第475話
「あいつ………………!!」
俺は一瞬、殺気を完全に散らしてそれを見た。
リンフィアの持っているキューブ。
あれは俺が作った覚醒弾と同じ構造だった。
少し大きいのは、作りが甘いからだろうが、それにしてもよくぞあれを作ったと思う。
魔法工作は習ったものだろう。
おそらく一度使って何と無く構造を知ったのだろう。
なんという才能か。
「流石は魔王だな………………」
魔王は、魔法と付くものに関してあらゆる才能を持っているはずだった。
だから最初にあいつを見た時のことを考えておかしいと思ったが、やはりその血は今も健在だと言うことだ。
「ニール、もしかしたらあいつ、勝てるかもしれないぞ」
「本当か!?」
ニールが俺の胸ぐらを掴んでそう尋ねて来た。
「お前も以前見たリフィの変身だ。あのアイテムはあれを起こす」
「!! 確かに、あれならばリンフィア様は………」
「しかも、リフィはあの時よりもずっと成長してやがる。もしかすると、一級魔法まで到達したかもしれない」
「!!」
そして、リンフィアの姿が変わった。
俺は直接見るのは初めてだったが、なるほど。
魔王らしい姿だが、あれは確かにリフィだとはっきりわかる。
呑まれてはいない様だ。
「ああ、リンフィア様………なんと立派なお姿に………」
「怪我が治っている………変化時に起きる副作用みたいなものか? 何にせよ治ってよかった………今さっきまでのは余計な世話だったかもな」
正直、正気を失いかけていた。
理性を飛ばして怒りのまま奴を殺し、残る敵対勢力をも皆殺しにしていた可能性は高い。
「お前、さっき私に待てとか言った割には一番に怒り狂っていたな」
「仕方ねぇだろ」
「まぁ………………気持ちはよく分かる。正直、お前に言われてリンフィア様の目をみていなければ、私もバルムンクを抜いていた」
「ああ………」
奴への怒りが収まったわけじゃない。
今でもハラワタ煮えくり返っていてどうにかなりそうだし、可能であればズタボロに殺してやりたい。
だが、少なくともまだ我慢できる。
あいつが勝つと誓ったのだ。
言葉がなくともわかる。
俺は、あいつを信じたい。
「負けるな………負けるなよリフィ!!」
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「はっ………それは確か、報告にあった形態だね。うちのもう1人の裏切り者の由知くんと戦った姿」
律人の警戒が強くなる。
やはり乃坂 由知という男はそれほどの男だったと分かる。
「どれだけ強くなったかは知らないけど、楽しめそう、だッッッ!!」
律人が一気に飛び出す。
リンフィアの目の前まで飛び、硬い木の枝を剣のように変形させる。
そして地面をしっかりと踏み込み——————
「!?」
その瞬間、地面がぐらりと傾いたかと思うと、周囲から無数の土の針が飛び出した。
今までとは比較にならない精度と強度の魔法に驚愕しつつ、巨大な花を目の前に咲かせて防御する。
「っ、なん————————————」
気がつくと、周囲に薄い氷の板が出現した。
様々な面にリンフィアが写っていた。
「ははははははははははは!!! すごい!! よもや変身一つでここまで強くなるんだね!! ぼかァ!!」
律人がググッと丸々と、全身からサボテン針の様なものが飛び出し、板を全て破壊した。
「嬉しいよ、リンフィアちゃ………!?」
リンフィアは遥か上空で翼を羽ばたかせて飛んでいた。
そしてついに、リンフィアは殻を破る。
『————————————剛強なる不屈の肉体は天上を突破し、限界を忘れ、ただひたすら強さを求める。我は鋼の凶器なり——————【クインテットブースト】』
強化一級魔法・クインテットブースト
詠唱魔法における最高峰、一級魔法にリンフィアは到達した。
黒いオーラにだんだんと白く、力強いオーラが溶け込む。
「【ライトニング】」
二級の詠唱短縮。
腕に巻きつくように雷を纏った。
完全に攻撃態勢になったリンフィアはギロリと律人を睨みつける。
「ッッッ………………!!! その眼、その表情………ああ、ああああははははははははは!!! いい!! すごくいいよ!! もっとだ、もっと見せろォォオオオ!!!」
律人は上空へ飛びながら腕に大木を纏わせ、その巨大な腕でリンフィアを攻撃した。
「………」
フワッ、と軽く上空へ飛び、そして反転。
真下を向いたリンフィアは、黒い翼を羽ばたかせ、超スピードで急降下した。
「ハァァァァァアアアアアアアッッッッ!!!」
「ガァァァアアアアアアアアアッッッ!!!」
二つの拳が今、重なる。
ピキィイッッ!! という高い音の直後、ライトニングによる電撃轟音が会場中に鳴り響いた。
その瞬間、律人の植物の腕は爆ぜ、同時にリンフィアも少し弾き飛ばされた。
「チィッッ………………!!」
「くッッッ………………!!」
すぐさま魔法を用意するリンフィア。
律人も植物の鎧から千手観音の様に無数に枝を伸ばした。
「まだまだァア!!!」
「負けるもんかァアッッ!!!」
愉悦と意地がぶつかり合う。
動機は違えど、どちらも本気あることに変わりはなかった。
そして、戦いは続く。




