第473話
「フゥッ!!」
「そーら、こっちだ」
光魔法を巧みに使った分身の生成。
そこに闇魔法も加え、視界をぼやけさせ、加えて魔力を少し垂れ流すことにより、気配を分かりづらくしている。
「背後にも気を付けろ」
「!!」
リンフィアが纏わせた【ブレイクサンダー】を腕に纏ったリルが、律人を襲った。
「がァアアアアアアアアッッッ!!」
眼を狙う鋭い貫手を植物で防ぎ、背後からリルを狙う。
しかし、今度はリンフィアが防御魔法で植物を防ぎ、リルが攻撃を跳ね除けた。
「ふぅーっ………」
「流石に3対1じゃ不利かぁ」
不意打ちを掛けてきた他の生徒を弾き飛ばしながらそう言った律人。
ここで咄嗟気がつく。
「! 上かッッ!!」
「チッ………………」
何とか迫っていたファリスを咄嗟に木を生やしてガードする。
少し荒い息遣いと滴っている汗が、律人の焦りを物語っていた。
「本当に厄介だ………」
律人はそう言う。
だが、正直それはリンフィアも一緒だった。
まさかここまでしぶといとは予想外だったのだ。
向こうは多少焦ってはいるものの、決定的なダメージを与えるには至っていない。
こちらは3人掛かりであるにも関わらず、だ。
「でも………」
でも確かにダメージはあった。
ならば、このまま攻めるのみ。
「フッッ!!」
リンフィアは無造作に飛び出した。
律人は困惑した。
武器も持たず、魔法を使う様子もなく何を考えているのだ、と。
「まぁ………攻撃すれば分かるか?」
律人は先程のタンポポをもう一度放った。
当たれば爆発する。
しかし、リンフィアは躊躇なく走って来ていた。
律人は、アレが作り出された幻覚かどうか疑う。
しかし、向こうを鑑定に掛けても確かに視た方角にリンフィアはいるのだ。
「一体何を考えて—————————!?」
律人の顔に驚愕の相が浮かぶ。
なんと、リンフィアにタンポポが触れても爆発しないのだ。
そう、その方角に確かにリンフィアはいた。
しかし、これは光魔法ではなく、魔法で生み出した蜃気楼が、距離感を狂わせていただけの簡単なトリックだったのだ。
流石にこれはおかしいと思う律人。
すると、
「こっちです!!」
「!!」
背後からリンフィアの声が聞こえた。
しかし、振り返っても誰もいない。
これは音魔法だ。
律人はすぐ様正面を向く。
しかし、
「何!?」
誰もいない。
どこに行った、どこに消えたんだと辺りを探す律人。
そして突如、巨大な魔力を頭上に感じた。
「アレは!?」
巨大な炎の槍。
そこにあったのは、炎二級魔法【プロメトスピア】だった。
マズイ、と思った律人は即上に防御を固めた。
そして数秒後、異変に気がつく。
攻撃が放たれない————————————
そして、接近を許してしまったリンフィアの気配に気がついてようやくその意図を察した。
「二級を囮にしたのかッッ!?」
返事の代わりに帰って来たのは、
「ハァアアアアアア!!!」
超至近距離から放たれた【フレイムキャノン】だった。
豪炎が、律人の体に触れ、一気に炎上。
「ぐッ、ぉ、オオオオオオオオ!!!」
荒ぶる炎が、確かな一撃を与えたのだった。
しかし、
「ッッッ、ハァッアアッッッ!!!」
炎が消え去った。
「そん、な………………………っぁ!!」
ガクっと、膝をつくリンフィア。
少しずつ、今の一連の攻撃の弊害が出だしていた。
「ハァッ、ハァッ………」
連続の高レベルな魔法の使用で、一種の魔力障害が発生する。
1分ほどは休憩が必要そうだった。
ファリスは、リンフィアの肩を叩いて、ここは任せておけと言って律人の方へ向かっていった。
「お嬢、大丈夫か!?」
リルが駆け寄って様子を伺う。
リンフィアはコクリと頷くが、多少強がっているのも確かだった。
「あまり………長い間は休めません………」
リンフィアは苦しいのを抑え込み、ギリッと歯を食いしばって戦いの様子を見た。
そこでの戦いは、まさに圧巻だった。
「お嬢、あの女………凄まじいぞ」
「流石この国で最強の魔法使いですね………詠唱魔法を使うだけの枠には収まってないです」
次元の違いはわかっている。
だが、何もしないわけにもいかない。
目で追えているし、駆け引きも理解している。
あれは決して届かない次元ではないのだ。
手を伸ばせば届く。
背伸びをするなとヒトはいうが、正直場合によるだろう。
今は背伸びをするべきだ。
背伸びをして上に行こうとするから、ヒトは成長するんだという事を、よく理解している。
リンフィアはグッと拳を握りしめる。
戦う方法ならある。
「………リル」
「何だお嬢?」
「アレを使います」
「!! ………ほぅ?」
リルは、人間体の子供の姿には似合わない悪そうな笑みを浮かべる。
ちなみに、性別は内緒だとの事だ。
クリーム色の毛で、中途半端の長さの髪型。
顔つきは美少年とも美少女ともどちらと言われても納得できる中性的な顔つきだ。
なんにせよ、これはそんな純朴な子供からは絶対に浮かばない悪い笑みである。
「ふはははは!! 全くヤンチャなお嬢だ。数年と会わんうちに逞しくなりおって。小僧に叱られてしまっても我は知らぬぞ?」
「仕方ないです。それに、どの道使うつもりでしたので、覚悟はしてます。リルの体にも多少の変化はあるけど、大丈夫ですよね?」
「うむ、我は一行に構わぬさ。お主が強くなれば成る程我は以前の様に力が震えるのだからな」
リンフィアはコクリと頷いてアイテムを取り出した。
それは、真っ黒い箱型の何かだった。
いつ使うか見定めるべく、再びファリス達の様子を見る。
すると、いつの間にかリンフィア達3人を残して、ステージ上には誰も残っていない事に気がついた。
そして、
「ッッ………………!!」
「学院長!!」
ファリスも苦戦している様だった。
「いやぁ、大したものだと思うよ。ぼかぁ、ここまで賢い人を見たことない。使い魔禁止、一級、二級魔法の使用回数制限。武器の所持禁止。いくら三帝とはいえやり過ぎ感は否めないと思ってたけど、まさかここまでしぶといなんてね」
「チッ………」
ファリスとしては、なるべく内密に、穏便に処理したいのだろう。
生徒の間に不安が広がるのを防ぐために、わざわざルールに則って戦っているのだ。
「リンフィア………すまんが、あまり保ちそうもない」
「!!」
衝撃の一言だった。
正直言って、まだ少しはファリスに頼るつもりだったのだ。
あの三帝と肩を並べて戦えば、勝てると思っていた。
ハンデがある状態でも、隣で指示を出したり、戦い方を導いてくれれば勝率はグッと上がる。
だが、ファリスの今の一言。
これはかなりリンフィアを動揺させてしまった。
「焦るな」
「!!」
ファリスが隣でそう呟く。
「魔法使いならば、いついかなる時も冷静である事を忘れず、全てを俯瞰しろ。見て、観て、診て、視るんだ。観察し、そこから道を創り出す。魔法というものは、そういうものだ。そうする事を忘れてしまったが故に、我々は種として弱くなり、魔法文化も僅かばかりしか残らなかった」
悔しそうに、そして何かを背負った様な強い言葉だった。
「いいかリンフィア。奥の手があるのなら、私が脱落して以降使え。どの道私の試合参戦時間は制限付きだ。それになれていない私と合わせるのならば、そこの狼に助けを求めればいい。無謀な共闘はかえってやり辛いぞ」
制限。
ファリスには、予選に限り時間制限がつく。
その時間まで、もう残りわずかしかなかったのだ。
「それじゃあ、任せるぞ」
「………わかりました!!」
ファリスは一気に律人へと向かっていく。
そして、
「カッコ付かない事この上ないが、もう時期私は脱落だ。見事だった」
「それはどうも」
律人の警戒は既に最高限度まで上がっていた。
何か来る。
間違いなく何かが来ると言うことを感じていた。
だが、それは目に見えない変化。
ファリスはニヤリと笑う。
「せっかくだ。最後に一発派手なのをかますか」
「!!」
律人は空気の変化に気がつく。
ファリスの風魔法により、それは起こされていた。
「非常に燃えやすい空気だ。気をつけろよ?」
「!? 今日こんなんばっか—————————」
大炎上。
本日3度目、律人は煙を吐く羽目になった。
だがこれで、ファリスの攻撃が、終わってしまったのだった。




