第469話
「なっ………」
俺はおもわず立ち上がった。
まだ異世界人が紛れていたのか?
「チッ………………面倒な………いるとは思ったが、まさかリフィと同じブロックになっちまったか………つくづく運がねぇ………」
幸いリンフィアはまだ無傷だ。
今のうちに呼び戻すという手もある。
だが………
「おいケン………アレからは魔力を感じない。奴が使っているのは、固有スキルじゃないのか………?」
既に数回目にしたことのあったニールが反応する。
異世界人………特にルナラージャの異世界人の強さは、ニール自身が身をもって知っていた。
「ああ………」
「なっ………………!? 今すぐ止めに行くぞ!!」
ニールが慌てて止めに行こうとした。
だから俺は、
「待て」
「!?」
俺はニールの手を掴んでニールを引き留めた。
ニールは驚きの顔を浮かべ、俺を見た。
すると、みるみるうちにその表情は焦りと憤怒に包まれる。
「お前正気か!? これは試合じゃないんだぞ!?」
「わかってる」
「だったら尚更何を考えているんだ!? これは死合となっているんだぞ!! わかっているのか!? そんな危険な場所で、リンフィア様を戦わせるわけにはいかない!! 」
ニールは静止を振り切ってそのまま行こうとした。
だから俺は、腕を引っ張って、それをまだ止める。
「いいから黙って見ろ。あいつは、戦う気満々だぜ?」
「は—————————————」
ニールはリンフィアを見た。
すると確かに、戦う意思を持っていた。
「守ることはいつだって出来る。でもな、変わる事はいつでも出来るわけじゃねーんだ。人が変わるにはきっかけがいるんだよ。これはその気かっけになるかもしれねェんだ」
「………っ、だが………!!」
「あいつは、ここで化けるかもしれねェ、いや………絶対にここで化ける。そのために修行をさせたんだ。だから、戦わせてやってくれ。この通りだ、頼む………」
「〜〜〜〜〜〜!! 」
ニールはそのまま席に戻ると、ハラハラした表情でリンフィアを見ていた。
助けに行きたい気持ちは、俺も痛いほどわかる。
だが、あいつは何処かこの試合を楽しみにしていたみたいだったのだ。
多分、俺たちに強くなった自分を見せるためだ。
「ったく………無茶しやがって………」
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「あれぇ? ぼかぁてっきりヒジリケンなら直ぐに助けに来るかと思ったんだけどなぁ?」
植物が飛んでくる。
杖でいくつかいなしつつ、受けきれなかった植物を炎魔法で炙る。
ボロボロになった植物を、今度は風魔法で引き裂きながら、一気に距離を詰めた。
「フッッ………………!」
リンフィアは杖を棒の代わりに振って攻撃をするが、地面から生える植物に尽く邪魔をされた。
「べ」
律人がそういうと、人間の舌のような形のピンク色の植物が飛び出した。
妙な予感がしたリンフィアはそれを回避すべく横に飛ぶ。
次の瞬間、舌に触れた地面が薄らと溶け始めた。
「わぉ」
「っ!!」
恐ろしい植物だ。
だが、ビビっている暇もない。
地面から生えた植物を、土魔法で封じ、威力を殺してなんとか攻撃を回避した。
「おぉ! すごい!! なかなかやるじゃないか。ぼかぁ、嬉しいよ」
「………」
リンフィアはギュッと杖を握りしめた。
のらりくらりとしているが、この男、まるで油断がなく、隙も一切ない。
間違いなく、リンフィアがこれまで戦ってきた人の中でもトップクラスの強さだった。
「だから——————こんなのどう?」
「!!」
地面から食人植物が生えてきた。
人の形を模した化物。
なるほど、自分にぴったりだと思うリンフィア。
スッと息を吸って、魔法を一気に構築する。
炎魔法を広範囲に何重にも重ねた【ファイアフェーブ】を放つ。
植物たちが燃え、暴れだす。
ジッと観察をして、動きを予測し、口に出しながらそれをかわす
「上段横なぎ、突き五回、広範囲攻撃から挟み撃ち………」
しゃがんで上段を躱し、杖をうまく使って突きを防ぐ。
広範囲攻撃には同じく広範囲の魔法をぶつけて、挟み撃ちは二つの攻撃の間をすり抜けてカウンターを入れた。
「ふぅーっ………っ………当たりましたか………」
この戦い方はケンの真似だ。
だが、やはりそう上手くいかず、数発もらってしまう。
回復魔法で傷を癒し、再び杖を構えた。
「はははははははははは!! いいじゃない!! それでこそ潰し甲斐があるよ!! だったら、次のを生き延びたら、ご褒美に一つお話をしてあげよう」
「っ、何を………」
「行くよ………【世界樹】」
「!!!」
世界樹。
これが律人の固有スキルだった。
ランクはなんとSSS。
これは、命の神の影響を受けた固有スキルで、非常に強力なものになっている。
その能力は——————自らが考えた植物を、生み出す事。
「“タンポポ”」
律人の命令通り、タンポポが現れる。
すると、
「————————————!!!」
タンポポは周囲に綿毛を飛ばしまくって、消えた。
リンフィア達の周りには今大量の綿毛が飛んでいる。
すると、律人が指を出して炎を灯した。
そして、こう言うのだった。
「さぁ、もっと楽しもうよ!!!」
炎の灯った綿毛が、一瞬で連鎖爆破を起こす。
すさまじい爆音と共に、会場を黒煙と不穏な空気が包むのであった。




