりました。俺も、彼女を守るためならなんだってするつもりです。だから俺は、ありがたく協力を受けます」


 「うんそれでいい。それでこそあたしの弟子だ」



 決行はすぐだ。

 明日にはフィリアは連れて行かれる。

 蓮は装備を整え、ラクレーも剣を持って、再度目的を口に出し、再確認した。






 「今から俺達は、この城からフィリア様を連れ出し——————」


 「二カ国の王家と敵対する」









———————————————————————————









 「おや」



 トモは珍しく、王城の方に興味を示した。



 「これはこれは………やっぱり大胆だなぁ。まぁ、知ってか知らでかはともかく、選択肢としては間違っちゃいない」



 そう、この婚約はおかしい。

 少し場面を見返しただけでも、トモは不自然な点をいくつも見つけたのだ。



 「分岐点だしチェックしてみたけど、うん。やはり彼は鍵なんだろうね」



 ふわふわと浮かびながら、トモはそう言う。

 トモはこれでも、蓮を評価している。

 その証拠、とまでは言わないが、先程知ってか知らでかと言いつつも、蓮がある程度理解して動いている物だと確信めいたものは最初から持っていたのだ。



 「ふふふ………流石、それでこそ“君”だ」



 気まぐれはここで終わり、トモは元いた場所へ戻る。

 知恵の神が見ていたなど、蓮は知る由もなかっただろう。









———————————————————————————











 「どの道、王女は連れ出すつもりだった」



 ラクレーは準備中そう言い出したのだ。

 一瞬キョトンとする蓮。



 「え?」


 「まぁ、それは詳しく話す。今はそれより………」


 「はい、確かめます」



 扉の奥から気配がした。

 殺気はないので、警戒する必要はないが、念のため蓮はゆっくりと外に出た。

 するとそこには、



 「な………」




 部屋を出て一歩。

 立っていたのは意外な人物だった。



 「琴葉ちゃん、なんで………」


 「わ、合ってたんだ」



 部屋を出ると、仁王立ちで待ってる琴葉がいた。

 蓮は驚いているが、ラクレーは無表情なまま何も言わない。



 「にしし、私とどれくらい長い付き合いと思ってんの? 蓮くん。幼馴染みなんだから、蓮くんとケンちゃんの考えてる事くらいならちょっとはわかるよ」



 琴葉はにしし、と悪戯っぽく笑うと、スッと真面目な表情になった。

 すると、



 「ラクレー先生」



 琴葉はペコリと頭を下げてこう言ったのだ。



 「私の親友と、友達をよろしくお願いします。どっちも大事なんです」


 「………うん、任せて」



 突然現れて、本当に何もかも悟っている琴葉に終始驚いている蓮。

 だが、納得はしていた。

 そう、琴葉は確かに馬鹿だが、よく人を見ていたし、真先に核心へとたどり着くことが得意だったのだ。



 「蓮くんは、出てく前の賢ちゃんみたいだったよ。出てくんでしょ?」


 「………ごめん」


 「何言ってんの。男の子なんだからしゃんとして! そんなんじゃ王女様守れないよ!」



 その一言にハッとする蓮。

 

 ここを出るのは、何も完全に私的な理由という訳でもない。

 ここまで唐突な訪問。

 王子直々の挨拶。

 そして現在の三竦みの国際関係を壊すようなこの婚約。

 その他もろもろを考えても、何かを焦っているような気がした。

 おそらく、ここで同盟関係を絶ってしまえばろくな事が起きないことはわかっている。

 だが、ここでフィリアを連れ出さねば、それこそ彼女がろくな目に合わないだろう。

 それに、今し方ラクレーが言っていた事もある。



 ………だが、蓮としては、私的な理由で動いているところが強かった。


 だから、それを琴葉も察していたのだ。

 それ故に、こんな話を始める。



 「ちょっとだけ、お別れする前に話してもいいかな?」



 琴葉は蓮にそう尋ねると、蓮はコクリと頷いたのだった。

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