第476話
「【マグネティクス】、【レールガン】!!」
砕いた会場の板をレールガンで弾き、マグネティクスで加速する。
十発程放たれたそれを、律人は植物で弾き落とす。
その一瞬生まれる死角を逃さず、氷魔法を頭上から飛ばすが、律人もそう簡単にはやられない。
「舐めるなァア!!」
植物の鎧は頭に傘を作り、それらを防ぐと、水を吸収して自分の魔力に変換、水圧が桁違いの水鉄砲をリンフィアに放った。
「ははははは!!!!」
しかし、この状態のリンフィアもかなり凄まじい。
魔力の流れで水を返してくるのを予想していたリンフィアは、既に魔法を準備していた。
「【絶対零度】」
向かってくる水鉄砲を一瞬で凍らせる。
この魔法は水と相性が良く、水と繋がっているものもまとめて、しかも比較的早く凍らせられるのだ。
「くッッッ………!!」
一瞬で手元まで凍る律人。
リンフィアは周囲に幾つかの炎魔法を提げて正面にいる隙だらけの律人へ直進。
だが、
「はははは………」
「!!」
動けなくなっている律人は、一瞬だけ鎧を解除、手を抜いた後に再び鎧を装着し、正面からリンフィアが放った炎を集めた植物を盾にして防ぐ。
「甘い甘い甘い甘い甘いィィイイイ!!!」
「さぁ………それはどうでしょうかね?」
リンフィアがそう呟くと、溶けた氷が更に蠢いている事に気がつく。
魔法は連鎖する。
術式をそれ様に組んでおけば、最初に魔法で生み出したものを触媒に、そのまま魔法を撃てるのだ。
固まっていた氷から、水の刃が放たれた。
「ぐ、ッ、ぎ………ガッッッ!!」
咄嗟に寄越した植物では防ぎ切れずに、攻撃が貫通する。
肉を裂いたところから鮮血が飛び散った。
一瞬鎧を解除していたせいか、大きくダメージとなった。
「い、ッッたいなぁ………あはは、刃を受けたのは、いつぶりだったかな?」
律人が人差し指を動かすと、何かがリンフィアの足元で蠢いた。
リンフィアが気づいた頃にはすでに遅く、
「なっ!?」
「はははは!! 油断は禁物だよ」
「なる、ほどッッ………!!」
足をばたつかすが、簡単には解けそうもない。
外からの攻撃が必要だが、
「待つわけが無いですよね………」
「正解ッッッ!!」
律人が近づいてくる。
誰もがここで一撃を受ける、と思っていた。
だが、
「ハァアアアアアアッッッ!!」
拳が放たれた、一撃目を交わしたリンフィアに即植物が2,3撃目を放った時だった。
律人の目が大きく見開かれる。
「なっ………馬鹿な!」
リンフィアはその攻撃を翼の機動力と尻尾をうまく使い、躱す。
3,4撃目と同時に魔法で足の拘束を解き、そのまま後方へ下がる。
「やっぱり、そうですか」
リンフィアは小さく律人を睨みつけながらそう言った。
「あなたたち異世界人についてわかった事があります」
「………へぇ、何かな?」
「あなたたちは確かに強いです。殊戦闘に於いて、あなたたちの右に出る人はあまりいないと思います。ですが、それはあなたたちが固有スキルを持っているが故です」
「………」
律人は、少し不満そうな顔でリンフィアを睨むが、リンフィアはそれを無視して続ける。
「魔法………ケンくん曰く、これは魔族が生み出したと言われていますが、それ以前に起源となる神が生み出したそうです。だから、神様から貰った力を持ったあなた達異世界人は魔法への親和性が高く他の人間よりも比較的魔法に対する成長速度が速いです」
「君は一体、何が言いたいんだい?」
そして、リンフィアははっきりとこう言った。
「あなたたちは、決定的に戦闘能力が欠けています」
「!!」
「武器を扱う能力、戦術を考える能力、生き残る能力。能力押しで戦っていては身につかないものです。そしてあなたも」
リンフィアが指を指すと、これまでに無いほど表情を変えた律人。
もう次にリンフィアが何をいうのかわかっているらしい。
「その鎧、意志がありますね?」
「ッッッ!!」
リンフィアは、良くも悪くも相手と真正面から向き合う。
故に感じ取った違和感と言えるだろう。
そしてそれは、律人の沈黙により正しい事が証明されてしまった。
「自動で主人を守る、みたいな感じですか? 大雑把な攻撃以外あなたは一度も自分の身体を使うことは無かったです。全て植物でした」
「………………」
律人は少し俯く。
何かを思い出す様に、それもとびきり嫌な記憶を思い出す様に視線が泳ぎ、汗を滴らせる。
「あなたのその残虐性は、過去に何かあったからでしょう。なら、」
「だっ、まれぇぇぇええええッッッ!!!」
その怒号が響きわたると、会場全体がシン、と鎮まり帰った。
唖然とする。
余裕ぶった面の皮が剥げ落ちたその瞬間を見てしまったからだ。
向かってくるその顔には、自己保身と劣等感で埋め尽くされていた。
「………あなたが私を傷つけるのは仕方ないことだと割り切ります。過去に負った傷が人を荒ませる事はよくわかります。それに何より、敵ならば傷つけ、傷つけられるのは仕方ないことですから。でも、あなたの矛先が彼やみんなに向くのであれば、私は黙っておくつもりはありません」
強い意志がそこにはあった。
強くなった事による慢心が全く無いかと言われれば嘘になるだろう。
この力を得ていなければ、こんな事を言えるはずもない。
だがそれは、例え弱くても仲間を護れるのならば護りたいと願うその意志は、紛れもない本物なのだ。
そしてしばらく沈黙が訪れ、律人がくくっ、と喉の奥を鳴らした。
「は………はは、ははははははは!! 最高だよ!! ぼくを楽しませるだけじゃなくここまで怒らせてくれるなんてねェッッ!!」
誰にも知られていないその過去。
彼にも辛い過去はあった。
だが、それが他人を傷つけていいという理由のはならない。
「もう、時間がないです。私も、あなたも」
キューブの効果が切ようとしている。
律人も、神威が底をつこうとしていた。
「これが最後です」
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す………」
リンフィアは魔力を今までで最も激しく練り上げ、戦闘態勢につく。
律人も植物を激しく蠢かせ、防御を棄てた形態となる。
両者はほぼ同時に飛び出し、そしてついにぶつかった。




