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第485話


 忽然と、王条は姿を消した。

 何処にもいない。

 奴の能力では無さそうだ。

 強制転移系の固有スキルだろう。

 だが、そんなことより、




 「おい、みんな!! 返事をしてくれよ!!」



 「ヵ、ああああ? ああああアああ、が???? あああああ」



 霧乃の暗示も完全に溶けてしまっていた。

 しかし、暗示云々関係なく、全員が言語を失って暴れまわっている。

 これはマズイ。

 先程の神威はおそらくこれに使われたのだ。



 「ひッ、聖!! なぁ、助けられないか!? 頼む………!」



 俺は5人を観察した。

 HPやMPに問題は見られない。

 だがこれは………これではもう………


 俺はギリッと奥歯を鳴らした。

 こんなのは、仲間にする仕打ちではない。

 なんという酷い悪夢だろうか。


 しかしそれでも、結果は一つだけだった。

 俺はゆっくりと口を開いて、流に宣告した。





 「………………駄目だ」


 「………………………は、え? 駄、目………………って………………なぁ………冗談、だよな?」


 「………」


 「駄目、だと………? ………おい、何を言ってんだよッッ!!! なァ!? なんでも出来るお前なら助けられるだろ!?」


 「もう駄目なんだよ」

 

 「嘘つくんじゃねェえッッ!! お前、こいつらが敵だからそんな事言って—————————」



 「………もう、死んでる」




 「………は?」





 表面を見る限り、こいつらはまだ生きているようにも見える。

 だが、中身はもう完全に神威に侵食されていた。

 記憶も人格も、その個人を個人たらしめるものはすべて消えてなくなっていた。



 「なんだよ………それ………だってまだ動いて…………………」


 「もうあれに魂はないただひたすらに破壊だけを求めて生き続ける化け物だ」



 少し、間を置く。

 こんなこと、言いたいわけじゃない。

 おかしな奴だし、何考えてるのかよくわからないようなやつだが、仲間だと思っている。

 気に食わないが、こいつが助けたいと思うのなら助けてやりたい。



 でも、俺に蘇らせられない。

 


 だから、もう。


 

 「こいつらを、楽にさせるべきだ」



 「っ………………!!」



 この動揺。

 やはり以前俺が霧乃を殺すと言った時とは明らかに態度が違う。


 ルナラージャ側の人間は、全員根っこのすこし上からおかしくなっている。

 つまり、染まり切ってない。 

 染まり切ってないが故に入る邪念が、見る者からすればより一層残虐に見えてしまう。

 本当に根っこから染まっているやつに対するものは恐怖だが、連中に流が抱いたのは嫌悪であり、それは自分に対しても抱いていた。

 こいつは特に、この世界に染まり切れなかったのだろう。

 だから、いざ目の前で友人が死にそうになったら、その死を踏み越える事が出来ないのだ。


 それは俺にもわかる。


 いつまでも家族の死を引き摺っては、後悔と自責に苛まれ、最後には親父へと怒りをむける。

 しょうもない男だ、俺は。


 故に、わかっていた。

 どうしようもないものはどうしようもない。

 受け入れなくても、事実は事実。

 結果というのは何処まで行っても結果なのだ。





 「可哀想だね、なーちゃん」




 絶望に打ちひしがれていた流にそう語りかけたのは、




 「あ、ねき………」



 流の双子の姉、楠 留華だった。

 突如、結界の上から入ってきたのだ。



 「チッ………安全圏で見物か? モノマネ女」


 「あれま? 分かっちゃった? こっちで挨拶するのは初めてだったね。はじめましてケンくん。なーちゃんがお世話になってまーす。姉の留華だよ。ま、るーの事はどうでも良いや」



 留華は流の方を向いた。

 流はどうしたら良いのか分かっていないような虚な目でぼーっと姉を見つめている。

 そんな状態の弟にはお構いなしに、留華は言った。



 「残念だけど、きりのん達はホントに死んだよ」


 「!!」


 「完全に神威を入れすぎちゃったね。メメや律人くん達とは明らかに違うのはわかるよね?」



 これは俺に言ったのだろう。

 ああそうだ。

 完全にモノが違う。

 これは汚染なんてものではない、これはもう変異と呼べる段階まで来ていた。



 「そろそろ、鑑定で見てもわかるんじゃない?」


 「………」



 ゆっくりと振り返る流。

 マズイ、そろそろ姿が変わる。

 それも、律人やメメの比ではない程に酷く、醜く。

 



 「おい、流止せッッ!!」



 


 「ああ——————鑑定するまでもないね」






 流は、それを目にした。

 何も、出てこない。

 納得したくなかったものが、まるで今まで持っていた感情を潰して殺すように上から覆いかぶさる。

 








 「———————————————」






 眼を見開く。

 彼らにもし記憶があったら、この姿を何というだろうか。

 ああ、考えたくもない。

 それに、考えずともわかる。


 いやだ。

 こんな醜い姿で、居させたくない。



 流は、とうとう小さな声でケンにこう言った。





 「………………頼む、殺して、やってくれ」




 「………分かった」




 飛ぶ。

 ほんの一瞬、目を瞑った。

 俺がやれるのは、せめてこの姿が、この死体という事実が、流の目に入らないようにしてやることくらいだった。





 「………」





 斬る。

 斬る。

 斬る、斬る、斬る。



 肉を裂く音すらもわからないように速く、細かく斬り刻む。

 そしてチリとなったその死体を、完全に消し去ったのだった。

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