第482話
——————曰く、古代に於いて魔法とは、魔族がその余りある欲を収めるべく生み出したものである。
彼の者らが抱くは強欲。
それを収めるべく、その力で全てを創造する。
また彼の者らが抱くは嫉妬。
それを収めるべく、その力で其の者へと化す。
また彼の者らが抱くは傲慢。
それを収めるべく、その力で万物を従える。
また彼の者らが抱くは怠惰。
それを収めるべく、その力で勤勉たる霊により才を得る。
また彼の者らが抱くは色欲。
それを収めるべく、その力で人々を魅了する。
また彼の者らが抱くは暴食。
それを収めるべく、その力で敵する力を喰らう。
そして、彼の者らが抱くは憤怒。
それを収めるべく、その力で感情を暴走させる。
それは力である。
それは欲である。
それは罪である。
生きとしいける全ての者が持つ因果であり、生涯背負い続ける十字架である。
そこには善も悪もない。
あらゆる行動は此方より出づ。
ヒトとは欲を満たすべく生きる“物”であり、欲を失った人間は、即ち死す。
魔の者らよ、貪欲であれ。
魔の者らよ、生に執着せよ。
それは即ち力となりて己が欲を満たし、そして新たな欲を生む。
終わりはなく、全てはこれより始まり、これに終わる。
そして、この輪廻より脱する者。
これこそ即ち——————
これは、とある魔族が遠い昔に記した古代魔法についての書物である。
リンフィアがこれを、というかこの部分を覚えていたので、なんとなく俺も覚えた。
なるほど、確かにそうだ。
この力はこれに当てはまっている。
「っと………………流石に集中だな。集中集中………」
「「「………………」」」
転移者5名。
少しばかり油断はできない。
霧乃の時のように、条件次第では俺に作用することも全然可能なのだ。
まぁ、あのバケモノ以外にSSSはいないだろうが。
するとそのうちの1人が固有スキルを発動させた。
「【分裂】」 「[捻れろ]」
ボンッッ!! という音とともに転移者達が25人に分裂した。
分裂
この固有スキルは、自分を含めて指定した5名以内の者を、最大で5人分裂させる固有スキル。
全てが実態を持ち、本体と同じ思考を持って動くうえ、分身と本体の位置がシャフルされるので、元いた位置以外に本体がいる事もある。
翻弄には持ってこいの固有スキルだ。
しかし、
「「「!?」」」
「ぶんれ」と言った直後、被せるように言霊を発動。
【分裂】という固有スキルそのものが捻れ、操作不可の分身を複数生成してしまう。
「なんッ………………!?」
悲鳴と雄叫び声が飛び交う。
乱戦状態だ。
すると、すぐさま分身を消してしまいそうだったので、さらに別の古代魔法を使った。
「{感情の波は荒れ狂う}」
俺のその声を聞くと、この場にいた20人が全員少し不快そうな顔をした。
【超感情】
これは他人の感情を肥大化させる魔法だ。
本来ならば、意志のない者に感情を持たせるための魔法。
例えば平常心ならそのまま平常心のままなのだが、怒りの感情が強ければそのままその怒りの比率が大きくなる。
元の感情が大きければ大きい程、使用後は強く感情が表に出て、暴走する。
この魔法は光魔法と違い、そうそう防ぐ事は出来ない。
一度使えば同じ相手にはしばらく使えないのだが、効けばかなり大きい。
そして今回、明かに感情を昂らせていた男が、術中にかかった。
「う、わ、ああああああああああああ!!!!!」
先程【分離】を使った男は、焦りが肥大化し、一瞬完全に我を失ってしまい、継続的にパニックになった。
「!? 何してる!! 早く分身を消——————」
敵の1人が絶叫している間に気がついた。
俺が消えた事に。
「! 上だッッ!!!」
1人を囲んで、魔法騎士が5人集まる。
すると、魔法を使うのではなく、ただひたすら魔力を練って中央の1人にそれを供給していた。
なるほど、あれか。
中央の男は大声で叫びながらそれを放った。
「喰らえェエエッッッ!!!!」
シン………と鎮まる。
周囲の魔力を喰らわれたのだ。
中央の男により魔法ではない物理的な攻撃へと変換される。
そして、
ズォオオオッッッッッ!!
と、白い光の柱のようなものが俺に向かって一直線に進んでくる。
【大砲】
周囲の魔力を集め、それを最大効率に使った熱線を放つ。
これは魔法ではないので、魔法防御が通じないのが最も厄介だろう。
やり方次第では、食らったことのないような物理攻撃となる。
今回供給した5人分の魔力は凄まじかったらしく、その熱線の威力は魔法の比ではなかった。
「フツーにはじき返してもいいが、此処はあえて古代魔法で行こうか」
じっと見る。
構造を解析………完了。
これは模倣。
原典には及ばないが、これは元々弱い者が強い者を妬み、ああ在りたいと願ったために出来たモノだ。
故に、魔力量は原典より少なくていい。
「〈妬み、嫉む者よ、現れろ〉」
ズォオオッッッッ!
【憧憬術式】
憧れより出づる妬みより生まれた魔法。
少しだけ小さい熱線が出現する。
そう、これは所詮真似事。
相殺はできない。
だが………………抗うことができる。
それは熱線の下へ潜り込み、大きな熱線を俺から逸らした。
「そん、な…………」
さらに追い討ちだ。
俺はおさらいする様に、古代魔法を次々に使った。
「[曲がれ]」
熱線が外に出る前に真下に向ける。
それは一直線に敵へと向かっていく。
「「「!!?」」」
さらに俺は感情操作を発動。
敵の焦りは加速。
ダメ押しで先程発動させた展開術式をもう一つ展開。
熱線の加速。
「あ、あ………あ————————————」
その瞬間だった。
ズズズズズズズズズズズッ………………………!!
這い寄るような音。
なるほど、そうか。
まだ、奴がいた。
「fyうふs夫djしq婦fdkskd腕試ぢs………………」
熱線をそれが受け止めた。
これまでに大きい大樹、それは正に世界樹と呼ぶにふさわしかった。




