第491話
報告を受けた後、アルシュラはすぐには向かわずイシュラの意識がはっきりして体調の確認と簡単な検査が終わるのを待っていたらしい。
俺はその間に町中を探索。
一通り終わった後に医務室に向かった。
今俺は廊下の前に立っているが、入るべきか否か迷っている。
流石に邪魔するべきではないかな、と思っていたが、少し気になったので、様子だけ見る事にした。
ドアが空いていたのでそーっと入ってみる。
すると、
「兄さん!」
アルシュラはイシュラを見るや否や飛び出していき、そのままイシュラの胸に飛び込んだ。
この様子だと、ついさっきまで待っていたらしい。
待ちきれずにここで待っていたのであろう。
イシュラは突然声をかけられたので、驚いて一瞬ジタバタしていたが、声を聞き、その姿を目にしたことで、ピタリと動きを止めた。
恐る恐る名前を尋ねる。
「………………アルシュラ、なのか………?」
アルシュラはゆっくりと顔を上げると、目に涙を浮かべて頷いた。
「うん………そうだよ。あたしだよ! ただいま、兄さん!!」
目を合わせ、イシュラは再確認する。
間違いない。
間違えるわけがない。
ずっと顔も見れず、声も聞けず、どこにいるのかもあやふやだった妹だったが、それでも一瞬でわかった。
その瞬間、肩の荷が下りた様にイシュラは脱力した。
そして、
「………あ、ああ………ぅあああ、ああ、あああああああああああああっっ!!!」
今まで我慢していた感情を剥き出しにして、妹との再会を喜んでいた。
「………」
今は兄弟水入らずで居させてやるべきだろう。
俺はなるべく静かにその場を後にする事にした。
「………よかったな」
俺は部屋を出て、しばらく廊下で待っておく事にした。
………さて、イシュラが目覚めたのはよかったが、そう喜んでもいられない事態だった。
言われた通り、春は何処にもいなかったのだ。
俺も全力で街中を探したが、見つかる事はなかった。
「ッ………………」
これは間違いなく、トモが一枚噛んでいる。
そうでもしなければ、この短時間で俺から身を隠すなんて出来ないだろうし、仮に巫女が裏切ったなら何かアクションを起こすだろう。
「ンの野郎………」
何のために行動しているのか全く読めない。
直接問い詰めるか?
いや、どうせ躱されるだけだ。
あいつが関わっているという事は、逆にその分安心は出来る。
だが、何かあった時のために、対策くらいはしておくべきだろう。
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「よう、落ち着いたか? イシュラ」
俺は泣き止んだイシュラのところに行き、そう尋ねた。
「ああ、っ………す、まない……………………情けないところを見せてしまった」
「謝るこたねーさ。ずっと会えなかった家族と再会できてよかったな」
「ああ………!」
少し、ほんの少しだけ、俺はイシュラが羨ましくなった。
再会、出来たらどんなにいいことだろうか。
まぁ、俺は考えるだけ無駄なのだが。
「ところでアーシュ」
イシュラは妹を愛称でそう呼んだ。
「どうしたの、兄さん」
「お前、魔力の質が変わっていないか? 以前より強力になったような………」
とのことだ。
まぁ、神器と長期間一体化していたのならそれくらいは起こり得るだろう。
「ああ………うん。その事なんだけど、2人とも、少しいいかな?」
アルシュラは改まってそう言った。
「どうした?」
「………今、あたしの魔力のが変わったって言ったでしょ? それに関係する話なんだけど、聞いてほしいんだ。それに、ケンくん………またあの人に会うんだよね………アマサキ ミコトに」
「ああ、そのつもりだ」
会うつもりというよりは、俺たちはもう一度会わなくてはいけない。
それが、敵対した特異点の運命なのだ。
「だったら、聞いて欲しい」
イシュラも、アルシュラの真剣な雰囲気を感じて改まる。
これは重要そうだ。
そして、アルシュラはこう切り出した。
これは、天の柩の中での出来事だった、と
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「カル! アーノ!!」
どんどんと声が聞こえてなくなっていくクラスメイト。
アルシュラは突然起きた現象に戸惑うことしか出来なかった。
[ドウナッテル!?]
《マークモヤラレタゾ!!》
【攻撃ノ元ヲ急イデ探セ!!】
歪んだ世界がさらに歪む。
この世界はその人物の心を傾ける魂を映し出す。
しかしこれは………
「なんて黒い………」
ドス黒いモヤは、それが世界にあらわれると共にこの世界を蝕んだ。
感じるのは、ひたすらこちらに向けられた敵意と、何かに対する絶対的な信仰だ。
敵は未知な上、この世界への浸食能力を持っている。
それにわかる。
敵はあの時突然入り込んだ異物。
ケンとは違う方法で入り込んだ異物。
特異点、天崎命だ。
しかし、それでも戦わなければならない
アルシュラは誓ったのだ。
魔獣演武祭の始まる以前、天崎に入り込まれてからずっとそれを守ろうとしていた。
その誓いとは絶対に守ること。
仲間を、そして………彼女を守ることだった。




