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第494話


 これは数日前の出来事だった。



 

 「「「ハァッ!!」」」



 修練場で声が聞こえる。

 そこには勇者達と教官のルドルフ、そして新たに師範役として着いたラクレーがいた。



 「そこ、もっと剣を振るときは力を抜いて。力んだら斬れるものも斬れない」


 「はいっ!」



 一応メインは蓮なのだが、流石に常時マンツーマンというわけにもいかず、必ず空き時間があるので、その間は武術の指導を行なっている。



 「うん、そう。えらいえらい」



 いつもボーッとしていて基本戦いと食べ物の事を考えているが、何と無く近寄りやすいのか、生徒達には結構人気があった。


 それに結構教えるのがうまい。

 意外な事だが。


 しかし、流石に手に負えない者も少々。



 「せんせー!! 全然出来ないんですが」


 「コトハは才能ないからむり」


 「酷い!?」



 そう、キングオブ運動音痴の名をほしいままにする琴葉は、何度教えても戦闘が上達する事はなかった。



 「魔法の才能はピカイチなんだから魔法の修行するべき」


 「でもちょっとくらいは接近戦できた方がいいってルドルフ先生が言ってましたよ?」


 「うん。普通はそう。でも、あたしがみた感じだと、多分琴葉は魔法一本に絞った方がいい。それでどうにかなる」


 「はっ! 確かに! (?)」



 琴葉は謎の納得の仕方をしていた。

 とりあえず、言われた通りにする事にした。



 「じゃあ、そうしてみます」


 「それがいい」



 琴葉は魔法騎士の教官のところへ向かう。

 が、その前に。



 「あ、そーだ」


 「?」


 「蓮くんの様子はどうですか? ()()()()()特別メニューだって聞きましたけど」



 そう尋ねられたラクレーは、静かに満足そうな笑みを浮かべると、蓮の方を見てこう言った。



 「かなりいい。期待できる」


 「ししし! そうですか!」



 それだけ聞くと、琴葉はやる気いっぱいの様子で魔法の訓練に向かった。







 その蓮のいる方だが、もの凄い戦闘音と、闘気を放っており、周囲の注目を集めていた。



 「カァァァァアアアアアアアアアッッッ!!」


 「ズァァァアアアアアア!!!!」



 騎士、それも以前まで訓練のとき戦っていた末端の騎士ではなく、隊長クラスを相手取っていた。



 「………」



 一瞬で装備を変える。

 ケンから換装魔法を教えて貰っていたので、それを覚えてたのだ。


 蓮は装備を一新していた。

 特殊な繊維で編まれた袴を着ている。

 魔法と斬撃に強く、何より軽い。

 今日は新装備の調整も兼ねていたらしい

 



 「フゥーーッ………………」




 腰に下げたのは、刀の魔法具。

 国お抱えの刀匠に作らせた、特別な刀を二本。

 目を閉じた蓮は刀に手を置き、構えた。



 (呼吸を、捉える)



 蓮がラクレーから教わったのは、剣技ではない。

 ラクレーに師事してからは、とにかく実戦とステータス向上、そして対人戦の………殺し合いのイロハを学んだ。

 呼吸を読む。

 元々剣道をやっていた蓮は、その類の技術は持っていた。

 それを更に極める。


 すると、




 (飛んで、回る)




 蓮はイメージ通りに体を運ぶ。

 無駄な動きを一切排除し、2人の第一撃を躱した。

 直後、



 「フッッッ!!」


 「「!!」」



 攻撃を放つ瞬間、虚を突いて後の先を取る。

 ほんの一瞬見せた隙を逃さず、




 「—————————ッッッッ!!!」





 突く。




 「ハァァァアアアアアアアアッッッ!!!」



 武器を弾き、相手が逃れる前に、首元に剣を据える。

 騎士達は蓮の眼を睨みつけるが、それを押し潰すような圧を纏った蓮の視線に、戦意を砕かれた。



 試験だったので、蓮も気合が入っていたらしい。

 それは周囲に完全に漏れていた。




 「ぅ、わ………………す………っげ」

 



 誰かが途切れ途切れでそう溢した。

 蓮の力は、圧倒的に勇者の中でも突出していた。

 実力は既にSランク冒険者を超えている。



 「はぁ………もう敵わんとはな」


 「流石にそこまで強くなるとはね」



 「いえいえ、みんな師匠のおかげですから。あっ、睨みつけてすみません」



 周囲の生徒達はみなホッとした。

 強くなっても蓮は蓮だと思ったからだろう。

 すると、



 「レーン!!」



 蓮は聞き覚えのある声がしたので、その方を向くと、優しげな笑みを浮かべた。



 「フィリア様」


 「レン、 大丈夫ですの? 怪我はないんですの??」


 「はい。俺は問題ありません」


 「王女殿下………婚約を控えておられるのですから、あまりレンに」


 「やですわ!! 私が愛するのは未来永劫、前世も来世もレンだけですわ!! どこぞの馬の骨(王子)なんて知りません!」



 フィリアは蓮にしがみついて離さなかった。


 注意をした騎士はやれやれと頭を抱えている。

 女子はきゃあきゃあとはしゃぐか、嫉妬し、蓮は困ったように頭をかいて苦笑していた。

 ただ、以前のように躱したり剥がしたりはしていない。


 蓮はこの風景に、たまらない落ち着きを感じている。

 あとはケンさえいれば、と思ってはいるが、それも抜きでこの生活に愛着が湧いていた。



 しかし、そんな風景は長く続かない。

 この度始まるのはそんな現実を突きつけ、そして足掻く物語だった。

 





 「王女殿下ッ!!」



 1人の騎士がやって来る。

 その切迫した様子を見たフィリアは一瞬で表情を変える。



 「何事ですの?」


 「王様がお呼びです………ルーテンブルクから使者が………それも、王子本人が!!」



 「「「!?」」」



 その知らせに、全員が驚愕した。

 わざわざ王子が来たという事にも驚いていたが、こんな突然にその時がやってきた事に、何より驚いた。




 「………………!!」



 その時、フィリアが静かに拳を握っていた事を、蓮だけが気づいていた。

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