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第487話



 以前調べた所、この学院の地下に不自然な空間が出来ていた。

 恐らくファリスが放棄した後に、何者かが掘ったのだと推測する。

 その結果、アルシュラ達が魂属性の研究をする事になったのだろう。


 俺は今そのほら穴に向かっていた。

 入り口は何重にも魔法で細工されていて、引っ掛けや罠もあったが、全て破壊されている。

 ここに人が入ったのはもはや明らかだった。

 今問題はあいつらが天崎と遭遇するかもしれないという事だ。





 「クソッ………………あいつら………!!」



 

 あの2人が天の柩の場所を知っている事はなんとなくわかっていた。

 それでも何もしなかったのは、あいつらは約束を守ると思っていたからだ。

 あいつらが柩に向かうはずは無い。

 そう思っていたのだ。

 

 では、天の柩を守ろうとしたのか?

 恐らく否だ。

 あいつらが向かっているとしたら、その理由は間違いなく律人たち()()()()

 あれは完全に奇襲。

 であれば知る由もないのだ。

 


 「とすると………やっぱ春なのか………?」



 あいつの目的は完全な破壊だ。

 あれは神器。

 向こうの手に渡れば、間違いなく転移者と天崎はより厄介になると春は知っている。

 

 イシュラは、天の柩から妹を救出しようとしている。

 それなら自分でやるよりは俺に任せた方が確実だと分かっている筈だ。





 「………いや、いまはどうでもいい」



 そう、そんな事を考えている場合ではない。

 今俺は危機的状況だ。

 選択を誤れば、俺はまた失ってしまう。



 「………」



 神威がより強くなっている。

 いよいよ近い。

 気を引き締める。

 

 俺は洞穴の最後の角を曲がった。

 そして、




 「やぁ、久しいでござるな、ケン殿」


 「天崎………………!!」





 そこには天崎 命の姿と、気を失って伏せていたイシュラと春の姿があった。




 「心配せずとも、無益な殺生は行わぬでござるよ。無益な殺生は、でござるが」


 「………………!」



 やはり人質に取られてしまった。

 これだけは避けたかった。



 「さて、ケン殿。拙者はこれを持って帰りたいのでざるが、生憎これを持っていると他の者のように帰る事が出来ぬのでござる。発している神威がかき消しているのでござろうな」


 「交換条件は手をだすなって所か?」



 すると天崎は、ニィッと口の端をあげてこう言った。



 「否、でござる」


 「何?」


 「何か勘違いしているやもしれんが、別に拙者はここで死んでも構わぬでござるよ? 恐らく普通に戦えば力量的にも能力的にも拙者は勝てぬ。だが、拙者は一度や2度死んでも平気な体だったらどうするでござるか?」





 そう、こいつは命の神のもつ特異点。

 それくらいの権能が得られるだろう。

 だが、それは百も承知だ。

 そしてあいつは俺がそれを知っていてなお逆らおうとしていると理解している筈だ。



 なのに………なんだあの余裕の表情は。




 「お前………何を隠してる………」


 「さぁ? ただ、拙者に手を出そうものならこの教師の命は確実にないと言っておこう」


 「!!」



 何をした?

 神威汚染か?

 いや、だったらこいつは巫女だ。

 耐性はある。

 かと言って魔法が使われている様子はない。

 ならばなんだ?

 間違いなく何かをしている。

 だとしたらなんだ?


 考える。

 魔法ではないし、他にも思い当たるものはない。

 ならばそこまで高度に隠せるのはやはり神威くらいしかない。



 「………………………………!」


 

 あった。

 そうか、あれだったのか。

 俺はてっきり魔族の仕業かと思っていたが、そうではなかったという事か。





 「テメェ………先んじて春に手ェ出してやがったな………………!」


 「ほぅ? まさか答えを導き出すとは、いやはや恐れ入ったでござる」



 ずっと考えていた。

 エビルモナーク………魔族側の特異点や他連中も春をさらおうとした様には見えなかった。

 何のアクションもなかったし、理由も思いつかなかった。

 少なくとも、春が巫女になったのは最近。

 なら、奴らは狙う理由がない。

 それでは向こうにも理由はないと一見思えるが、それがあったという事だろう。



 「お前、俺を知っていたな?」


 「正解。お主の事はよく知っておるよ、金髪のガーディアン殿?」



 冒険者時代の妙なあだ名。

 つまりこいつは俺の力を知っていて、弱みになる様な何かを探していたわけだ。



 「庭島 律人が言っていた。俺をプロファイリングした奴がいるんだろ? だから生徒か教師の中から人質を連れようと思って、たまたま春を狙い失敗した」


 「流石に確証は無かったのでござるよ。だから適当に魔族に任せたのだが、それがいけなかったようでござるな。まぁ、最低限の仕事はこなしていた故、喧嘩は良かった。それに運がいい」



 そう、これは本当に偶然だ。

 たまたま拐おうとした奴が春で、それを人質に出来ている。

 なら俺は相当な不運だ。



 「さァ、どうする? ケン殿。拙者はオーブを持って帰りたい。しかしお主が暴れるなら少年は助けられても教師は以前埋めて置いた神威が暴走して何かを起こす。巫女になった故、効果の程は自分でもわからぬが、ゆっくり根付いて育った故簡単には取れる事もなかろうよ」



 「………」




 確かに、この状況が俺にとって不利ではある。

 本当に運がない。

 そう、運がない。



 「ツイテねーな………」


 「理解したでござるか? ならば——————」



 俺はベッと舌を出してこう言った。




 「テメーがだよ、馬鹿が」



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