第493話
始まりとは、唐突なものである。
誰が言うわけでもなく、誰が察するものでもない。
連続しない物語とは、不意に始まるものだ。
予言。
ケンにとっては、これも唐突で不意なものだっただろう。
なんせ関わる事など二度とないと思っていた父親が、まさかこの世界の住人で、それも予言なんてたいそうなものを遺していったのだから。
そしてその予言の時は、戦いの時は刻々と迫っていた。
ゆっくりと、そして確実に。
人々は動き、神々は眺め、世界は回る。
当たり前のことだが、これからケン達は一層それを強く感じることだろう。
そして、序章の幕が上がる。
それはケンの親友の物語。
これもまた、ケン達の運命を大きく左右する出来事であった。
それでは、開幕だ。
———————————————————————————
集合場所に向かうと、途中で人が立っていた。
よく知る奴だ。
「よう」
「ケンくん、どうでしたか?」
リンフィアは真先にそう尋ねた。
どう、というのは、恐らく春のことやイシュラの事だろう。
「イシュラは大丈夫そうだが、春はいなかった。まぁ、でも多分大丈夫だ」
「そうですか………」
リンフィアはほっとしていた。
ちなみに、リンフィアは一応イシュラとの面識はあったらしい。
俺を引き抜こうとした際に、俺と一緒に旅をしていたリンフィア達にも関心を持っていたのだとか。
それ以前に、クラスでも特に優秀なリンフィアは、両生徒会の面々と会う機会が多かったのだ。
両生徒会とも、トップ2が生徒会同士の争いをそこそこ気にしていないからだろう。
まぁ、ミレアは男が苦手なのでイシュラ達を避けていたし、イシュラはイシュラでこの祭りのために他クラスを、特に特科1組を敵と見なしていたが。
「つーか集めてどうするつもりなんだろうな」
「何でしょうね。それに集めた面々が、ケンくん中心なのも気になります」
確かに。
集まるメンバーは、俺たちのパーティと特科一組全員、それに教師数名と、後からイシュラとルイが来て、なぜか流も混ざっていた。
「マジに俺中心だな。しかも、大体が俺の事を詳しく知ってる奴」
「異世界から来たっていうのを知ってる人達………うーん、どんな話なんでしょうね」
リンフィアは下唇をグイッと挙げて難しそうな顔をする。
俺は思わずクスリと笑っていた。
そういえば、最近はゆっくり話すこともなかった気がする。
いろんな事が絶え間なく起こっていたからだ。
そして、更に別の出来事が始まる………いや、それはもう始まっていて、終わっていたのだ。
突然声をかけられる。
「その話だが、今からする話の後になりそうだ」
そう言ったのは、別の道から歩いてきたファリスだった。
また妙なことを言っている。
「よう、ファリス。まるで俺らに別の用があるみたいだな?」
「少なくとも、お前にはある。リンフィアは聞いても聞かなくてもいいが、おそらく知っている人物の話になると思う」
「知ってる人物ですか?」
俺たちは顔を見合わせた。
誰だろうか。
すると、そんなふわふわした雰囲気を一瞬で変えるようなトーンで、ファリスは続きを語り始めた。
「いいか? 心して聞け。言っておくがこれは決してただ事ではない。国を揺るがす“事件”だ」
「何?」
「国を………揺るがす!?」
想像以上に大事そうだ。
だが、基本的に国の一大事はどうでもよかった。
あの国王が死のうが殺されようがどうでもいいし、重役がクーデターを引き起こしてもそれは俺にとっては些事だ。
しかし、ファリスの口から放たれたそれは、正真正銘国の一大事であり、何よりそれは、俺を動揺させるに足る程の事件だったのだ。
「第三王女フィリア・ミラトニアが、ルーテンブルクの王子との婚約を拒否し、その後逃亡した。なお、逃走補助を行った者の中には——————異世界の勇者“シシジマ・レン” が含まれている」
「は————————————」
「は————————————」
俺とリンフィアは、同時に大声を上げていた。
「「はぁあああああッッ!?」」
———————————————————————————
「っシュン!!」
「あら、どうしましたの? レン」
「いや、ちょっと悪寒が………」
「まぁまぁ!! あ、そうですわ! 風邪を引いてはいけませんわ!! だから私の胸に」
「いえ、魔力を流したので体は温まりました」
フィリアはむぅっと膨れる。
以前とは違う、バッサリと短く切った髪をいじりながら不満そうな顔をしていた。
蓮は思わず苦笑してしまう。
「まぁ、悪寒もするでしょうね。何せ私達、今やお尋ね者なんですもの」
「あはは、そうですね。話題のネタとしては今は旬でしょう」
蓮は冗談を言いつつ、周囲への警戒は怠らない。
いつ追っ手が来るとも限らないのだ。
「でも、やっぱりこれでよかったと思えますわ」
「ええ、俺もそう思います」
ここは冥王山と呼ばれる恐怖の山。
現れるモンスターは、国内最強。
ともすれば魔界のモンスターよりも強いかもしれない。
そんな危険な場所が、蓮達が身を寄せた場所なのであった。
「さ、今日も鍛錬ですわね。いつも通り応援していますわ!」
「はい!」




